第113話:英雄たちの国葬
荘厳な鐘の音が、王都全域に鳴り響いた。
王国大聖堂。その厳かな広間には、戦いで命を落とした四人の英雄たちの遺影が、静かに掲げられていた。
王国騎士団総帥・アザラシッム。
蒼天の剣団長・ゼイン。
漆黒の鎧団長・サクラ。
紅蓮の盾団長・ユリウス。
彼らの名は、王都を救うために命を捧げた者たちとして、永遠に歴史に刻まれる。
だが、彼らだけではなかった。
その影には、多くの騎士たちがいた。
名も知られず、ただ民を守るために剣を振るい、盾となって倒れた者たち。
兵士として命令を果たし続け、最後まで退かずに戦った者たち。
そして──民間人でありながら、恐怖に屈せず武器を取り、仲間と共に戦い抜いた者たちもいた。
この戦いに命を落とした全ての者たちが、王国という名の礎となった。
その姿は遺影こそ掲げられてはいないが、人々の心に深く刻まれていた。
今、この場に集う者たちは皆、その犠牲を胸に刻み、祈りを捧げるために立っていた。
静まり返る堂内。
祈りを捧げる人々の中に、すすり泣きの声が微かに混じっていた。
やがて壇上に、白銀の衣をまとった一人の女性が姿を現す。
女王、シーユキだった。
気高さと深い悲しみを宿した瞳が、広間に集う民たちを見渡す。
そして静かに、言葉を紡ぎ始めた。
「……蒼天の剣、ゼイン団長。すべては、彼から始まりました」
その声はわずかに震えていたが、そこには揺るぎない覚悟が宿っていた。
「卑劣にも、子どもを使った自爆という蛮行によって命を落としました。 しかし彼が遺した情報は、その後の戦いにおいて、計り知れない価値をもたらしたのです」
会場のあちこちから、堪えきれぬ嗚咽が漏れる。
「漆黒の鎧、サクラ団長。 あの憤怒の魔人という圧倒的な暴力に対し、ただ一人で立ち向かいました。 仲間を守り、命を救い……彼がいなければ、他の戦線は持ちこたえられなかったでしょう」
女王の言葉に、民の表情が引き締まる。
「紅蓮の盾、ユリウス団長。 嫉妬の魔人との死闘を終え、傷も癒えぬまま王都奪還作戦に参戦しました。 紅蓮の盾の精鋭の多くを失い、残された者たちは若く未熟だった……それでも彼は常に前線に立ち、団員を鼓舞し、中央広場を死守しました。 そして最後には、アザラシッム総帥の突撃を支えました」
女王が言葉を紡ぐたびに、民の胸に熱いものが込み上げてくる。
「そして……アザラシッム総帥」
その名を呼ぶと、会場の空気が一変した。
「彼がいなければ、ロイヤルペンギンには決して届きませんでした。 経験と知恵、何よりも魂を削るような戦いを続けてきた騎士たちでさえ、ゾンビペンギンという新たな脅威の波に飲まれかけていたのです。 そんな中、彼は一人、突破し、暴食の魔人を打ち破った。 彼の突撃なくして、この勝利はありえなかったのです」
民のあちこちで、涙をぬぐう手が揺れていた。
「王国の四騎士団は、今や壊滅寸前です。 数多の騎士が命を落とし……王国民もまた、あまりにも多くの犠牲を払いました。 民間の方々も武器を取り、ともに戦い、傷つき、命を落とされました」
シーユキは、その場で深く頭を垂れた。
「……それでも、私たちは生きています。 まだ、終わってはいません。 魔王という真なる脅威が、この先に待ち受けている。 けれど、王国は決して膝をつきません。 私は、何も持たぬ女王です。 ですが──」
もう一度、民衆を見つめる。
「皆さまと共に、私はこの国を、未来を、必ず立て直してみせます。 ……どうか……力を、貸してください」
その声が、大聖堂の天井を震わせた、その瞬間。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
「やるぞっ!俺はまだやれるぞ!!」
「王国は絶対に負けない!!!」
「シーユキ女王に従うぞぉぉぉ!!」
「立て直そう!この国をもう一度……!」
割れんばかりの拍手と歓声、嗚咽と怒号が、大聖堂に響き渡った。
絶望の底から立ち上がろうとする魂の叫び。
それは、悲しみの中に生まれた──新たな希望の声だった。
王国はまだ、生きている。
そして──ここから、再び歩み始めるのだ。
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