幕間?【PENPENZ】15:月下、刃が落ちるその瞬間
「――おまえら、遊びは終わりだ! 終わらせろ!」
広場に響き渡った、ここったの鋭く切り裂くような声が、夜気を震わせた。
その瞬間まで、どこか余裕を漂わせていた敵たちの表情が一変する。
らふしゅたいんの濁った瞳にぎらりと光が宿り、口から「あーーー……」と不気味な呻き声が漏れる。巨体が地面を揺らし、踏みしめる度に土煙が上がった。
なおたんは赤い瞳を細め、これまでの微笑を完全に消す。瞳孔は鋭く収束し、まるで鋭い刃を太郎たちに突きつけるかのような圧が走った。
ミン・キャンベルはゆるやかに首を傾け、長い黒髪が月光を滑る。双眸には迷いの欠片もなく、氷のように冷たい決意だけが宿っていた。
コナスキー・ハイは静かに刀を逆手に構え、無駄な動き一つなく、獲物を狩る獣のように間合いを詰める準備をする。
広場全体が震える。風が止み、虫の声も消え、ただ戦場の鼓動だけが大地を揺らしていた。
* * *
「――奥義・紅刃嵐」
ここったの足元で紅の旋風が巻き上がり、地面の砂利が弾け飛ぶ。
渦巻く紅はやがて無数の斬撃の線へと変わり、夜空の月明かりを食らい尽くすように太郎へ迫る。
視界が一瞬で赤に染まる。反射的に棍を構え、防御の体勢を取るが――
ズガァァァンッ!!
衝撃は腕から骨へ、骨から内臓へと突き抜け、肺の奥の空気が一気に押し出される。
体が宙を舞い、数メートル先まで吹き飛ばされる太郎。背中から地面へ叩きつけられ、砂が舞い上がる。
咳き込みながら、喉から血の味が広がる。それでも、棍だけは離さなかった。
「……まだ……まだ戦える……!」
呼吸は荒く、視界の端が揺れている。足も震えているのに、太郎は無理やり膝を伸ばし、体を叱咤して立ち上がる。
ここったはゆっくりと一歩、また一歩と近づき、その瞳を細めた。
「……いいや、終わりだ」
低く放たれたその声と同時に、ここったの視線が太郎から離れ、広場の周囲へ向く。
つられて太郎も振り返り、息を呑んだ。
そこには、兄弟たちの無惨な姿があった。
次郎は肩で荒く息をつき、片膝を地につきながら風魔手裏剣を支えにして辛うじて倒れまいとしている。
花子はクナイを握ったまま背中から地面に倒れ、視線は焦点を失い、苦しげにうめいていた。
三郎は二本の小太刀をとうに手放し、腹を押さえてうずくまり、額から汗が滲み落ちている。
良子はボウガンを握ったまま、膝から崩れ落ち、か細い声で「ぅ……ぅぅ……」と漏らす。
――全員、生きてはいる。だが、もう立ち上がれる力は残っていない。
「中々の強さだった。……だが、ここまでだ」
ここったの声は淡々としていた。次の瞬間、紅の刀身が月光を浴び、ゆっくりと太郎に向かって振り上げられる。
同時に、他の敵も動く。
コナスキー・ハイは無言のまま次郎へ、ミン・キャンベルは花子へ、なおたんは三郎へ、らふしゅたいんは良子へ――
それぞれが刃を振り上げ、止めの一撃を放つために動いた。
「――やめろ! やめろぉぉぉー!!」
太郎の叫びが広場を突き抜ける。
足を踏み出そうとするが、体が動かない。肺が焼けるように熱く、胸の奥からあふれるのは恐怖と焦燥、そして圧倒的な無力感だった。
「誰か……! 誰か助けてーーーッ!!」
その瞬間――。
「……私を呼んだか?」
凛とした、しかしどこか不思議な温もりを帯びた声が、広場の空気を切り裂くように響き渡った。
その声は太郎の耳だけでなく、心臓の奥底を直接叩きつけるように届く。
太郎はゆっくりと、声のした方向へ首を回した。
「お、おまえはっ……!?」
目を見開き、息を飲む太郎。
次の瞬間、広場にいた全員の視線が一点に集まり、空気が一変した。
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