幕間【PENPENZ】7:ここで見ぬふりしたら
兄弟たちはモグラのようにフリッパーでせっせと土をかき分け、黙々と穴を掘り進めていた。
「兄ちゃん、そろそろ出口かも!」
「おう、地上の匂いがしてきたぞ!」
期待に胸を膨らませて進んだその先、開けた空間に出た。
──真っ暗だった。
広い。
あまりにも広い。
天井は見えず、足元は岩と土と瓦礫にまみれている。
「なんだよ……外、じゃないのかよぉ〜……」
「やっと地上だと思ったのに……」
がっくりと肩を落とす兄弟たち。
しかし、奥の方に微かに光が差し込んでいるのが見えた。
「……あれ、外の光じゃない?」
「ほんとだ! やった! 出られるぞ!」
歓喜の声を上げる兄弟たちだったが──その直後、異変に気づいた。
空間のいたるところに、人間がいたのだ。
子ども、大人、老人──数百、いや数千か。
しかもそのほとんどが、光とは逆方向──空間のさらに奥にある穴の方へと、押し合いへし合い、前にいる者を突き飛ばしながら進んでいた。
「……何してるんだ?」
「なんで……光に向かわないんだ……?」
老人や女性、子どもたちは壁際に蹲り、すすり泣いている。
中にはうわ言のように「ごめんなさい……」「誰か、助けて……」と繰り返す者もいた。
太郎たちの頭に「?」が浮かぶ。
その時──光の近くで、少女の泣き叫ぶ声が響いた。
「うわああああん! やだぁぁぁああああ!」
見ると、一羽のゾンビペンギンが、少女を抱きかかえて光の方へと歩いていた。
「待てこらあああああっ!!」
太郎が叫びながら駆け出す。
その声に、ペンギンが振り返った。
「ん? お、太郎じゃん! 久しぶりー!」
――ycmanだった。
「お前……ycmanか!」
次郎が驚くと、他の兄弟たちも「あいつ、村の……」とざわめく。
「久しぶりに再会できたのはいいけどなぁ……お前、何やってんだよ!? その子、泣いてるだろ!」
太郎が怒鳴る。
だが、ycmanはゲヘゲヘと笑って答えた。
「何って……お肉運びだよ、太郎。 ロイヤルペンギン様に献上する、最高のお肉! ボクたちはそのために生まれたんでしょぉ? たっくさん食べていただくんだからぁ」
目玉をぶら下げ、ヨダレを垂らしながら語るその姿は、かつての仲間とは思えなかった。
「……ふざけんな」
太郎が、一歩前に出た。
「おいおい、怒るなって。 ほら、太郎たちも一緒にロイヤルペンギン様の──」
その言葉が終わるより先に、太郎の棍がycmanの顔面をぶち抜いた。
「ぐべっ──!?」
容赦なく、何度も、何度も叩きつける。
「太郎、やめ──」
「うるさいっ!!」
砕けた骨と肉が飛び散り、かつての仲間は見るも無惨な肉塊となって転がった。
静寂が訪れる。
兄弟たちは、言葉を失っていた。
やがて──
「……兄ちゃん……」
三郎が、そっと声をかけた。
太郎は肩で息をしながら、血に染まった棍を握りしめたまま叫んだ。
「……ここで、見て見ぬふりなんかしてたら──俺たちは、ずっと弱いままだ!」
「バタケなんか、絶対に倒せるわけないっ!!」
その言葉に、兄弟たちの目が光を取り戻した。
「兄ちゃん……」
「俺たち……」
「行こうぜ。俺たちで、こいつら全部、駆逐するんだ!」
「おおおおおおっ!!」
ペンギンたちの咆哮が、暗い空間に響き渡った。
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