幕間?【PENPENZ】19:捕食者、逆包囲
妖刀を握る五忍衆を前に、バタケは腰をぐっと沈めた。砂を噛むような音が足元から響き、爪先が地面を抉る。虎の脚力が一気に爆発し、舞い上がった砂煙が戦場の空気をさらに重く圧し掛ける。黄金の瞳が鋭く細まり、捕食者の視線が五つの影を射抜いた瞬間――巨体は地を滑るように加速し、空気を切り裂く音すら置き去りにした。
「……はやっ!」
岩陰から様子をうかがっていた太郎が、思わず目を剥く。
次の瞬間、らふしゅたいんが振りかぶった妖刀が上段から閃く。しかしバタケはそれを易々と見切り、片腕一本で弾き飛ばした。衝撃でらふしゅたいんの足元の砂が弾け飛ぶ。
なおたんが横から一閃を浴びせるが、拳が稲妻のように閃き、その風圧が刃を絡め取って宙に舞わせ、遅れて風切り音が響き渡った。
コナスキー・ハイが低い姿勢から踏み込み、喉元を狙って突きを放つが、バタケは顎をわずかに引き、寸前で避けると同時に掌底を刀の柄へ叩き込む。衝撃で構えが吹き飛び、コナスキー・ハイの体が後方に弾かれる。
ミン・キャンベルがその隙を突こうと背後から斬りかかるが、振り返りざまの一撃が彼を薙ぎ払い、体ごと地面に転がした。
「速い……強すぎ!」
三郎が息を呑み、良子は両手を胸の前でぎゅっと握りしめる。
花子は興奮のあまり尻尾をぶんぶん振り、「これもう勝ったでしょ!」と耳をぴくぴくさせた。
五忍衆は態勢を立て直すや、再び一斉に飛びかかる。しかし、バタケの動きはさらに加速していた。踏み込むたびに砂煙が爆ぜ、拳の一振りごとに生まれる風圧が壁のように押し寄せる。
らふしゅたいんとコナスキー・ハイが左右から同時に攻め込むが、バタケは一歩でその間を抜け、反撃の蹴りが二人の装束を音もなく裂いた。
なおたんとミン・キャンベルが上下から挟み撃ちにしようとするも、バタケは逆に一歩踏み込んで距離を潰し、顎下から突き上げるような一撃で両者の体勢をまとめて崩す。
「化け物だ……!」
次郎が呟き、空気が一瞬凍りついた。
バタケはまるで戦場全体を掌握しているかのようだった。黄金の瞳が次の標的を見据えるたび、その者は必ず叩き伏せられる――そう確信させるだけの圧倒的な力と速さがあった。
* * *
だが――。
激しい攻防が続く中、五忍衆は徐々に呼吸を合わせ始めていた。
らふしゅたいんの踏み込みに合わせ、なおたんの刃が低く走る。コナスキー・ハイの影からミン・キャンベルの一撃が重なり、四方から同時に殺到する。動きはまるで一つの生き物のように滑らかで、間断なく繰り出される連携がバタケを包囲していく。
単独では到底追いつけないはずの速度が、連携によって再現され、しかも途切れることがない。
「……あれ?」
良子が眉をひそめる。
バタケの拳が空を切る回数が、ほんのわずかだが増えていた。
速さは衰えていない。だが、五忍衆はその速さの「癖」を読み始めていた。互いに位置を入れ替え、攻撃が届く寸前にするりと間合いを外す。当たりそうで当たらない距離感を、寸分違わず保っている。
「ちょっと……様子が変わった?」
花子の呟きに、太郎が焦り顔でうなずく。
「おのれ……ちょこまかと!」
バタケの低い唸りが戦場の空気を震わせた。
苛立ちを隠せぬまま、上段から大ぶりの一撃を叩き込もうと踏み込む。砂を跳ね上げ、全体重を乗せた渾身の一撃――。
しかし、その隙を、ここったは見逃さなかった。背後を回り込むと同時に妖刀が閃き、バタケの脇腹を深々と貫く。
「ッ……!」
鋭い痛みが走り、次の瞬間には妖刀の黒い靄が傷口から体内へと流れ込み、血肉に絡みつくように侵食を始める。
「「「「「バタケぇぇぇっ!!!」」」」」
PENPENZ全員の悲鳴が一斉に響いた。
だが終わりはまだ訪れない。
らふしゅたいん、なおたん、コナスキー・ハイ、ミン・キャンベル――四人が間断なく畳み掛け、次々と妖刀を突き立てる。
突き立てられるたびに靄が脈動し、虎の体内を黒く染め上げていく。
「ぐわぁぁぁああああああああッ!!!」
怒り、痛み、そして抗いが入り混じった咆哮が戦場を貫き、舞い上がった砂塵の中で黒と金の光が渦を巻く。
「「「「「バタケーーーッ!!!」」」」」
PENPENZの絶叫が重なり、戦場全体が悲痛な叫びに包まれた。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」