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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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幕間?【PENPENZ】22:こった姫、血の舞

 現れたのは――異様としか言いようのない存在だった。

 艶やかな漆黒のボブヘアが、夜の闇を切り取ったように首元で揺れる。大きく潤んだ瞳は冷たくも妖しい光を宿し、唇には毒々しい紫の彩り。

 口端からは白い粘液が糸を引き、喉の奥へと吸い込まれていく。

 細身の黒い衣装が、その異形の身体を包み、肩口には無数の小さな棘のような鱗が並び、まるで鎧のように光を反射していた。

 肌は鱗混じりの灰色で、しなやかさと冷血な爬虫類の気配を併せ持つ。

 それが――こった姫だった。


 バタケは一切のためらいを見せず、巨体を躍らせた。

 妖刀五忍衆との死闘で深手を負ったはずなのに、その動きには疲弊の影など微塵も感じられない。

 土煙を巻き上げながら、獣の本能に従った一撃が襲いかかる。


 まずは前足による叩きつけ。

 鍛え抜かれた鋼鉄のような筋肉が爆ぜるように収縮し、その質量が地面ごと押し潰す勢いを生み出す。

 地面が悲鳴を上げ、石が砕ける鈍い音が響く――しかし、こった姫は腰をひねり、ほんの指先ほど身体を傾けただけで直撃を回避。足元の地面は爪の衝撃で深く抉れ、破片が火花のように四方へ飛び散った。


 続いて、噛みつき。

 獲物の急所を狙う牙が閃き、空気を鋭く切り裂く音が耳を打つ。

 しかし、こった姫は軽やかに後方へ跳び、牙の先端を紙一重で抜ける。

 その一瞬、口元には挑発にも似た笑みが浮かんでいた。


 さらに爪による切り裂き。

 両腕を大きく振り抜き、鋭い爪が夜空に光の弧を描く。

 だが、こった姫は上半身を反らし、背中すれすれを通り過ぎる刃を滑るように回避した。

 風圧が髪を乱し、切り裂かれた空間に残響がしばらく漂う。


 加えて横薙ぎの一撃。

 前足が横へ振り抜かれ、伴う風圧が衝撃波となって地面をえぐり、砂塵を巻き上げる。

 しかしこった姫は軽く足を踏み替え、舞い上がる砂煙の中を泳ぐように移動する。

 次の瞬間、わざとバタケの正面に踏み込み、幻影のように姿をぼかして挑発した。

 衝撃波は空を切り、その場に残ったのは微かな香りと残像だけだった。


 まるで攻撃が届く前から動きを予測しているかのような回避――バタケは直感的に、それがただの反射神経ではないと悟る。


 一方で、こった姫の反撃は妙だった。

 構えは遅く、軌道も単純。

 バタケほどの動体視力なら、避けるのは容易なはず。

 それなのに、必ず当たる。


 (なぜだ……? 確かに避けているのに……攻撃が当たる……何かの能力か?)


 胸の奥で、焦りがじわじわと広がる。


 「おおっ、バタケが押してるぞ!! ははっ、俺たちの心配なんか杞憂だったんだ!」


 太郎が身を乗り出し、目を輝かせた。


 「いける……これは勝てる!」


 次郎は拳を固く握りしめる。


 「やっちゃえ、バタケ!」


 花子が全身を震わせながら声を張った。


 「ぶっ飛ばせー!」


 三郎はその場で飛び跳ねる。


 「そのまま決めてー!」


 良子が必死に両手を振り続ける。


 PENPENZ全員が口々に叫び、戦況を信じて希望に満ちた声援を送る。


 だが――バタケの胸中は、まるで逆だった。

 攻撃は悉くかわされ、しかも反撃は必ず命中する。息は徐々に荒くなり、全身が熱を帯びる。

 焦りに駆られたバタケは戦法を変え、近くに転がる岩を噛みついては投げ、日光忍者村の瓦や木片を掴んでは次々と投擲した。


 それでも、こった姫は全てを回避した。

 避けられるどころか、逆に隙を突かれ、浅い傷が増えていく。


 (おかしい……こんなはずじゃない……)


 牙を食いしばるたびに苛立ちが募り、呼吸は荒く短くなる。


 (回避ルートを読んでいるのに……なぜ当たらない!? これは……術か!?)


 胸の奥で心臓が暴れ、背筋を伝う冷や汗が止まらなかった。


 そして――ついにその瞬間が訪れる。

 こった姫の手刀が閃き、鋭い音と共にバタケの胸を真正面から貫いた。


 「ぐわぁぁぁぁぁぁーーーーー!」


 胸に突き刺さった腕を必死に引き抜こうともがくが、こった姫は微動だにせず、逆に腕を深く押し込んだ。

 巨体が宙に持ち上がり、前足も後ろ足も力なく垂れ下がる。

 白目を剥いた瞳から光が消え、口からは血が滴り落ち、全身が小刻みに痙攣した。


 「……あまりにも固くて時間かかったけど……やーーーっと刺さったわ」


 こった姫は腕を伝う温かい血を舌先でゆっくり舐め取り、うっとりと目を細める。

 その瞳は、狩りを終えた捕食者のそれだった。


 「バタケーーーーっ!!」


 太郎が喉を裂くように絶叫する。


 「うそだろ……」


 次郎が信じられないという顔で声を震わせる。


 「やめてぇぇー!」


 花子が泣き叫び、涙で顔を濡らす。


 「まさか……今度こそ……?」


 三郎は血の気を失い、立ち尽くす。


 「そんなの……いやだ!」


 良子が必死に手を伸ばし、涙をこぼす。


 希望は、一瞬で絶望に塗り潰された。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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