第88話:燃え上がる憤怒、砕かれる鉄壁
* * *
轟音と共に、大地が揺れた。
遺跡の広場に響き渡る破砕音。それは魔人あいおーと、王国最高の防御力を持つ剣士――サクラ団長の激突によるものだった。
「ぐっ……!」
サクラは左腕で打撃を受け止め、右腕で剣を突き出す。
だが、目の前の相手はびくともしない。
巨体に見合わぬ俊敏さと、底知れぬ腕力。
あいおーは獣のような笑みを浮かべ、真っ向から拳を打ち返してきた。
「その鎧……ホント、壊れねぇなぁ……」
鋼鉄をも凌駕する魔導鎧が火花を散らすたび、サクラの体に蓄積される疲労は増していく。
表情こそ変えぬ彼だが、呼吸は確実に荒くなり、動作のキレもほんのわずかに鈍っていた。
この僅かな差が、戦場では命取りとなる。
「ふんっ!」
サクラの回し蹴りがあいおーの脇腹に突き刺さる。
衝撃で地面がめくれ上がるが、あいおーは一歩も退かない。
「ちょいとくすぐったいな。だが……まだ足りねぇ!」
どこか楽しげな声をあげると、あいおーは拳を振り下ろし、サクラの肩を狙う。
その一撃を滑り込むように避けたサクラだったが、遺跡の壁が巻き込まれて粉々に崩れた。
その破片の隙間から――あいおーの目に、何かが映った。
遺跡の奥、扉から出てくる兵士たち。そして、その中心に立つ女王シーユキの姿。
「へぇ……仲間が出てきたってか」
その視線に気づいたサクラは、油断なく構え直す。
「……気を逸らすな。相手は私だ」
「へへっ、安心しな。あいつらは無視してやるよ。どうせ逃げてもすぐ追いつく」
あいおーの目が愉悦に歪む。
「でも、今は違ぇ。お前との遊びが、まだ終わってねぇからなァッ!」
次の瞬間、あいおーの拳が再び唸りを上げて振り下ろされた。
サクラは再度受け止める――が、その重さにわずかに膝を折る。
(……くる……このままじゃ、押し切られる)
その予感は、的中した。
「なァ……ちょっと飽きてきたわ」
あいおーが突如、戦いの手を止め、首を鳴らす。
「おもちゃ、壊れねーし……だけど、そろそろ終わりにしてやっか」
その言葉の意味に、サクラの眉が僅かに動いた。
あいおーは両腕を広げ、深く息を吸い込むと、地を這うような声で叫んだ。
「――GEAR・THREE、解放ォォッ!!」
次の瞬間、王国全体を揺るがす衝撃が走った。
あいおーの全身から紅蓮の炎が噴き出し、筋肉がさらに肥大化する。
肩から腕にかけて、まるで鎧のような形状に変質した筋繊維が波打ち、炎が地を裂くように広がる。
「なっ……!」
サクラの目が見開かれる。視界に入るのは、もはや人型とは思えぬほど異形へと変貌したあいおーの姿。
それは圧倒的暴力の化身。
「さぁて……ラッシュいくぜぇぇぇッ!!」
そう叫ぶや否や――
「あいあいあいあいあいあいあいあいあいあいッ!!」
あいおーの連撃が爆音と共に炸裂した!
拳、肘、膝、突進、跳び蹴り――怒涛のごとき乱打が、サクラを襲う。
その場から動けない。
指一本動かす隙が無いほどのラッシュ、あまりの速度に体がだんだん浮き上がってくる。
鎧が悲鳴を上げる。
壁際に追い詰められ、左右から挟まれるように、サクラは成分不明な遺跡の壁とあいおーの猛撃に圧迫されていく。
「あいあいあいあいあいあいあいあいあいあいッ!!」
「ぐっ……くっ……あああああああああっ!!」
ついに悲鳴を上げた。
あいおーの笑い声が響く中、崩れゆく壁と、蒸気のように立ち昇る熱が、戦場を赤く染めていった――。
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