幕間?【PENPENZ】17:虎 vs 五忍衆、禁断の一手
空気が、じりじりと焦げるような熱を帯びていた。
砂塵の向こうでは、バタケが、五忍衆を相手に圧倒的な力を振るっている。
拳が閃くたびに地面は裂け、飛び散った瓦礫がまるで弾丸のように四方へ降り注ぎ、衝撃波が肌を刺す。
「うっわぁ……あれ、絶対近づきたくないやつだよ」
少し離れた岩陰から、PENPENZの次郎が顔だけ出し、ひそひそ声で呟いた。
その視線の先では、虎耳を震わせたバタケが、まるで生き物をもてあそぶかのように猛攻を続けている。
「バタケ、怒ってるのかな……耳がぴくぴくしてる」
良子が心配そうに眉をひそめると、三郎は肩をすくめて返す。
「耳ぴくぴくって……あの動きは、完全に殺る気だろ」
「ちょっと黙ってなさいよ。 巻き込まれたら一巻の終わりよ」
花子が焦り気味に諌めるが、太郎だけはじっと戦況を見据えていた。
五忍衆はそれぞれ武器を手に応戦しているが、完全に押されていた。
らふしゅたいんの槍が虎の腕をかすめても、バタケは痛みを感じた素振りすら見せない。
なおたんの鎖鎌はことごとく弾かれ、コナスキー・ハイの刀も爪の一撃で軌道を逸らされる。
ミン・キャンベルの術式はあっさりと破られ、最後のここったも距離を取るのが精一杯だった。
そのここったが、不意に口を開く。
「……妖刀を出せ」
静かだが、揺るぎない確信を帯びた声。
その一言に、他の4人が一斉に息を呑み、驚きの目を向けた。
「あーーーー!? あーーーーーーーーー!」
らふしゅたいんが眉をひそめる。
「正気ですか、あんなもん抜いたら……」
なおたんも即座に反発しかけるが、ここったは冷ややかな視線を返す。
「このまま相手の好きにさせるのか?」
その静かな声が、逆に重く響く。
らふしゅたいんは言葉を詰まらせ、コナスキー・ハイも目を逸らした。
唯一、ミン・キャンベルだけが食い下がる。
「しかしっ! あれは……!」
「はじめろ」
冷淡に切り捨てるような一言。空気が凍り付く。
「……あー、これやばいやつだ」
岩陰から見ていた次郎がぽつりと呟き、良子が首を傾げる。
「やばいって、何が?」
「説明すると長いから黙って! 私もわからないけど、ぞわぞわするでしょ!」
花子が早口で遮る。
「え、説明長いって姉ちゃんもわかってないじゃん……」
三郎が突っ込みを入れ、良子は小声で「やばいなら逃げようよ」と提案するが、太郎は腕を組んで首を振った。
「助けに来たバタケを置いてはいけないよっ」
五忍衆は、しぶしぶと腰の刀に手をかける。
鞘から漏れる妖しい光が、地面に奇妙な影を落とし、影は生き物のようにゆらめいた。
そして次の瞬間、5本の刃が同時に抜かれる。
空気が、一変した。
重く、粘つくような圧力が辺りを覆い、肌をなぞる冷たい指のような感覚が背筋を這い上がる。
妖刀の刀身には異様な文様が浮かび、それらはまるで血管のように脈打ち、刃全体が呼吸しているかのようだった。
「っ……あ、あぁぁぁッ……!」
なおたんが息を荒くし、体を震わせる。
らふしゅたいんが突然膝をつき、額を押さえた。
コナスキー・ハイは歯を食いしばって刀を握り、ミン・キャンベルは苦悶の声を漏らす。
ここったすら、冷や汗を流しながら膝を折った。
「なんだ……これ……!」
三郎が唾を飲み込み、花子が不安そうに声を漏らす。
「苦しんでる……の?」
「違う……あれは、自分じゃない“何か”に喰われてる顔よ」
良子の言葉に、PENPENZ全員が言葉を失った。
5人の苦しみはさらに激しさを増し、やがて喉を裂くような叫びに変わる。
指先は不自然に曲がり、瞳孔は針のように収縮し、血管が浮き出て皮膚を黒く染めていく。
妖刀から溢れ出す黒い靄が、彼らの口や目、傷口から逆流するように体内へと吸い込まれていった。
「ひっ……」
花子が思わず口元を押さえ、三郎が顔をしかめる。
「……えぐいな」
横で次郎は半笑いを浮かべながらも、目は完全に引いていた。
「これ、忍者漫画でも見たことないやつだわ……」
そして、すべてが静まった。
五忍衆は全員、意識を失ったまま立ち尽くしている。
しかし、その姿勢には微塵の隙もなく、妖刀の放つ殺気が肌を刺す。
バタケは一歩前に出て、沈黙の中でその光景を見下ろした。
耳をぴくりと動かし、低く呟く。
「……異様だな」
その声には、わずかな戸惑いと警戒が混じっていた。
だが次の瞬間、虎の目がぎらりと光り、圧倒的な戦闘本能が再び彼を突き動かそうとしていた──。
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