幕間?【PENPENZ】9:イレギュラー判定、承りました!?
王都の裏通り。
陽が沈み、街灯の火すら頼りなく揺れるその路地を、五羽のペンギンが肩を寄せ合い、とぼとぼと歩いていた。
まるで世界から置き去りにされたかのような足取りだった。
「……なんか空、変じゃね?」
太郎がふと立ち止まり、重たい空を見上げてぽつりと呟く。
風は止まず、雲は低く垂れ込め、ときおり雷鳴が空を切り裂いては、王都全体に響き渡る。
それはただの天候異変ではなく、まるでこの世界そのものが「何か」を警告しているかのような、不穏な気配だった。
「ロイヤルペンギンのせいで、また差別される……うぅ……くすん……」
良子が泣きべそをかきながら、ぺたりと座り込んだ。
「ゾンビペンギンも出てきてさ! まったく……“ペンギン”ってだけでひとくくりにされるんだよ!? こっちは清く正しく生きてんのに!」
花子がぷんすか怒りながら、背中のリボンをばたばたと揺らす。
「……兄ちゃんさぁ、空のことより、これからのこと何か考えてよ」
三郎がぼそりと不満を漏らし、太郎の方をちらりと睨む。
「……俺たち、どうすりゃいいんだろ……」
次郎が小声で呟き、空を見上げたまま立ち尽くす。
そんな彼らの頭上で──空が異様な赤に染まった。
日が暮れて久しいはずの夜空が、燃えるような朱に包まれ、王都全域が静寂に閉ざされた。
風も止まり、虫の音も、人の気配も、なにもかもが息をひそめていた。
「……ん?」
太郎が目を細めて空を見上げた。
そこには、“顔”があった。
「……え、えええええ!? 顔が空に出てるぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
次郎が叫び、花子がびくりと跳ね、三郎と良子が反射的に太郎の背に飛びつく。
それは雲の切れ間にぼんやりと浮かんだ、巨大で、威圧的で、そして恐ろしいほどに鮮明な“誰か”の顔。
「……我が名は、魔王ルシファー」
その声は、空から音として降り注ぐのではなく、まるで魂の奥底に直接ねじ込まれるような、禍々しい震えを伴って響いてきた。
「魔人、魔物を統べる者。 この腐りきった世界を……GOX落ちした不良品の世界を、今こそ“清算”する」
太郎たちは、ぷるぷると震えた。
言葉も出ず、息をすることさえ忘れていた。
そして──空が“パリーン”というありえない音を立てて砕けた。
まるで天井のガラスが割れたかのように、世界の天蓋が真っ赤な亀裂とともに砕け散り、その向こうから、漆黒の巨大な城が姿を現す。
空中に浮かぶ、ねじれた塔をいくつも抱えたその城は、常に形を変え続け、吸い込まれるような暗黒を纏っていた。
「まずは──手始めに、イレギュラーを駆除する」
その言葉とともに、空に浮かぶ顔が、ふと動いた。
確かに“見た”。
ペンギンたちの方を。
「ま、まさか……俺たち、今、目が合ったよな……?」
太郎が口を震わせて言った。
「え!? 今の視線、絶対こっち! やばいってばやばいってばやばいってばぁぁぁ!!」
三郎がパニックを起こしながらジャンプする。
「完全に目をつけられたぁぁぁ! あたしたちがイレギュラー!? この世界、どんだけ見る目ないのさぁぁ!」
花子が叫び、空に抗議するように翼を振り回す。
「きゃあああああああああ!! このままじゃうちら、異物扱いで消されちゃううううう!!」
良子が絶叫しながら太郎の足にしがみつく。
「終わった……俺たち、詰んだ……」
次郎ががっくりと項垂れ、全身の力を抜いた瞬間だった。
五羽の身体が、闇に包まれた。
「……ぐっ!」
「きゃっ……!」
まるで地面が抜け落ちたかのような感覚。
空間がねじれ、重力が反転し、五羽の身体が次々と吸い込まれていく。
誰よりもちっぽけで、誰よりも弱く、誰よりも逃げ遅れた“彼ら”にも──
運命の歯車が、静かに、しかし確かに回り始めていた。
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