幕間【PENPENZ】8:あのペンギン、殴られました
太郎、次郎、花子、三郎、良子――五羽の兄弟ペンギンたちは、土ぼこりの舞う暗がりの中で、ゆっくりと立ち上がった。
「だ、大丈夫……?」
先ほど助けたばかりの少女に、太郎がそっと声をかける。
だが──
「ひっ……! またペンギン……! こないで! 連れていかないでえええええっ!」
少女はパニックを起こし、壁際で手足をばたつかせながら絶叫した。
「ちがう! おれたちは──!」
太郎が慌てて言葉を継ごうとしたその瞬間――
ドゴォッ!
「ぶべらっ!」
突如として巨大な拳が飛び、太郎の顔面を強打した。
勢いのまま吹き飛び、地面を転がる。
「兄ちゃん!?」
次郎が叫ぶより早く、さらにもう一撃。
今度は空を切ったが、圧倒的な力を感じさせる一撃だった。
殴りつけてきたのは──筋骨隆々、ゴリラのような風貌をした中年男「toshi」。
その隣には、絵筆とパレットを腰にぶら下げたピカソ風の青年、「Gorilla」が並び立っていた。
「皆、聞いてくれ! 俺たちはゴリラーズ! もともと王都民の声を王室に届けるために活動していた者だ!」
toshiが、場を見渡すように声を張る。
「ここで怯えて、喰われるのを待つだけか!? 女王や騎士が助けてくれるまで黙って待つのか!?」
「俺たちの手は何のためにある! 足は! 頭は! 動かさないなら、死んでるのと同じだ!」
Gorillaが力強く続けた。
「……そうだ。今こそ──王国民として立ち上がるときだ!」
その言葉に、場の空気が変わった。
壁際に蹲っていた人々が、ゆっくりと顔を上げる。
「私たちも……泣いているだけじゃ、何も変えられない!」
銀髪の女性が叫ぶ。
名はAIMIRAI。
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
続いて、小柄な女性が手を挙げた。
パンダのようなお面……いや、パンツのようにも見える被り物をした、名はppa。
「わ、私も……もし、役に立てるなら……戦いますっ!」
その気迫に、空間に一瞬、温かい風が流れたような気がした。
「聞け! ロイヤルペンギンは出口を塞いでいる。だが──ここに突っ込んでくるゾンビペンギンなら、叩き返せるはずだ!」
toshiが天を仰ぎ、拳を突き上げる。
「数人じゃ無理でも、力を合わせればやれる! 俺たちでやるぞ!」
「おおおおおおおおおっ!!」
声が洞窟に反響する。
──後の民間組織、王国XETA党。ここに誕生である。
* * *
一方その頃、熱気と決意が高まる空間の隅で、小さな影たちが縮こまっていた。
PENPENZ兄弟。
五羽のペンギンたちは、身を寄せ合い、身体を震わせていた。
「兄ちゃん……ぼくたち、もしかして……」
「殺される……?」
「にいちゃん……ぐすっ……」
先ほどまでの気迫は影を潜め、兄弟たちはただ怯える小さな存在に戻っていた。
その時だった。
先ほどパニックを起こしていた少女が、ppaに寄り添われながら、そっと顔を上げた。
そして──震える兄弟たちの姿が、目に飛び込んできた。
「……あれ……」
少女は固まった。そして思い出す。
あの時、自分を助けてくれたのは──あのペンギンだった。
「……ご、ごめんなさい……」
小さな声で、少女は誰にともなく謝った。
* * *
「よし……行くぞ!」
太郎が突然立ち上がった。
「え?」
「さっきの穴から逃げるぞぉぉぉぉぉ!!」
叫びながら、すごい勢いで来た道を駆け出していく。
「えええええええええ!?」
PENPENZ兄弟、猛ダッシュで追いかける。
──民間人の戦いが始まる中、小さな英雄たちはまたひとつ、光から遠ざかっていった。
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