第10話:最初の街とギルド
村を出て数日後。リクとエリナは、最寄りの街『フェルダン』へと辿り着いた。
そこは、これまで二人が見てきたどの場所よりも賑わいと喧騒に満ちていた。石畳の道を行き交う人々の数、馬車の音、屋台から漂ってくる香ばしい匂い……どれもが新鮮で、圧倒されるばかりだった。
「すごい……こんなに人がたくさんいる場所、初めて見たかも」
エリナは目を丸くしながら、左右を忙しく見渡していた。色とりどりの布をまとった旅人、荷物を引く商人、子どもたちの笑い声が混ざり合い、どこか絵本の中に迷い込んだかのような感覚さえあった。
「俺も……こんな大きな街は初めてだ……」
リクも圧倒された様子で辺りを眺めている。普段より少しだけ背筋を伸ばし、胸元のボタンを無意識に直しながら、なるべく堂々としようと努力していたが、視線はどこか落ち着きがない。
「な、なぁ……あれ、何してるんだ? 荷台の上で叫んでるあの人……あんなの、村じゃ見たことないぞ……」
リクが小声で言った先には、装飾の施された台の上で何やら熱弁を振るう人物の姿があった。
「えっ、あれは……えっと、商人……? いや、でも、なんか違うような……」
エリナも首をかしげて考え込むが、見当もつかない。都市部の文化に触れたことがない二人にとって、目に映るものすべてが未知だった。
「父さんが言ってた『ギルド』って、どこにあるんだろう?」
リクは人混みの中、道の端に立ち止まりながらあたりの建物を見回す。しかし、どれがそれなのかまったくわからない。店先に掲げられた看板には何やら文章や絵が描かれていたが、装飾が凝っている分、余計にわかりづらい。
「こっちかな……? でも人の流れが逆だし……」
エリナは一歩引いて、流れに逆らうのを躊躇うようにリクの袖をつまんだ。歩く人々の速度に焦りつつも、変に立ち止まっては邪魔になりそうで動けない。
「うーん、迷ったかもな……」
困り果てたその時――。
「おい、君たちも冒険者か?」
不意にかけられた声に、リクとエリナはびくりと肩を跳ねさせて振り向いた。
そこには、筋肉質な体格に赤いケープをはためかせた青年が立っていた。背には大剣を背負い、風に流れる黒髪と鋭い眼光が印象的な男。だがその表情はどこか柔らかく、穏やかさも感じさせる。
「冒険者? えっと……俺たちは、父さんにギルドに行けって言われて……」
リクは緊張の色を隠せず、たどたどしく答えた。視線が定まらず、体の動きにもぎこちなさが残っている。
「ははっ、本当に初々しいな。……いや、見れば分かるか」
青年――ライアンは、苦笑しながら腕を組み、二人をじっと見つめた。表情には、どこか懐かしさと親しみが浮かんでいる。
「でも、迷ってるんなら教えてやろうか? ギルドならこの通りをまっすぐ進んで、角を二つ曲がったところにあるよ。案内してやってもいい」
「本当ですか!?」
リクとエリナは同時に顔を輝かせた。特にエリナはほっとしたように胸に手を当て、リクも自然と口元が緩んだ。
「ま、せっかくだしな。あんたたち、何も知らなそうだし。ギルドの中のことも、少しくらい教えてやるよ」
「……助かります!」
リクはぺこりと深く頭を下げた。エリナも丁寧にお辞儀をしながら、「ありがとうございますっ」と、心からの感謝を込めて言った。
こうして、フェルダンの街に立ったばかりの二人は、思いがけない導き手を得て、初めての一歩を踏み出すことになった。
まだ見ぬ冒険の世界は、すぐそこまで広がっている――。
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