第94話:それぞれの突破戦線
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激しい怒号と金属音が飛び交う、王都の外周。
剣戟の余波で地面が揺れ、泥と血が混ざる戦場を、王国兵たちが次々と駆けていく。
そんな中、兵士たちの間で、風に乗って噂が駆け巡る。
「おい! 聞いたか!? どこかから城内への侵入が始まったらしいぞ!」
「は? 本気かよ……まだ城壁は崩れちゃいねぇだろ」
「いや、間違いない! 《白銀の矢》第三遊撃隊が、西の区画で突破口を見つけたって話だ!」
「すでに拠点構築を始めてるらしい! 物資も運び込まれてるって!」
「おいおい、マジかよ……!」
誰の指揮でもなく、無数の兵たちの声が戦場に混ざり始める。
それは確かな情報とは言い難い、断片的な噂にすぎなかった。
だが、それでも──その“希望の声”は、兵士たちの胸を突き動かすには十分だった。
兵たちの視線が、自然と王都の空へと向かう。
そこに見えるのは、黒煙と火の手が上がる王都の影──
だが、その影の向こうに、希望は確かに灯り始めていた。
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《紅蓮の盾》騎士団本隊、南西戦線。
ユリウスは馬上から、剣を振るいながら前線を駆け抜けていた。
銀の鎧はすでに泥と返り血に染まり、その鋭い眼光は戦場の一瞬一瞬を見逃さない。
「第三陣、中央突破を維持! 勢いあるところに兵を集中させて、こじ開けろ!」
叫ぶたび、周囲の兵たちが即座に反応し、隊列がわずかに流動する。
攻防が幾度も繰り返される中、ユリウスの指揮はまるで流れるように戦況へ溶け込んでいた。
無骨な剣を振るうたびに、ゾンビペンギンの黒い血が地に飛び散る。
馬の蹄が大地を打つたび、兵士たちの士気がわずかに跳ね上がる。
「第二陣、左から押し込め! ……いいぞ、そのまま行け!」
その声は、怒号が飛び交う戦場の中でも確かに響いた。
目の前の地形も敵陣も見極めた上で、瞬時に判断と指示を重ねる。
それでもユリウスは手綱を緩めることなく、剣を掲げ、最前線へと突き進む。
「ここが踏ん張りどころだぞ! 壁が崩れたなら、押し込むのみだ!」
その言葉に呼応するように、仲間たちの盾が上がり、槍が前へと突き出された。
熱気と緊迫が入り混じる中、確かな信頼のもとに、彼らはひとつの波となって動き出す。
ユリウスの鼓舞は、兵たちに確かな力を与えていた。
その背中が、確かに“突破口”へと兵を導いていた。
* * *
《白銀の矢》副団長、“なん”は騎馬の上から戦況を見渡していた。
どこもかしこも、死体と瓦礫、そしてゾンビペンギンの群れ。
だが、その中に、明確な“揺らぎ”がある。
「……あそこ。敵の密度が、妙に薄い」
視線の先、城壁沿いの一角。
地形の関係で防衛線が崩れ、ゾンビペンギンの数が散っていた。
激戦の最中では見落とされがちなわずかな隙――だが、彼女の目はごまかせない。
「城壁の一部が削れている……このまま突破できます!」
なんは鞍を蹴り、前傾姿勢で叫ぶ。
「各位、私についてきてください! ここから王都内へ侵入します!」
「「ハッ!!」」
部下たちの声を背に、なんは剣を抜き、駆けた。
敵の前衛を切り崩し、わずかな突破口をこじ開けていく。
「やああああっ!」
振り下ろされた鋭い一閃が、ゾンビペンギンを切り裂き、血を散らす。
たちまち一羽、また一羽と地に沈み、その流れに乗るように部隊がなだれ込む。
そしてついに――なんの馬が城壁の切れ目を越えた。
内側。王都の路地が広がる。
「“なん”副団長が王都に侵入したぞーっ!」
その声はすぐに後続にも伝わり、さらには戦線全体に波及していく。
「ユリウス団長も抜けたらしいぞ!」
「よっしゃ、続けーっ!!」
士気が爆発し、兵たちの進軍が一気に加速した。
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