幕間?【PENPENZ】21:こった姫、昼寝の邪魔は許さない!
PENPENZの面々は、目の前で矢継ぎ早に変わる状況に頭も体もついていけず、ただ息を呑み、足が地面に貼り付いたように立ち尽くしていた。
五忍衆は互いに一瞬だけ視線を交わし、無言で頷く。次の瞬間、地を抉るように同時に踏み込み、四方から弾丸のような速度で虎へと変貌したバタケへ殺到する。
「グオオォォォォ」
咆哮と共に、バタケの前足が鋭く薙ぎ払われた。その一撃はまるで暴風を刃に変えたかのようで、襲い来る影をまとめて弾き飛ばす。
「グアアアア……ッ!」
なおたんの喉から、獣じみた苦鳴が漏れる。彼女の手に握られた妖刀の刀身には、僅かに亀裂が走っていた。
妖刀と宿主の肉体は精神を共有しており、その刃が痛みを受ければ、持ち手の魂と肉体も同じ苦痛に苛まれる。今の一撃は、刃と宿主の両方を同時に砕くような威力だった。
五忍衆は、息を荒げながらも再び互いの目を見て頷く。次の瞬間、五振りの妖刀から膨張するような禍々しいエネルギーが放たれた。空気が重く変質し、広場全体が圧迫感に包まれる。必殺の構え――。
その気配を肌で感じ取り、PENPENZの全員の背筋に冷たいものが走る。
「なにか来るよっ!」
次郎の体は意思に反して石のように硬直し、尾羽が逆立つ。
「もういやいやっ!」
良子は近くの穴に頭を突っ込み、尻をぶんぶん振って必死に隠れているつもりだ。
「まだこんな強力な攻撃を隠してたの!? ふざけんじゃないわよっ!」
花子は怒鳴りながらも、体が緊張で震えている。
「兄ちゃん、もう逃げようよ!」
三郎が太郎の体を必死に引っ張るが――。
「覚悟を決めたろっ……!」
太郎はその手を振り払うように吠えた。
バタケは一歩も退かず、逆に全身の筋肉を膨らませ、地響きを伴う咆哮を放って突進する。金色の瞳には恐れも迷いもなく、ただ敵を打ち砕く意思だけが宿っていた。
肉体が削られ、血が滲もうとも、五忍衆はその動きを止めない。妖刀は宿主の命よりも、己の必殺を放つことを優先していた。
そして――必殺の一撃が、五振りの刃から一斉に解き放たれる。
同時に、バタケの巨体から放たれた全力の叩きつけが迎え撃った。爪と刃、咆哮と叫びが重なり合い、衝撃の奔流が広場を飲み込む。
激突。
まばゆい光と爆風が同時に弾け、周囲の建物の壁が軋むほどの衝撃波が走った。PENPENZの面々はまとめて吹き飛ばされ、砂煙の渦の中で何が起きたのか一瞬わからなくなる。
やがて煙の向こうに見えたのは、確かに刻まれたバタケの傷跡と、無数のひび割れが走る妖刀の刃だった。
そして――次の瞬間、妖刀は全て折れた。
武器を失い、五忍衆の動きが一瞬止まる。その隙を逃さず、バタケの叩きつけが容赦なく直撃し、複数の影が地面に叩き伏せられる。
「っ……はぁ、はぁ……」
妖刀を失ったここったが、荒い呼吸と共に自分の意識を取り戻す。立ち上がる力もなく、はいずるようにして近くに転がった刀へと手を伸ばす――。
――だが、その前に。
視界の端に誰かの足が立つのが見えた。見上げた瞬間、ここったはその人物の顔を認め、悔しげに唇を噛む。
「……不甲斐なき仕儀、まことに相済みませぬ……」
その言葉を吐き終えるより早く、その人物は無言でここったの腹部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「ぐはぁっ……!」
空気が抜ける音と共に、ここったの体は宙高く舞い上がり、地上へと落下していった。
「うわぁぁぁぁ!?誰!?」
次郎が狼狽し、目を白黒させる。
「グルルルル」
牙を剥き、低く喉を鳴らして警戒するバタケ。
「えぇぇぇ!? 仲間を蹴り殺した……!?」
太郎も状況が飲み込めず、声が裏返る。
「「えらいこっちゃっ!えらいこっちゃっ!」」
三郎と良子が泣きながら、その場をぐるぐる回る。
「どーーすんのよっ! また新しい敵が来たっ! バタケでももうだめよぉーーー!」
花子の叫びは悲鳴に近かった。
「あーあーあーあー! せっかく気持ちよぉく寝てたってのに……何だい、この体たらくはぁ!?」
その人物は倒れ伏す五忍衆に説教を浴びせ、やがてバタケへと視線を移す。
「あんたねぇ! 私の昼寝を邪魔したのは! ゴミの分際で大層なことするじゃないかい! ゴミはゴミ同士さっさと死にな! あたしゃ昼寝に戻るんだから!」
「グオオォォォォ……!」
バタケが鋭い咆哮で応じると、その人物は腰に手を当て、高らかに名乗りを上げた。
「あたしゃ怠惰の魔人、こった姫! あんたなんか、絶ぇぇぇぇぇぇっ対に! 私には勝てないよ!」
月明かりの下、こった姫は唇を歪め、不敵な笑みを浮かべた――。
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