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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第2部:リクとエリナ 〜新たな世界での出会い〜
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第4話:信頼と共感

 リクに助けられたあと、エリナは彼の家に匿われることとなった。


 彼女の体には、無数のあざと擦り傷が刻まれていた。汚れた服はところどころ破れ、泥と血が乾いて固まっている。

 歩くたびに小さく痛みを訴えるように肩を震わせ、言葉ひとつ発することなく、リクの背中にぴったりとついて歩く姿は、誰が見ても痛々しいものだった。


 その光景に、リクの両親――ガイルとリナは、驚きこそしたが、彼女を追い返すような素振りを見せることは一切なかった。


 玄関の戸を開けた瞬間、リナは咄嗟に近くにあった毛布を手に取り、何も言わずそっとエリナの肩に掛けた。

 その仕草は、まるでずっと前から娘として接していたかのように自然で、温かかった。


 「ありがとう……こんな私を……助けてくれて……」


 エリナは部屋の隅に座り込み、毛布を胸元で抱きしめながら、か細い声で感謝の言葉を絞り出した。

 しかしその声は、不安と戸惑いに震え、まるで「信じてはいけない」と自分に言い聞かせているようでもあった。


 リナはそんな彼女のそばにしゃがみ込み、優しく微笑んだ。


 「困っている人を助けるのは当然のことよ。それに――」


 彼女はエリナの髪をそっと撫でながら続けた。


 「あなたみたいな可愛らしい子を、見捨てるなんてできるわけがないでしょ?」


 その一言に、エリナは小さく首を振った。


 「でも……私、普通じゃない。魔法も……みんなが知らない、怖がる力で……」


 声が詰まった。口を開こうとするたびに、これまで浴びせられてきた罵声や、背中に受けた痛みが脳裏に蘇る。

 それでも、リナは否定しなかった。ただ静かに、彼女の手をそっと包み込み、自分のぬくもりを伝えようとした。


 「大丈夫よ。ここにはあなたを傷つける人なんていないわ。もう、何も怖がらなくていいの」


 その声は、冷えきった冬の空気に差し込む春の日差しのように、あたたかく、やさしく響いた。


 リナは慣れた手つきで、薬草を煮出し、ほつれた包帯を手早く整えながら、ひとつひとつ傷の手当てを始めた。

 エリナの手足、肩、膝――傷の多さに、リナの眉がほんの少しだけ曇る。それでも口には出さなかった。


 「ここ、ちょっと沁みるわよ。でもね、すぐ楽になるから」


 「……うん」


 その返事と同時に、エリナの頬を一粒の涙が流れ落ちた。

 痛みのせいではない。それは、温かさに触れたことでこぼれた、心の涙だった。


 ――いつぶりだろう、こんなにも優しくされたのは。

 ――いや、もしかしたら、生まれて初めてだったのかもしれない。


 誰も問い詰めず、責めず、ただ自分を“守ろう”としてくれている。

 それだけのことが、今のエリナには、胸がつぶれそうなほどに苦しくて、嬉しかった。


 リクは部屋の隅でその様子を黙って見守っていた。

 気丈に見えていたエリナの顔が、ほんのわずかに緩んでいるのを見て、彼は小さく息を吐いた。


 安心したのだろう。自分が選んだ行動が、少しでも彼女の救いになっていたことが、何より嬉しかった。


* * *


 夜が更け、静かな寝室。

 エリナはリナに用意してもらった清潔な布団に横たわりながら、目を閉じることができずにいた。


 天井を見つめる目は、まだ怯えと不安を完全には捨てきれず、何度も瞼の裏で今日の出来事を繰り返していた。


 それでも――

 リナの優しい声や、リクの静かなまなざしが、胸の奥でじんわりと残っていた。


 あたたかくて、やわらかくて、そしてどこか懐かしい気がする。

 そのぬくもりが、静かに、静かに、彼女の心を癒やしていた。


 その夜、布団の中で、エリナは小さな声で呟いた。


 「……ありがとう、リク……」


 その声は誰にも聞こえず、闇の中に吸い込まれていった。

 けれど確かにその言葉には、感謝と――小さな希望の光が宿っていた。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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