第105話:焼の風、戦場を貫く
その咆哮は、誰よりも先に戦場を駆ける騎士たちの耳に届いた。
「どけえぇぇいっ!! 全力疾走飛翔烈火掌ぉぉぉ!!」
突如、夜空に響き渡る怒号。
直後、王都中央広場の北側上空に、紅蓮に燃える何かが飛来した。
火の尾を引きながら弧を描き、流星のように落下してくる。
「な、なんだ!?」
「空から……何かが来るぞッ!!」
騎士たちが思わず身構えるより早く、それはゾンビペンギンの集団ど真ん中に激突した。
──ドォンッ!!
轟音と爆風が地を揺らし、腐った羽根と黒煙が空へ舞い上がる。
ゾンビたちは吹き飛び、地面には巨大なクレーターが生まれた。
土煙が広がり、視界は一面の灰色に染まる。
「……な、何が起きた……?」
爆風の余韻が消え、風が流れる。
巻き上がった煙がゆっくりと晴れていく。
やがて──。
その中心に、真っ白なスカーフをたなびかせ、両拳を構えた一人の男が立っていた。
「……あれは……」
「まさか……焼大人!?」
場にいた者たちが息を呑む中、煙の帳が完全に晴れる。
中華風の胴着に身を包み、眉を上げて笑うその男は、伝説として語られる拳士──焼大人。
「ご無沙汰ですな、諸君。 焼大人、ただいま参上!」
ふてぶてしくも誇らしげなその声が、戦場に新たな風を吹き込んだ。
* * *
爆煙の余韻が残る中、今度は旧水路からさらに数人の影が現れる。
「ようやく……!」
剣を構えながら駆け出したのはリク。その背後には、仲間たちの姿もあった。
「《白銀の矢》のなん副団長と行動を共にしていた少年たち……!」
騎士たちの間に驚きの声が走る。
だがリクたちは答えず、すぐさま戦場へと飛び込んでいく。
リセルの矢が雷のごとく放たれ、ゾンビの頭部を正確に貫く。
ライアンは大剣を振るい、抜群の器用さで隙なく斬撃を繰り出し、ゾンビを次々になぎ払っていく。
「弓使いも大剣使いも手練れだ……!? おい、あれ、バーの店主……Daiまで!?」
その名が挙がると同時に、Daiは両手のナイフを構え、ゾンビの懐へと滑り込んでいた。
「コルク、今だ!」
「ワフッ!」
白い犬──コルクが高く跳躍し、ゾンビの頭上から喉元に噛みつく。
信じられない敏捷性で敵を翻弄し、Daiと連携して一体また一体と撃破していく。
「なんだあの動き!? めっちゃ強いぞ、あの犬!!」
名もなき騎士の叫びが、戦場の空気を塗り替える。
──新たな“第五勢力”、戦場に参戦。
* * *
そして今──各方面で戦っていた主戦力たちもまた、少しずつ、確実にロイヤルペンギンのもとへと迫っていた。
広場中央では、アザラシッムが剣を一閃しながら吠える。
「いいか! 奴が“穴”から動かぬ限り、被害は広がるばかりだッ! 一刻も早く引きずり出すぞ!!」
その号令に応じるように、なんが冷静に指揮を飛ばす。
「《白銀の矢》、前衛交代! 焼却処理、位置を維持して!」
南側から斬り込んでいたユリウスが続けて声を張り上げる。
「今こそ一気に押し込め! あの魔人を封じるんだ!!」
そして仗助は、瓦礫の陰をすり抜けながら敵の背後を突いた。
「さらに面白くなってきましたね〜♪ さぁさぁ皆さん、ここからが本番! お祭り、もっともっと盛り上げていきましょう〜♪」
手練れたちが四方から本体へと殺到し、戦場の重圧が一気に集中していく。
少しずつ、だが確実に──ロイヤルペンギンとの距離が縮まりつつあった。
……にもかかわらず。
そのロイヤルペンギンの顔からは、なぜか笑みが消えない。
不気味に歪んだ口元が、さらなるニヤニヤを刻んでいく。
「読んでくださって本当にありがとうございます。
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