第112話:静寂の先へ
しんと静まり返った王都・中央広場に、ぽそりと音が響いた。
──ザリ……ザリ……。
ロイヤルペンギンの餌穴の隙間から、小さな音を立てて顔を覗かせたのは、筋骨隆々、ゴリラのような風貌をした中年男・toshiと、絵筆とパレットを腰にぶら下げたピカソ風の青年・Gorillaだった。
「……いないな、ロイヤルペンギン……?」
広場を見渡すtoshiの目は鋭い。
だが敵の姿は、どこにもなかった。
「……な、なんだよ……これ……」
「広場の……これ、全部……死体か……?」
Gorillaの声が震える。
二人の目の前に広がっていたのは、地面が見えないほど倒れ伏した騎士たちの姿だった。
そこには、戦いの凄絶さと、“終わり”の余韻が色濃く漂っていた。
「……騎士たちが……やってくれたのか?」
ぽつりと、Gorillaが呟いた。
そのとき──
「ワン!」
少し離れた瓦礫の山の上で、一匹の白い犬が吠えた。
コルクだった。
「戦場に犬か……! 無事だったのか!」
toshiたちが駆け寄ろうとした、その時。
そばに倒れていた四十代前半の男性が、片手を上げながら顔を上げた。
「……民間の方ですか……?」
──Daiだった。
toshiが息をのんで頷く。
「ああ、俺たちは王都の住人だ。 ロイヤルペンギンに捕まって、餌穴に放り込まれた。 ……食われるのを、ただ待ってたんだ」
その言葉に、Daiは目を伏せた。
「……そうですか……」
彼は息を整えながら、最後の力を振り絞るように言った。
「……暴食の魔人……ロイヤルペンギンは倒されました……もう……安全です……」
「……!」
toshiとGorillaが顔を見合わせた。
「……きっと、まだ生きてる人がいます。 ……助けてあげてください……」
「コルクが……重傷者の元へ……案内してくれる……はず……」
そう言い終えると同時に、Daiの身体がぐらりと傾き、そのまま倒れた。
「おいっ! おい!!」
toshiが駆け寄るが、すでに気を失っていた。
だが、安堵の表情を浮かべていた。
その様子を見たコルクが、「ワンッ!」と再び吠える。
「……こいつが案内してくれるってことか」
toshiが立ち上がると、Gorillaも頷いた。
「AIMIRAI! すぐに王城へ向かってくれ! この現状を伝えて、人手を出してもらうんだ!」
叫ぶtoshiの声に、餌穴の陰から現れたAIMIRAIが小さく頷き、王城の方角へと駆け出していった。
「ppa、君は逃げてきた人たちに呼びかけてくれ! 捕らわれてた中に、医者、看護に詳しい人、回復魔法が使える人がいるはずだ!」
「りょ、了解ッス!」
パンダのお面(かパンツか不明)のppaがぴょんと跳ね、急いで民衆の方へ駆けていく。
穴から出てきた人々は、ロイヤルペンギンが倒されたと知り、歓声を上げた。だが──
「聞いてくれ! まだ終わっちゃいねぇ!」
toshiが広場を見渡し、吠えるように叫ぶ。
「魔法で治癒できる人、看護ができる人、医者、薬師……誰でもいい! 能力がある人は重傷者のもとへ!」
Gorillaも続ける。
「それ以外の人は王都に散ってけがをしている人を治療してくれ! 怪我をしてる人たちを探して治療してくれ!」
「軽傷者はその場で、重傷者は中央広場へ搬送! 他動ける人は、王都中に“戦いが終わった”ことを知らせるんだ!」
「一刻を争う!分担して行動するぞっ!」
そう叫ぶ声に、徐々に民衆の動きが加速していく。
やがて、穴から続々と現れる王都の民たちが一斉に拳を上げ、腹の底から叫び声を上げた。
「「一人でも多く助けるぞぉぉぉぉおおお!!!」」
その声は、死と絶望に包まれていた王都に──新たな朝を告げる鐘のように、力強く響き渡った。
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