幕間?【PENPENZ】11:忍者村ガチ勢、現る。
「……あれ? 意外と、ふつうの村?」
日光忍者村と書かれた門をくぐった五羽のペンギンたちは、ぽかんと口を開けてその景色を見回した。
そこに広がっていたのは、想像していたような忍者の訓練場や隠し武器の数々ではなかった。整然と並ぶ瓦屋根の家々、規則正しく手入れされた畑、山あいの静かな風。どこか懐かしさすら感じる、典型的な日本の農村の風景だった。
「にんじゃ村ってさ、もっとこう……“火遁の術!”“水遁の術!”とか、手裏剣がビュンビュン飛び交うの想像してたんだけど」
花子が口をとがらせ、むすっとした表情で言った。
「俺は、もっとこう、天井裏からカサカサって動く影とか、壁から刀がスッって出てくるやつだと思ってたんだけどな……」
三郎が腕を組み、眉間にしわを寄せてぼやく。
試しに一軒の家に入ってみると、中はやはりごく普通の農家だった。木の床、囲炉裏、壁には干し柿と味噌の樽。忍者の“に”の字もない。
「えー、なにこれ……ただの無人の古民家じゃん。ぜんっぜん、忍者要素ないじゃん……」
良子ががっくりとうなだれる。
「いや、きっと奥に行けば何かあるんだって!」
太郎が明るく言ってみせるが、次に訪れた家も、そのまた次も、どこもかしこも似たような構造と雰囲気だった。
そして最後の、大きな屋敷に入ったときだった。
「また古民家だよ!! ふざけんなあああああ!!!」
三郎がついにブチ切れて、壁をぶん殴ろうと拳を振り上げた。
──ばこっ。
「……へっ?」
拳は空を切った。いや、回転戸だった。壁だと思っていたそれはぐるりと回転し、三郎の身体はそのまま吸い込まれるように、姿を消した。
「……え? 三郎、どこいった?」
次郎が首を傾げる。
三郎は別の部屋で何者かに首に刀を突きつけられ、冷や汗をかきながら声だせず
「隣の部屋かな?」
太郎が呑気に言って、残りの四羽はそちらへ向かった。
そのときだった。
「──きゃっ!」
最後尾を歩いていた花子の足元が崩れ、ぽっかりと穴が開いた。
どさっ
「いたたたた……。 う、うそでしょ!? 落とし穴!?」
ぐさっ
花子はうつ伏せに落ちた体勢のまま、何者かによって顔のすぐ横に突き立てられた一本の刀を見て、絶句した。
(ひゃああああ……声、出せない……殺さないで……!)
* * *
一方、先へ進んだ太郎たちは、三郎が見当たらないことに気づく。
「三郎ぉ〜? どこにいるのぉ〜?」
良子があたりを見回す。
「あれ? 花子は?」
太郎、次郎、良子がキョロキョロ周りを見回す
「あ、あそこにはしごが!」
次郎が叫んだ瞬間、天井に目をやると、縄ばしごが垂れていた。
「「「うぉぉぉぉ」」」
太郎、次郎、良子は歓喜する
「花子や三郎も別の仕掛けを見つけて先に行ったんだよ、きっと!」
次郎は、謎はすべて解けたと言わんばかりに、自信満々の声で告げた。
「よし! なら見つけた人が先へ行く権利があるよね! にいちゃんたちは別の仕掛けを探して!」
先に仕掛けを見つけた高揚感に包まれ、鼻息も荒く縄ばしごをよじ登っていく。
勢いよく天井裏に顔を出すと──そこに待っていたのは、無言で刀を突きつける黒装束の影だった。
「……ひっ!」
次郎は声も出せず、冷や汗をたらたらと垂らす。
* * *
「くそー!生意気な次郎め!俺はもっとすごい仕掛けを見つけてやるんだからな……!」
太郎がムキになって部屋中を探し始める。
「わたしの方がもっとすごい仕掛け見つけるんだから!」
良子も便乗する。
「ん?あの掛け軸、紐ぶら下がってるのはなんだろう?」
太郎は何げなく紐を引っ張った。
太郎が紐を引くと、壁がすーっと開いた。
そして紐を手放すと扉は元通り。
「きたー! 完全に隠し扉じゃんこれぇぇえ!」
太郎が飛び跳ねて喜ぶ。
しかし、喜んだのも束の間
「ふふん♪」
良子がすました顔で、スッと紐を引いてさっさと中に入っていった。
「おい! ずるいぞー!! 俺が見つけたのにぃぃぃ!!」
太郎が怒って後を追おうとした瞬間。
──スッ……
気配。
空気が凍るような、静かな圧。
太郎の首元に、ぴたりと刀の刃が当てられた。
「……ど、どちらさまですか……?」
声を震わせながら、目だけで相手を確認しようとする。
その姿は──言葉もなく、闇に溶ける黒装束。
太郎の喉が、ゴクリと鳴った。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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