幕間?【PENPENZ】12:PENPENZ、決死の反乱
どさっ――!
乾いた衝撃音が広場に響き、五羽のペンギンたちが無造作に真ん中へと放り投げられた。勢いで転がった体は砂埃を巻き上げ、それが冷たい空気に溶け込むようにふわりと漂った。
まだ状況を呑み込めず、目を瞬かせる彼らの耳に、冷ややかな声が落ちる。
「どこから紛れ込んできたんだ? このペンギンどもは」
青緑色の肌にくせ毛を束ねた コナスキー・ハイ が鋭い視線を向けてくる。月光を浴びた足元の刀は、冷たい刃先で今にも命を断ち切る予告をしているかのように光った。
「あーーーー」
死体を継ぎはぎして造られたような、異形の巨体――どことなく”らふくま”に似ている、らふしゅたいん が、意味を持たない声を低く響かせた。口の端から垂れたよだれが、土の地面にぽたりと落ち、黒い染みを作っていく。
「姫に報告する?」
艶やかでいて淡々とした声音で問うのは、紺色の着物をきっちりと着こなした なおたん。赤い瞳は、状況を楽しむかのように細められ、口元には小さな笑みが浮かんでいる。
「地上に捨てるか?」
長い黒髪を揺らしながら、ミン・キャンベル が侮蔑を含んだ視線を投げる。その眼差しは、まるで値踏みするかのようにペンギンたち一羽一羽を舐め回していた。
身を寄せ合ったPENPENZ兄弟は、体を震わせた。寒さではない、命の芯を凍らせる恐怖だった。
「姫の睡眠の邪魔になっては困る。……始末する」
紅の着物をふわりと翻し、冷たく告げる ここった。その瞳は一切の迷いや情けを持たない、ただの処刑人の目だった。
その瞬間、兄妹たちの恐怖は爆発した。
「ひ、ひぃぃ……やめて……!」
次郎は腰を抜かし、その場にへたり込んで羽を必死に胸に抱きつける。呼吸は荒く、目は涙で滲んでいた。
「嘘でしょ……何もしてないのに……!」
花子は翼を震わせながら一歩後ずさり、足先から力が抜けていく。
「ね、ねぇ……冗談でしょ? 冗談だって言ってよ……」
三郎は笑みを作ろうとするが、頬が引きつって不自然な表情になる。視線は泳ぎ、焦点が合っていない。
「いやだいやだいやだぁぁ! お家帰りたいぃぃ!」
良子は泣き声を上げながら太郎の背にしがみつき、必死に羽をつかんで離さない。
四方八方から恐怖が押し寄せ、兄妹の心を押し潰そうとしていた。
その一言が、太郎の脳を瞬時に熱く、そして冷たくさせた。
思考は凄まじい速度で回転を始める。
(殺される! 兄弟全員殺される! 忍者になれない! 馬鹿にされたまま終わる! 怖い! 逃げたい! 泣きたい! 誰か助けて! 村に帰りたい! なんでこんなことに! 俺は悪くない! 理不尽だ!)
――ぷつん。
心の奥で何かが切れる音がした。恐怖の鎖が断ち切られ、その隙間から熱が吹き上がる。怒りと覚悟が渦を巻き、全身を支配していく。
太郎はゆっくりと立ち上がった。背筋は伸び、瞳は鋭く、まるで獲物を狙う猛禽のように爛々と光る。
「次郎! 花子! 三郎! 良子! ……もう逃げるのはやめだ! やらなきゃやられる!」
その声は震えていなかった。むしろ、研ぎ澄まされた刃のように鋭く響いた。
「今こそ、恐怖を乗り越え――あいつらを叩きのめすんだ!」
その言葉に、四羽の瞳の奥で何かが灯った。
「……兄ちゃん、やっと本気出せるね!」
次郎が口角を上げ、覚悟を決めた光を宿す。
「うちらをナメたらどうなるか、思い知らせてやる!」
花子は翼を広げ、不敵な笑みを浮かべた。
「忍者魂、見せる時だよ!」
三郎は羽先をぎゅっと握りしめ、やる気を全身で表す。
「絶対にみんなで生きて帰る!」
良子は震えを押し殺しながらも、強い声で決意を口にした。
ペンギンたちの空気が一変し、その気迫に、敵側の何人かもわずかに眉を動かす。
「へー、ちょっと付き合ってやるか」
コナスキー・ハイは、反抗期の子供を見るような、呆れ半分の視線を送った。
「なんか残念なペンギンだね~」
なおたんは、どこか哀れむような微笑みを浮かべる。
「どうする?」
ミン・キャンベルが視線を横に送り、ここったに問いかけた。
「あーーーー」
らふしゅたいんは相変わらず意味不明な声を漏らすだけ。
「……ふぅ……さっさと終わらせるぞ」
ここったは心底面倒そうにため息をつきながらも、ゆらりと刀に手をかけた。
その瞬間、広場に満ちていた空気は完全に変わった。
緊張が張り詰め、そこはもう戦場だった――。
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