表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
106/198

第92話:騎士を束ねし者、戦場に還る

 王都・北東の競技場跡地の遺跡。その奥深く、隠された出入口――そこから、黒い影が次々と飛び出していく。


 それは、《漆黒の鎧》騎士団。


 通常であればこの騎士団を束ねる団長は戦場の先頭に立つはずだ。

 しかし、現在その団長は憤怒の魔人あいおーとの単独戦闘に臨んでおり、指揮を執ることはできない。


 そのため、王国四騎士団すべてをまとめ上げる、騎士の頂点に立つ男――アザラシッムが自ら《漆黒の鎧》を率いて戦場に降り立った。


* * *


 「建物を利用しろ。物陰に潜み、殲滅せよ」


 アザラシッムは短く、冷静に指示を飛ばす。


 その指示は必要最小限でありながら、確実に意図が伝わる。

 まるで長年共に戦ってきた者同士のような連携。

 騎士たちは頷き、迷うことなく散っていった。


 王都の路地、倒壊した建物、入り組んだ小道――騎士たちは重厚な鎧を纏いながらも、巧みに周囲の地形を活かして展開していく。

 奇襲と包囲、そして速やかな制圧。

 それは決して軽やかさや静けさではなく、鍛え抜かれた訓練と実戦経験に裏打ちされた“精密な動き”だった。


 「……いたぞ、鐘楼の陰に潜んでいる!」

 「西側の通路、ペンギン数体確認。囲め!」


 声が上がると同時に、複数の部隊が連携して動く。

 左右からの挟撃、上階からの援護。

 ゾンビペンギンたちは抵抗する暇もなく、次々と討たれていった。


 小さな通路、崩れた家屋、そのひとつひとつが騎士たちの手により制圧されていく。


 重い鎧が軋む音さえ、いつしか戦場の“律動”のように整然としていた。


 決して音もなくというわけではない。だがその一歩一歩には、確実な意思と技術が込められている。


 王国の騎士団――その名に恥じぬ精鋭たちの殲滅戦が、王都の影を浄化していった。


* * *


 北東区の壊れた路地裏。

 倒壊しかけた石壁の隙間から、ぬるりと現れたのは一体のゾンビペンギンだった。


 その目は異様にぎらつき、他の個体とは違う“確かな知性”を漂わせていた。


 ゆっくりと周囲を見渡し、低く喉を鳴らす。


 「……また人間どもか。実に愚かだな。何度蹴散らされれば気が済む?」


 重々しく、そして明確に“言葉”を話したその姿に、周囲の騎士たちは一瞬、動きを止めた。


 「い、今……しゃべったか……?」


 「魔物が……言葉を……?」


 動揺が広がる。

 しかし、アザラシッムだけは一切足を止めることなく、静かにそのペンギンへと歩を進めていた。


 「ほう。随分と落ち着いているな、人間。貴様、何者だ?」


 ゾンビペンギンは口元を歪めて笑う。

 周囲の騎士たちは剣を構えるが、アザラシッムはそれを制することなく、ただ一歩前へ。


 そして――何の構えもなく、ただ一歩踏み出したその瞬間。


 風が走った。


 否、それは風ではない。

 鋭く、黒い斬光――否、色すら感じる間もなく、空間が“切断された”。


 ゾンビペンギンの言葉が止まる。


 「ぐ……ぁ……」


 その体は、まるで切り取られたように崩れ落ち、地に伏した。


 誰もがその動作を見ていなかった。

 ただ結果だけがそこにあった。


 アザラシッムは剣を抜いた様子も見せず、ただ背を向けながら命じる。


 「構うな。全員、次の区画へ。南路地の制圧を急げ」


 「「ハッ!!」」


 緊張の糸が再び張り詰め、騎士たちは地を蹴って散開する。


 アザラシッムの足取りに迷いはない。

 しゃべるゾンビペンギンだろうと、名もなき雑兵だろうと、その目には価値の差など存在しなかった。


 そこにいる“敵”である限り――ただ一太刀のもと、斬り捨てるのみだった。


* * *


 民家の屋根を伝って潜入した部隊は、屋内に隠れていたゾンビペンギンを一網打尽にする。


 「二階制圧! 一階もクリア!」

 「こっちは地下がある! 見ろ、まだ動いている個体がいる!」

 「やれぇ!」


 床板を突き破って這い出してきた敵も、すかさず刃を叩き込まれ、その場で崩れ落ちた。

 建物という地の利を活かし、騎士たちは一切の容赦なく敵を制圧していく。


 別の路地では、倒れた瓦礫の下から這い出してきたゾンビペンギンを、騎士たちが十字包囲で押しつぶす。


 「動きが鈍ったところを挟め! 左、回り込め!」

 「よし、逃がすな! ここで仕留めろ!」


 冷静かつ迅速な指示が飛び交い、騎士たちの動きは洗練されていた。

 過酷な状況の中でも崩れることなく、緻密な連携で戦場を切り裂いていく。


 「さすが……ゲリラ戦を知り尽くしている……!」

 「敵に気配を悟らせず、味方には的確な指示。あれがアザラシッム総帥か……!」


 誰かが小さく呟いたが、アザラシッム本人は特に応えない。

 ただ、王都を見渡すように目を細めた。


 その目は、一つ一つの戦局を計算する軍師の鋭さと、戦場に立つ者の覚悟を湛えていた。


 「……殲滅は進行中。残る部隊も北側に展開。最終集結地点は中央広場だ」


 静かに、確実に。

 誰よりも早く、そして深く戦局を読み切り、次の展開へと移る。


 命令を受けた騎士たちはすぐに次の行動に移り、王都の路地を風のように駆け抜けていった。


 王国騎士団の頂点に立つ男、アザラシッム。


 その進軍は、今まさに王都奪還の狼煙となっていた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ