第91話 ゾンビの群れ、伝わる声
王都西側の戦場。
そこでは、《白銀の矢》騎士団団長ロビンと、《紅蓮の盾》騎士団団長ユリウスが、共に正面突破による陽動作戦を展開していた。
目の前に広がるのは、無数のゾンビペンギンによって形成された敵の大軍。
その中には、アルファ因子を持ち、ロイヤルペンギン本体と繋がっているとされる“しゃべるゾンビペンギン”の存在が確認されていた。
* * *
「くそっ、囲まれたか……!」
名もなき兵士が絶叫する。小隊が小道に追い詰められ、必死に抵抗していた。
「隊長! 援護を――っ!」
その叫びに応じて、熟練の騎士が盾を前面に突き出し、ゾンビペンギンの波を押し返す。
「怯むな! 我らには王国の未来がかかっている!」
叫びながらも、隊長の顔には焦りの色が浮かんでいた。
ゾンビペンギンたちは動きが鈍いはずだった。
しかし、この群れは統率されている。
まるで“意志”があるかのように。
その時だった――
「やれやれ……吾輩の兵に、してやられているようだな」
どこからか響く声。
そして、ゾンビペンギンの一体が、口を開いた。
「貴様らの動きなど、吾輩にはすべて筒抜けであるぞ」
兵士たちは凍りつく。
「しゃ、しゃべった……!? ペンギンが……!?」
そのペンギンは確かに言葉を話していた。
そしてその口調は、どこか高慢で、知性を持っていた。
「吾輩は、ロイヤルペンギン。貴様らがいくら足掻こうと、無駄なのだ」
その声に、兵たちの背筋が凍る。
* * *
一方、別の小隊では――
「俺が蹴散らして名を上げてやるぜぇぇえ!」
血気盛んな若き隊長が、剣を振るいながら突撃する。
「ゾンビペンギンなんざ、斬って斬って斬りまくれェ!」
「うぉぉぉぉ!」
「やっちまえぇぇぇー!」
兵たちは気合とともに突撃した。
だが、その熱気も束の間、兵たちは分断され、一人、また一人と倒れていく。
「うわぁぁぁ……!」
「助けてくれーっ!」
「みんなどこにいるんだー!」
「ぎゃぁぁーー!」
やがて若き隊長も孤立し、ゾンビペンギンの包囲網に囚われる。
「そ、そんなばかなっ……!」
そのとき、一体の異質なゾンビペンギンが前に出た。
「吾輩の支配に気づかず、突っ込むとは愚かなる。」
「なっ……なんだと……!? て、てめぇ……!」
隊長が言葉を失う間もなく、ゾンビペンギンたちが一斉に襲いかかる。
圧倒的な連携の前に、小隊は完全に瓦解した。
* * *
さらに別の場所。
真面目で戦術に忠実な隊長が、教本通りの陣形でゾンビペンギンに挑んでいた。
「左翼、前進! 弓兵は後方から援護! 突撃班は三点突破だ!」
完璧にも見える指揮だった。
しかし、そこにも“しゃべるゾンビペンギン”が現れる。
「教本通りか。しかし……通じぬよ。吾輩が貴殿の“教本”、書き直してやろうか?」
「何を馬鹿なことを。魔物風情が戦略を語るな!」
「皆、惑わされず、基本に忠実に行くぞ!」
「承知!」
「問題ありません」
「ハッ!」
隊員たちは揃って気を引き締め、動き出す。
だが、しゃべるゾンビペンギンはにやにやと口元を歪めたままだった。
その直後、ゾンビペンギンたちが不自然な動きを見せ始める。
「所詮は魔物……よし、あそこを叩けばこの一帯は制圧できる!」
そう確信した矢先――
「?!」
ゾンビペンギンたちの動きは罠だった。
奇妙な布陣は計算された誘導であり、教本の裏をかくように隊を翻弄していく。
「なっ、なんだこの動き……!? こんなはずでは……!」
「う、うわあああっ!!」
まるで戦術を逆手に取られたかのように、隊は正面からの猛攻を受け、壊滅状態となった。
* * *
《紅蓮の盾》騎士団陣営。
ユリウスは額を押さえながら、次々と舞い込む伝令の報告に耳を傾けていた。
「ロイヤルペンギンを名乗る、しゃべるゾンビペンギンか……。他でも“ロイヤルペンギン”との戦闘報告が上がっているが……」
伝令が息を切らして報告する。
「はっ、団長! “しゃべるゾンビペンギン”が確認されました。被害甚大、魔導具で目印は付けてあります!」
「分かった、よくやった。下がれ」
ユリウスは視線を地図に落とす。
「これで、二体目……」
* * *
《白銀の矢》騎士団陣営。
一方、ロビン団長の本陣にも同様の報告が届く。
「団長! 二箇所でしゃべるゾンビペンギンが出現。各隊大きな損害を受けていますが、目印は設置済みです!」
さらに、冒険者が息を切らしながら現れる。
「第三隊の支援に向かっていた冒険者隊です! 一体、しゃべるゾンビペンギンに遭遇しました! 被害は甚大ですが、魔導具で目印を残しています!」
「ふむ……」
ロビンは静かに唸った。
しばらく戦闘が続くが、新たな目印報告は来なかった。
(……全ての報告を合わせると、目印の数は五つ。しゃべるゾンビペンギン……つまり、ロイヤルペンギンと繋がっている個体は、五体までか?)
静かに地図を指でなぞりながら、仮説を頭の中で組み立てていた。
「この五体、潰せば……あるいは……」
状況は刻一刻と悪化している。
戦場全体が、ロイヤルペンギンの知略の下に制圧されつつあった。
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