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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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第130話:極致

 戦闘が始まって、まだわずかな時間しか経っていない。

 それでも魔王城の広大な廊下は、すでに本来の威容を失っていた。

 豪奢な赤い絨毯は所々で裂け、瓦礫と灰に塗れて黒ずみ、鼻を刺す血の匂いと焦げた石の粉塵が充満している。

 壁に並んでいた壮麗な彫像は腕や首を欠き、砕けた漆喰の塊が床に散乱しては、踏みしめるたびに鈍い音を立てた。

 かつては静謐で荘厳な空間だったはずの廊下が、今では地獄の戦場と化している。


 荒い息を吐きながらも、ライアン、リセル、焼大人、Dai、そしてコルクは立ち続けていた。

 いや、正しくは――立たされていた。

 圧倒的な格の差が、彼らを意地と気迫だけでこの場に縛りつけていたのだ。


 「シッ!」


 血で濡れた手でナイフを構え、Daiが牽制のために投げ放つ。

 銀の刃が闇を裂く――しかし。


 「ソニックムーブ」


 その言葉と同時に、音すら追いつけぬ残像が走る。

 PIROの姿が視界から掻き消え、気づいた時にはDaiの目前に迫っていた。


 「……ッ!」


 投げたナイフは空を裂き、虚しく壁へと弾け散った。

 次の瞬間、Daiは反射で剣を抜く。


 ――ガキィィン!


 金属の悲鳴と共に、肩に鋭い衝撃がめり込み、腕の骨が悲鳴を上げた。

 全身を貫く激痛に、今にも膝が折れそうになる。

 だが肩口から鮮血が飛び散りながら、必死に踏みとどまった。

 そして剣を返し、かろうじてPIROの頬に薄い裂傷を刻んだ。


 「……無駄ではない。だが届かぬな」


 余裕の声が、崩れた廊下に不気味に響いた。


 「ガウ! ガウ! ガウッ!」


 すかさずコルクが吠え、背毛を逆立てながら牙を剥き、一直線に飛びかかる。

 だが――。


 再び――ソニックムーブ。

 空気が裂け、視界から掻き消える。

 残像だけが廊下を切り裂き、次の標的へと迫る。


 次の標的はリセルだった。

 弓を引く余裕すら与えられず、リセルは腰の短剣を引き抜き迎え撃つ。


 「これしか……ない!」


 気迫の突き出し。

 しかし、その刃は容易く弾かれた。

 脇腹を鋭く打ち抜かれ、肺が潰れたように呼吸が詰まる。

 視界が一瞬白く染まり、口端から鮮血が滴る。

 それでも倒れはしない。

 片膝をつき、苦鳴を押し殺しながら短剣を握り直す。


 「……まだだ、戦える!」


 その一瞬を逃さず、ライアンが剣を振り抜く。


 「斬り伏せろォッ!」


 圧縮された斬撃が飛び、PIROの進撃を押し戻す。

 だが――その隙も一瞬。PIROの標的は焼大人へと移っていた。


 「わしに来るか……!」


 焼大人は両掌に気を練り上げ、轟音と共に連射する。


 「どっせぇぇぇいッ!」


 爆裂の奔流が廊下全体を呑み込む。

 轟音が耳を劈き、瓦礫が宙を舞い、床石が砕けて跳ね上がる。

 だが――その混沌すらも利用し、PIROは爆風を足場に影のごとき速さで踏み込んでくる。


 「なにっ――!」


 次の瞬間、焼大人の体は床に叩きつけられ、顔を擦りながら石畳を滑った。赤黒い血が絨毯を汚して広がる。


 「ぐ……ふ、まだ立てるぞ……!」


 呻きながらも片膝で踏ん張り、再び掌を構える。

 その眼光は折れてはいない。


* * *


 「ふむ…… この程度では物足りんな」


 PIROは立ち止まり、余裕すら漂わせて腕を組んだ。

 その動作は戦場の只中にあるとは思えぬほど静かで、挑発的ですらあった。

 ライアンたちは全身に血と埃を纏いながら、荒い息を吐きつつも構えを崩さない。


 「おまえたちの予想通り、私は一つの技しか使えぬ。だが――」


 冷笑を浮かべ、低く響く声が廊下を満たす。


 「我が必殺は極致に達している。直線のみと思うのは、大きな間違いだ。生き残って見せろ」


 その言葉を証明するかのように、ソニックムーブが再び発動した。

 しかし今度は違う。

 音を置き去りにするような疾走ではない。

 両腕を大きく広げ、まるで世界そのものを閉ざすように歩む。

 迫る速度は緩やかですらあるのに――逃げ道そのものが潰されていく。


 「……なんだ、これは……!」


 ライアンが右へ回れば、PIROは右へ。

 左に振れば、やはり左へ。

 まるで「逃げ道という概念」そのものが塗りつぶされていく。

 矢も、気弾も、ナイフも虚しく空を裂くだけ。PIROは止まらない。


 「止まらねぇ……!」


 そして――ライアンの眼前に迫った。


 「ッ!」


 反射的に体をひねり、バックステップで回避する。

 だが遅かった。

 広げられた腕がライアンの左腕を斬り裂いた。


 「ぐあああああッ!」


 遅れて鋭い痛みが走り、血が爆ぜる。

 左腕が宙を舞い、乾いた音と共に石畳に転がった。

 絨毯は瞬く間に深紅へと染め上げられていく。


 「「「ライアン!!(ワンッ!!)」」」


 仲間たちの叫びが重なる。


 それでもライアンは歯を食いしばり、片手で剣を握り直した。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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