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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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第133話:新たなる来訪者

 リクは一瞬、突如現れた影――Fumに気を取られた。

 まるで地面を破って飛び出したかのように姿を現したその存在は、場違いなほどに軽薄な笑みを浮かべていた。

 だがリクはすぐに我に返り、倒れ伏すエリナのもとへと駆け寄る。


 「エリナ!! 大丈夫か!?」


 声は焦燥で震えていた。

 必死の呼びかけに応じるように、エリナのまぶたがわずかに揺れる。

 だが彼女の衣は血に濡れ、胸はかすかに上下するだけ。

 唇は血の気を失い、吐息は氷のように薄く儚い。

 杖を握るどころか、指先すら動かない。

 今にも命の灯火が吹き消されそうな姿に、リクの胸は締めつけられ、背筋を凍らせる恐怖が押し寄せた。

 ――それでも、その瞳にはまだ確かな光が残っていた。

 それは消えゆく灯ではなく、必死に生を繋ごうとする意志そのもの。

 リクはその輝きにすがりつき、歯を食いしばった。

 「絶対に守る」――恐怖は、決意へと変わっていた。


 魔王ルシファーはそんな光景に一瞥もくれず、Fumへと漆黒の瞳を向ける。その視線は鋭く、だがどこかで「なぜここに」という驚きを含んでいた。


 「……何者だ。ここは易々と踏み入れることのできる空間ではない」


 重い声が空間を震わせる。

 だがFumは怯むどころか、にやりと笑みを深め、肩をすくめた。


 「俺が天才だからだよ。あなたはどこのどなたさんか存じないけどね♪」


 その調子はまるで学園祭の舞台で自慢話を披露する学生のようだった。

 半身はまだ地面の穴から覗いており、どうやら地上から魔王城へ直結する通路を繋げたらしい。

 それだけでも異常な所業だというのに、Fumはそれを得意げに専門用語を交えながら解説し始めた。


 「異空間の層は三重構造でね、座標干渉を上書きすれば直通ゲートが開くんだよ♪ この理論を証明できたのは俺くらいだろうなぁ! おっと、このエネルギー干渉式を見ろよ、芸術だと思わないか?」


 場違いすぎる軽口と饒舌さに、リクも魔王も言葉を失う。

 緊張の糸が唐突に緩み、死地に不釣り合いな違和感が空気を歪めた。

 リクの胸に「夢でも見ているのでは」という錯覚すら過った。


 その時――。


 「Fum技長! 前に進んでください! 後ろがつっかえているんです!」


 穴の奥から声が響く。

 苛立ち混じりの鋭い声だった。


 「ちぇっ、今いいところだったのに……」


 ぶつぶつと文句を言いながら、Fumはしぶしぶ穴から這い出る。

 その直後、重い鎧の音を響かせながら、一人の騎士が姿を現した。

 堂々たる足取り――サクラ元団長だった。


 さらに続いて、白濁した湯気を裂くように、うさぎと猫の仮面をつけた忍びの影が滑り出てくる。


 「技長! 下がっていてください!」


 サクラ元団長が短く命じる。Fumは肩を落としつつも渋々後方へ退いた。


 団長の鋭い視線が、すぐさまリクへと注がれる。


 「リク、大丈夫か?」


 「サクラ団長……! 生きていたんですか!」


 驚きと喜びの入り混じった声。

 リクの胸に、わずかな希望が灯る。


 「Fum技長の鎧が、思った以上に魔人に肉薄していたようだ。しかも……今回は完成版だ。もうお前たちだけに背負わせはしない。私も、人類の未来のために共に戦う!」


 言葉には自信と誇りがにじんでいた。


 その斜め後ろで、猫の仮面をかぶった忍者が一歩進み出る。


 「リク、エリナは大丈夫ですか?」


 仮面を外した瞬間、リクの目が大きく見開かれる。


 「リリィ……!」


 声は震え、胸の奥に熱がこみ上げる。

 灰色の絶望に押し潰されかけていた心に、突如差し込んだ一筋の光。

 その光は温もりとなって広がり、リクに「まだ戦える」と告げていた。


 さらに、うさぎの仮面をつけた忍者が低く力強い声を放つ。


 「私たちが時間を稼ぎます。あなたはけが人を退避させてください」


 リクは強く頷き、エリナを抱きかかえて仲間たちから距離をとる。


 「……頼んだ!」


 サクラ元団長は大きく声を張る。


 「うさぎ! ねこ! われらで何とかするぞ!」


 「「はっ!」」


 うさぎとリリィが、力強く応じた。


 魔王ルシファーは沈黙したまま動かない。

 だがその静けさこそが異様だった。

 圧倒的な魔力が地の底から噴き上がり、空気を圧し潰す。

 岩壁は軋み、炎は揺らぎ、仲間たちの心臓すら鷲掴みにされるような圧迫感。

 言葉なき威圧――それこそが死闘の幕開けを告げる合図だった。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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