幕間?【PENPENZ】10:ようこそ日光忍者村へ(魔王城もあるよ)
黒い闇に呑み込まれ、気を失っていた五羽のペンギンたちは、やがてひとり、またひとりと意識を取り戻していった。
「……いてて、ここどこ……?」
太郎が頭を押さえながら、ゆっくりと身を起こす。
周囲を見渡すと、そこにはまるで現実感のない、静まり返った景色が広がっていた。
足元にはしっかりとした“地面”があり、だがその大地からはまるで生気を感じない。
風はぴたりと止み、空は――夜のはずなのに、赤黒く燃えるような色で染まっていた。
音もなく、不気味なまでに静まり返った世界。
「……なんか、普通にいいとこ……じゃないかも……」
花子が目をぱちくりさせながら呟く。
そう言いながらも、どこか恐る恐るといった様子だった。
「とりあえず、全員……無事、かな……?」
良子が周囲を見回しながら、か細く呟く。
魔王の顔が浮かび上がり、空が割れた――あの一瞬の恐怖が嘘だったのかと思うほど静かな場所。
けれど、それは安心感ではなく、逆に胸を締めつけるような違和感を残していた。
「ねぇ……あれって関所じゃない?」
三郎が前方を指差す。
そこには堂々とした木造の門が立ち、そばには一枚の木製看板が掲げられていた。
全員がぞろぞろと門の前まで歩み寄り、看板の文字に目を向けた。
「にっこう……にんじゃむら……?」
次郎が首をかしげながら声に出す。
『日光忍者村へようこそ!』
「忍者村!!? えっ、あの!? ガチの忍者が修行してるっていう、伝説のあれ!!?」
太郎が大興奮で叫ぶ。
「ここ、あたしたち……来ちゃっていいの!? むしろ、今しかないでしょ!? ねえ、入ってみようよ!!」
花子が目を輝かせて飛び跳ねる。
「ちょ、ちょっと待って! 気持ちは分かるけど、よく見たら誰もいないし……なんか、不気味じゃない!?」
良子が腰を引きつつ声を上げる。
わいわいがやがやと盛り上がる中、次郎の声が震えながら響いた。
「……み、みんな……あれ……!」
指差す先、隣の建物。
そこには、異様な威圧感を放つ存在があった。
巨大な漆黒の城。
塔の一本一本が捻じれ、門や壁面は生き物のように脈動し、まるで呼吸するようにうねっている。
雲の上に鎮座し、光すら飲み込むような闇を纏ったその姿は、地上の常識を逸した異形の建造物だった。
「ま、魔王城じゃんあれ!!?」
太郎が声を裏返しながら叫ぶ。
「ちょっと待って!? さっき空に浮かんでた魔王城の隣にあるってことは……ここ、空!?」
花子が一歩下がりながら口を押さえる。
「え、え、え? じゃあ……この地面って……」
良子が恐る恐る足元を覗き込む。
ふらふらと崖のような縁まで近づくと、視界の彼方には、はるか下に霞んだ地上が広がっていた。
「う、浮いてる……この村ごと……空に浮いてるううううぅぅぅ!!?」
良子が悲鳴を上げる。
「うわああああああああ!! 今気づいた! めちゃくちゃ高い! 高所恐怖症なのにぃぃぃ!!」
三郎が地面にへたりこみ、バタバタと足をばたつかせる。
「なんでうちらだけ転送されたのよぉぉ! イレギュラー扱いされた挙句、空に島流しとか、理不尽すぎるってばぁぁ!」
花子が両手の翼で地面をばしばし叩きながら叫ぶ。
「ってことは……あのとき、“空の顔”に目をつけられたせいで、俺たち……ここに飛ばされた……!?」
太郎がつぶやき、唇を噛む。
「なんで……? もう帰れないの……?」
次郎が唖然とした表情で言葉を絞り出した。
一瞬、全員の間に重苦しい沈黙が落ちた。
──が、太郎がふっと息を吐き、拳を握りしめて立ち上がった。
「けど……せっかくだし……忍者村、入ってみよう!」
「え!? この状況で!?」
花子が思わず叫ぶ。
「魔王城が近いってことは、ここにいると危ないし……もしかしたら修行して、強くなれるかもしれないじゃん!」
太郎が真剣な目で答える。
「……兄ちゃんが言うなら……」
三郎が小さく頷いた。
「わたし、手裏剣練習したい……!」
良子が決意を込めて言う。
「強くなれば、差別されなくなるかも……!」
花子がぽつりと呟く。
四羽の顔が、次第に希望の色で満ちていく。
「よし、じゃあ行くぞ! 目指せ、真の忍者! それがバタケに勝つ道だ!!」
太郎が羽を振り上げ、勇ましく叫んだ。
「「「「おーっ!!」」」」
こうして五羽のペンギン兄弟は、空に浮かぶ忍者村へと、力強く一歩を踏み出した。
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