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永遠に巡る愛の果てへ 〜XANA、理想郷を求めて〜  作者: とと
第1部:優斗とEriko 〜メタバースの絆〜
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第1話:仮想世界での出会い

 現実世界が、あまりにも灰色だった。


 優斗にとって日常とは、ただ時間に押し流されるだけの機械的な繰り返しだった。朝起きて、職場へ向かい、曖昧な表情で業務をこなす。人間関係も希薄で、誰と深く関わるわけでもない。少しずつ、心の温度が失われていくのを自覚しながらも、どうすることもできなかった。


 そんな日々から逃げるように、彼は毎晩「XANAメタバース」と呼ばれる仮想空間へと身を投じていた。


 それは、現実の制約を超えたもう一つの世界。肉体の限界、肩書き、年齢、性別……あらゆる枷を捨て、理想の自分として存在できる空間。しかも、ブロックチェーン技術によって構築されたこのメタバースでは、ユーザーの記録や行動は全て改竄不能なデータとして保存されており、ある種の“永遠”すら保証されていた。


 「……今日も、ログインするか」


 ため息交じりに呟きながら、優斗は自宅の仮想端末を起動する。柔らかな起動音が部屋に響き、椅子にもたれかかった彼の意識は、波紋のような光に包まれていった。


 ──次の瞬間。


 視界が一変し、目の前には眩いほどに美しい都市が広がっていた。


 透き通るような空に浮かぶ無数のインターフェース。空中を移動する乗り物、流れるように表示されるデータの波。白銀のタワー群が空を突き、あらゆる種族・姿形のアバターたちが自由気ままに歩いている。


 ここが「XANAメタバース」──優斗にとって、もう一つの“現実”だった。


 「さて、今日は……何をしようか」


 自分のアバターを確認する。現実より少し背が高く、シャープな輪郭に洗練されたファッション。髪型も、いつか理想として描いた通りのスタイルだ。


 思えば最初の頃は、それだけで心が躍った。けれど、今はどうだろう。あまりにも慣れすぎてしまったのか、心が躍る感覚も薄れていた。


 マーケットの喧騒、リアルタイムで演出される音楽イベント、VRスポーツ競技……どれも精巧で迫力に満ちていたが、どこか“仕組まれた楽しさ”のように感じられ、心の奥には届かなかった。


 彼は無意識のうちに、人の少ない並木通りへと足を運んでいた。やや薄暗い街灯の下、葉の影がアスファルトに模様を描く。いつもなら見逃してしまうような静かな場所。


 ──そこで、彼女に出会った。


 まるで世界の喧騒から切り離されたように、並木の下に一人立っていた少女。


 短く整えられた黒髪が、微かに光を反射して揺れる。大きく澄んだ緑の瞳は、どこか現実的で、そして……どこか懐かしい気配を帯びていた。仮想空間にありがちな華美な装飾や過度なアバター加工もない。素朴で、静かで、でもなぜか強く目を惹く。


 その姿は、あまりにも“自然”だった。


 「君……初めて見る顔だね?」


 優斗が思わず声をかけると、少女は少し驚いたように目を見開いた。そして、ふわりと微笑む。


 「……初めまして。私はEriko。あなたも、この世界を探索しているの?」


 柔らかく、けれどどこか芯のある声。その響きに、優斗の胸が微かにざわついた。


 「うん、まあそんなところ。俺は優斗。もしよかったら、一緒にこの街を回ってみない?」


 Erikoはわずかに首を傾げ、戸惑った表情を見せた。だが次の瞬間、静かに頷いた。


 「ええ……いいわ。私も、まだこの世界に慣れていなくて。案内してくれるなら、助かるわ」


 「任せてよ。俺もまだまだ初心者だけど、二人で見れば新しい発見もあるかもね」


 ふと気づけば、二人は自然に歩き出していた。


 互いのことも、この先に待ち受ける運命も、何も知らない。ただ、街の灯りに照らされながら歩くその距離が、妙に心地よかった。


 仮想世界での、ほんの小さな偶然の出会い。


 それはやがて、この世界の命運を左右する――


 運命の出会いだった。

「読んでくださって本当にありがとうございます。

ブックマークや評価、感想をいただけたら、今後の創作の励みになります。」

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