第110話:溶解
「いやー、気分いいね! あとはデザートつまみながら……って──」
ロイヤルペンギンが腹を抱えて笑っていた、その瞬間だった。
「──うっ!?」
突如として、奴の顔が引きつった。
「……ぐっ、ぐわあああああああっ!!」
胸を押さえ、凄絶な悲鳴を上げる。
そのまま巨体が地面をのたうつように転がり始める。
「おぎゃああああっ!! ぐぼっ……どぐっ……ぬああああっ!!」
呻きと悲鳴を繰り返しながら暴れまわるその動きはまるで発作のようだった。
周囲にいたゾンビペンギンたちは咄嗟に距離を取ろうとするも──間に合わない。
バチン、ベチャ、ズシャ。
暴れるロイヤルペンギンの巨体が次々とゾンビたちを踏み潰し、弾け飛ぶように肉片と体液が散る。
鳴き声すら上げられないまま、無数のゾンビペンギンが地面に叩きつけられ、砕けていった。
「ぐがあっ! なっ……なんだコレ……っ、うごおおおおおおおっ!!」
苦痛に耐えきれずのたうつ中、ロイヤルペンギンの皮膚がずるずると剥がれ落ちる。
黒く焼け焦げたような肉片が、地面にドロドロと溶けては広がっていった。
「……あ”のぎょう”しゃ……く”っでやがっだ……っ!!」
口から吐き出される断末魔のような呻き。
飛び散る肉塊。崩れゆく骨。
潰されたゾンビたちの体液と混ざり合い、周囲は濃密な腐臭と蒸気に包まれていく。
「どぐだぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っっっ!!!」
その叫びとともに、半壊した顔面からはすでに片目が溶け落ち、口元には歯茎ごと剥がれた肉片がぶら下がっていた。全身の構造が崩壊し、見るも無惨な姿に成り果てている。
「うごっ……あ”あ”あ”あ”あ”っっ!!! ぐそぉぉぉ、ごんなごどでぇええええええええ!!!」
助けを求めるように、ゾンビペンギンたちが本能のままに駆け寄ってくる。
──だが。
ジュウゥッ……!
「ギャアアアアアアアッ!!」
触れた瞬間、彼らの体もまた──溶けた。
ロイヤルペンギンの体からあふれ出る“何か”に触れた瞬間、ゾンビたちは音もなく崩れ落ち、泡立つようにドロドロと地面に染み込んでいった。
それでも、ゾンビたちは集まってくる。助けるためではない。支配された本能がそうさせている。
だが結果は同じだった。次々に接触した瞬間、ゾンビたちは灰汁のように溶け、地面に染み込んでいく。
「……ご……ごらぁあああああああああああああああっ!!!」
最後の絶叫とともに、ロイヤルペンギンの両目が見開かれ、顎がガクガクと痙攣する。
そして──動かなくなった。
その巨体が、ぐずり、と音を立てて崩れ始める。皮膚が剥がれ、骨が溶け、筋肉が液化していく。
その瞬間。
戦場全体が、沈黙した。
王都に点在していた無数のゾンビペンギンたちが、まるで一斉に糸を切られたかのように崩れ落ちていく。
すでに動かなくなっていた者も、まだ動いていた者も──例外なく。
すべてが溶けた。
ドロドロと音を立てながら、腐肉となって地面に沈み、戦場に黒い沼ができていく。
辺りに漂うのは、焦げた鉄と血と、魂の終焉の匂い。
その光景を、誰もが呆然と見つめるしかなかった。
リクも。
エリナも。
ライアンも。
リセルも。
焼大人も。
Daiも。
「……終わった、のか……?」
誰ともなく発せられた、小さな呟きが鎖の結界の中で反響する。
焼けただれた大地の上に、恐怖と狂気の残滓だけが横たわっていた。
それは、確かに勝利だった。
──だが、それが救いであったかどうか。
誰にも、答えられなかった。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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