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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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第87話:開かれし扉と水の力

 遺跡内に緊張が満ちる中、王国騎士団総帥アザラシッムを中心に、兵たちは慌ただしく作戦準備に取り掛かっていた。そんな中、エリナはふと、ひとつだけ閉ざされたままの扉をじっと見つめていた。


 「リク……あそこへ行ってみたい」


 エリナの真剣な声に、リクはすぐに頷いた。

 彼女の直感は、これまで幾度となく道を切り開いてきた。


 それに気づいた女王シーユキが、リクたちのもとへと歩み寄る。


 「その扉は何をしても開きませんでした。どれだけ調査しても、仕掛けらしきものは見つからなかった」


 シーユキは扉を見つめながら言葉を続ける。


 「他の扉はすでに開かれていて、内部は朽ち果てていました。どうやらこの遺跡は、中心部から花びらのように複数の部屋が広がる構造のようです。我々が入ってきた場所も破損が見られるので、本来は壁だったのかもしれません」


 「少しだけ、見てきます。まだ時間はありますよね?」


 エリナの言葉に、女王は小さく頷いた。


 「ええ。気をつけて」


 そのとき、ライアンが肩を竦めながら声をかけた。


 「こっちは準備に専念しておく。お前らのことだ、どうせまた何か見つけてくるんだろ?」


 「私は弓の手入れをしている。まだまだ戦闘は続く……こういう時こそ、準備が物を言うからな。そっちに何かあっても、すぐに動けるようにしておく。」


 とリセルが落ち着いた声で言い添える。


 「私もあいおーが気になるのでここで待機しています。もしもの時は、コルクが鼻を利かせて追いかけてくれるはずです」


 Daiはコルクに目を向ける。

 足元にいた犬――コルクがワンと一声鳴いた。

 頼れる相棒の意思表示だった。


 続いて焼大人が腕を組みながら、うむとうなずく。


 「ほう……あの扉に興味を持つとは。よいだろう、我はここで気を練りながら待つとしよう。いざという時は――焼大人、すぐに参る!」


 仲間たちの言葉に、エリナとリクは笑みを交わし、扉の方へと静かに歩き出した。


* * *


 重厚な扉の前に立ったリクとエリナ。


 押しても開かず、取っ手もない。


 「やっぱり……何か仕掛けでもあるのかな」


 リクが呟いたそのとき、エリナがそっと扉に触れる。


 瞬間、扉が淡く青白い光を放ち始め、ゆっくりと音もなく開いた。


 「……開いた?」


 二人は思わず顔を見合わせ、そのまま中へと足を踏み入れる。


 中は静寂に包まれていた。部屋の中心には、見覚えのある石板が台座に鎮座している。

 まるで、かつて出会った“MANAKA”の部屋と同じ構造だ。


 エリナが迷わず石板に手を触れる。


 ピシィン……!


 石板が淡い蒼白の光を放ち、低く震えるような音が遺跡の奥に広がった。

 床が微かに揺れ、空気が張りつめる。


 「……っ!」


 エリナが目を見開くと、空間が一瞬ゆらぎ、何かが像を結び始める。


 光の粒子が集まり、やがて――


 エリナの目の前に、一人の女性の姿がぼんやりと現れた。


 桃色のアーマーに身を包み、長い髪を高く束ねた気品ある女性。

 その瞳は宝石のように澄み、どこか優しげな微笑を湛えている。


 まるで、どこかで見たことのあるような懐かしさを感じさせる――


 それは、XANA: Genesis #8208「Aylah」の姿だった。


 エリナは思わず声をかけようとした。


 しかし、女性――Aylahの唇は確かに動いているものの、音は一切届かない。


 映像にも激しいノイズが走り、姿が断続的に乱れる。

 まるで古びた記録映像のように、断片的にしか彼女の動きが読み取れなかった。


 「通信が……?」


 リクが呟く。


 どうやらこの部屋の設備は、Manakaの部屋よりもさらに劣化が進んでいるようだった。


 音のない空間に、ただ懸命に何かを伝えようとするAylahの表情と、揺れる唇だけが浮かび続ける。


 Aylahはノイズにまみれた姿のまま、懸命に手振りを交えながら何かを伝えようとしていた。


 唇は何度も動き、両手を胸に当てて、あるいは天を仰ぎ、目に見えない何かを指し示そうとする。


 それでも、音は届かない。言葉も意味も、ノイズの波にかき消される。


 「……ごめんね……」


 エリナが小さく呟いた。


 「今の状態じゃ、あなたの伝えたいこと……ちゃんと受け取れない」


 その言葉に、Aylahは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐに穏やかな笑みに変わった。


 そして、両手を胸の前で軽く振り、まるで「謝らないで」と言わんばかりのジェスチャーを送る。


 そのままAylahは、ゆっくりと歩み寄り、エリナの前に立った。


 まるで、最初からこの瞬間を知っていたかのように。


 「……Aylah……」


 エリナがその名を呟いた瞬間、Aylahはそっと手を伸ばし、エリナの胸元に触れる。


 「……?」


 触れたその手が、淡い水色の光を放ち始めた。


 何かを囁くように、Aylahは静かに口を動かす。


 そのときだった。


 胸に、ひやりとした感覚が走る。


 ジリリリ――という電子音のような何かが、脳に直接響いた。


 《Genesisカード Aylah 取得》XANAチェーンに水属性 Lv1付加


 静かな青の光が、エリナの全身を包み込んだ。


 「……これが、水の力……」


 そして――


 Aylahの姿は、風に散る光の粒子のように、静かに、消えていった。


* * *


 外にいた女王シーユキたちは、突如として扉が開いた光景に目を見張った。


 「あの扉が……」


 リリィが驚きに目を見開き、女王は静かに息を呑む。


 「やはり……彼女には何かがある」


 それからしばらくして、エリナとリクが部屋から戻ってくる。


 エリナは真剣な表情のまま、女王の前へと歩み出た。


 「陛下。私たちは、サクラ団長と共に憤怒の魔人と戦いここで仕留めます」


 その言葉に、周囲がざわついた。


 「あなた達が……?」


 女王は一瞬目を見開いたが、エリナの揺るぎない表情を見て、すぐに静かに頷いた。


 「わかりました。あなたたちに託します」

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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