表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
165/198

第135話:忠犬の咆哮

 ライアンの左腕が床に落ちた瞬間、空気が張り詰めた。

 その隙を逃さぬよう、PIROの影がすぐさま迫る。拳がうなりを上げ、無防備なライアンへ突き刺さらんとした。


 「させませんッ!」

 「ガァルルッ」


 Daiとコルクが飛び込む。

 剣先が閃き、PIROとライアンの間に割って入る。

 コルクがPIROの太ももにかみつく。

 火花が散り、PIROはわずかに体を捻って攻撃をいなした。


 「下がってください、ライアン!」


 Daiが叫ぶが、返事をする余裕はない。


 「ふんっ!」


 PIROが足を振ってコルクを引き離す。


 その背後から焼大人が踏み込み、掌底から衝撃波を叩きつける。


 「どっせぇぇいッ!」


 PIROはそれを真っ向から受け止めはせず、ひらりと後退する。

 だが焼大人の狙いは正面突破ではなかった。

 ライアンから敵を引き離す――その意図通り、距離が開いた。


 「……今のうちに!」


 リセルが駆け寄り、ライアンの肩に手をかける。切断面を素早く布で縛り上げ、血を止めようと必死だった。


 「まだだ……俺はまだ戦える!」


 ライアンが荒い息で抗う。


 だがその時。


 「……!」


 誰も気づかぬうちに、PIROの手にはライアンの切り落とされた左腕が握られていた。


 しかし次の瞬間、骨が軋み、肉を裂く咀嚼音が廊下に響いた。


 「……犬の骨よりも硬いな。だが悪くはない」


 血に濡れた断面を無造作に口へ突っ込み、骨を噛み砕く鈍い音が響く。

 肉片を飲み下しながら、PIROは赤黒い唇を吊り上げ、愉悦に満ちた目で彼らを見下ろした。


 「う、腕を……」


 リセルの声が震える。

 ライアン、焼大人、Dai――誰も言葉を返せない。

 目の前にいるのは自分たちを捕食するものだと。

 ただ、理解を拒絶するように目を見開くしかなかった。


* * *


 そこからの戦況は、地獄そのものだった。

 剣が折れそうな衝撃、掌が裂けるほどの衝撃波、矢羽が砕けて散る音。

 必死に防いでも、次の瞬間には別の拳が迫り、足場は砕け、呼吸さえ奪われていく。

 PIROの一撃一撃は重すぎる。

 防いでも、逸らしても、衝撃だけで全身が削られる。

 ライアンは片腕で必死に剣を振るい、焼大人は血を吐きながら掌を撃ち続け、Daiは無数のナイフを投げ、リセルは矢を雨のように射かけた。


 しかしすべてが「時間稼ぎ」にしかならない。

 押し返せず、ただ押し込まれる。

 足場が砕け、瓦礫が散り、体力と気力が蝕まれていく。


 「ハッ!」


 リセルが矢を放った刹那、その矢をかき消すように、PIROの拳が弾丸のごとく突き出された。


 「――っ!」


 迫る拳が視界を覆い、時間がスローになる。


 (あ……ダメだ。頭が吹き飛ぶ)


 リセルは直感で悟った。

 視界が赤く塗りつぶされ、世界が閉ざされる。

 死が、すぐそこにある。


 その刹那。


 「ガウゥゥッ!」


 横合いからコルクが飛び出し、体当たりで拳の軌道を逸らした。

 轟音。

 風圧。拳はリセルを掠めただけで壁を粉砕した。


 「コルク!」


 だが――終わりではなかった。

 PIROの腕は止まらない。

 二撃目が唸りを上げ、今度はコルクの脇腹を直撃した。


 「きゃいんっ……!!」


 小さな悲鳴と共に、コルクの体は無残にも宙を描き、床を何度も弾んでDaiの足元へ転がり込んだ。

 瓦礫の上で痙攣しながら、なお主人を探すように首を動かす。


 「コルク!」


 Daiが駆け寄り、抱き上げる。


 焦点の定まらない瞳が、主人を見つめる。

 「まだ一緒にいたい」と訴えていた。


 「……わふん……」


 弱々しい声。


 「……よくやってくれました。立派でしたよ。さすが私の相棒です……」


 Daiの手が震えながらも、コルクの傷を確かめる。

 だが――もう手の施しようはなかった。


 「今は……ゆっくり休んでください。落ち着いたら……また一緒に店をやりましょう」


 コルクの瞳が細まり、かすかな安堵を宿した。

 小さな尻尾が、主人に応えるように最後の力で一度だけ揺れた。


 「……くぅん……」


 瞼が閉じられ、体から力が抜け落ちた。


 「……っ!」


 ライアンは奥歯を噛み砕き、リセルは矢を放てぬまま弦を握りしめて震えていた。

 焼大人の拳は宙で止まり、誰一人として次の一歩を踏み出せない。

 コルクの死を受け入れたくなくて、それでも視線を逸らせなかった。


 重苦しい沈黙を切り裂いたのは、PIROの低い笑い声だった。


 「犬ごときに、私の攻撃を逸らされるとはな……」


 口角をわずかに吊り上げ、愉悦と侮蔑を混ぜた笑みを浮かべた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ