表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
159/198

第129話:強欲の魔人、初撃

 重苦しい空気の中、ライアンが大剣を肩に担ぎ直し、鋭い眼光で前を睨んだ。

 汗が額を伝い落ちるのをそのままに、口を開く。


 「……なぁ焼大人。あのソニックムーブ、どう対処する?」


 刹那、静寂を切り裂くように放たれた問い。

 仲間たちの呼吸が一瞬止まり、視線が焼大人へ集まる。


 焼大人は目を細め、顎を引くと、低く鋭い声で答えを返した。


 「まずは散って距離をとれ! あやつの“ソニックムーブ”は直線にしか走れん。一人を狙えば、残りは生き残る。……皆の者、恨みっこなしぞ!」


 その言葉は戦術であると同時に、命の選別を告げる冷酷な宣告でもあった。

 だが仲間たちの目には恐怖の影はなく、それぞれの中で静かに燃える炎が灯っていた。


 「へっ、今さら恨みっこなんて性に合わねぇな」


 ライアンは口元を歪めてニヤリと笑う。

 その笑みは虚勢ではなく、迫る死を前にしてなお熱を帯びる戦士の本能。


 「ふふ、覚悟はとっくにできてる」


 リセルは矢を番え、呼吸を整えた。

 指先は揺らぎなく、張り詰めた空気を引き絞った弓へと込めていく。


 「俺も同感だな。まぁ、死ぬ前に一杯やりたいけどね」


 Daiがナイフを指先で弄びながら、肩をすくめてみせる。

 軽口を叩くその声は震えていない。

 むしろ場の空気をほぐし、仲間に冷静さを取り戻させる力があった。


 張り詰めた場の中で、不思議な一体感が漂う。

 それは死地に立つ者たちだけが分かち合える、戦友の絆そのものだった。


 「なら、やるぞ!」


 ライアンが叫び、大剣を振りかぶると、天井に向けて斬撃を放つ。


 ――ズガァァンッ!


 轟音が石造りの廊下に反響し、漆喰と彫像の破片が雨のように降り注いだ。

 崩れた石材が赤い絨毯を裂き、白い粉煙が視界を覆い尽くす。


 「よし、これで奴の軌道が少しは制限できる……!」


 ライアンの声に仲間たちが応じるより早く――。


 ――シュンッ!


 空気が裂けた。

 目にも止まらぬ速さで、PIROの姿が視界から弾かれるように消えた。

 残像だけを残して放たれたのは、必殺のソニックムーブ。


 「ワンッ!」


 コルクが吠えた。

 背毛を逆立て、低く唸りながら前足を踏み鳴らす。

 その吠え声は、迫る殺意を誰よりも早く察した警鐘だった。


 「来るか!」


 ライアンが即座に反応する。

 体をひねり、後退する。そのわずかなバックステップが命を繋いだ。

 PIROの疾走は髪の毛を掠めるほどの距離を通り抜け――すれ違いざま、大剣が閃いた。


 ――ガキィィン!


 火花が散り、鋼鉄を裂くような轟音が響く。

 刃はPIROの肩口を掠め、血飛沫が宙を舞った。


 「今だ!」


 ライアンの咆哮が響く。


 「任せて!」


 リセルの矢が放たれ、空気を切り裂く。

 しかしPIROは身を翻し、影のようにかわした。


 「そこだぁぁッ!」


 避けた先には焼大人。

 両掌から迸る気弾が轟音を伴って爆ぜ、PIROを包もうとする。


 「チッ……!」


 PIROは舌打ちし、壁を蹴って天井へと跳躍。

 弾丸のように直撃の軌道から身を逸らした。


 「まだ終わりじゃないですよ!」


 Daiの声が響く。

 空中に逃れたPIROの前方へ、Daiのナイフが閃く。

 銀の刃が空中で進路を塞ぎ、避け場を奪った。


 ――ガキィン!


 PIROは腕で受け流すが、袖が裂け、白い肌に赤い線が走った。

 血が一滴、石床に滴り落ち、黒く濡れた石畳に赤い染みを広げる。


 「ふぅ……助かったぜ」


 ライアンは荒い息を吐きながらも、笑みを浮かべて大剣を構え直す。

 彼の背中に漂うのは、恐怖ではなく昂ぶりだった。


 PIROは肩口の傷をちらりと見やり、口の端を吊り上げる。


 「……いい連携だ」


 その声は、不気味なほど落ち着いていた。

 血を流しながらもなお、獲物を狩る獣のような眼光を放っていた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ