夢とうさぎ
「……あれ」
気づけば、セイラは家のドアの前に佇んでいた。
「あれ、あれ、…??」
何か、大事なことを忘れている。気がするが、思い出せない。
「まあ、いい、かな?…ただいま〜!!!」
そうだ、扉を開ければいつも通り、家族が待っているのだ。
いつも通りご飯を食べて、いつも通りお布団で寝て、いつも通り村で花を売る。
なんだか何か忘れているような気がするけど、きっと気のせい。
そう思いながら扉を開ける
そこは、血の海だった
「……え、あ、あは、あれ??」
視線を落とす、腕が転がっている
視線を動かす、足が転がっている
テーブルには、家族の生首が乗っている
「母さん、父さん、…ダン?ショーン?」
震える声で名前を呼ぶ。
なんで、なんでこうなってるんだっけ??
ぽかりと、家族の目が見開かれる
そこには、目玉がなかった
「あああああああああ!!!!!!セイラ!!!セイラ!!!なんで置いて逃げたの!!?!?!?」
「痛い!!痛いよお!!!!お姉ちゃあん!!!!」
「セイラ!!!!裏切り者!!!!!!死んで仕舞えばいいのに!!!!!!」
「助けて!!!助けてえ!!!!!!!!!!!」
「っひ、い!!」
思わず耳を塞ぎ家族だったはずのものに背を向け家から飛び出す。
飛び出した先は地獄だった
燃え上がり転げ回る人
心臓を生きたまま抉り出されている人
子を庇い首を落とされる人
みんな、みんな、見覚えのある村の人たちだった。
震えるあしで呆然とそれを見ていると突然、叫び声が止み、皆がセイラを見つめる
燃えていても、心臓が無くても、首すらなくても……
「「「「なんで、お前だけ生きているの????」」」」
「っっっっっっっいやああああああああ!!!!!!!!」
「ぎゃ!!?!?!」
恐怖で混乱したまま飛び起きる。そのままの勢いで何かにぶつかりはっ!!と意識が戻る。
ズキズキと痛む頭、汗でベタついた体、全力で走った後のように荒い息。
必死に呼吸を整えているとピョコりとベッドのそばからウサギの耳が飛び出す
「痛っっっっっってえな!!!!!何すんだよ!!!」
おそらくセイラの顔を覗き込んでいたであろう、ウサギの耳がついたキャップを被った男がわあわあとセイラに文句を言っている。
顔に見覚えがあるようなないような、ひたすら騒いでいる男に困惑していると奥の扉が開き、ひょこりとシトリーが顔を覗かせる
「まあまあ、何がありましたの??」
不思議そうな顔の彼女に少しだけホッとしながら経緯を話すとシトリーはくすくすと笑いながらセイラの頭を撫でた。
「怖い夢を見ていたのですね…かわいそうに、そして飛び起きたら彼と頭をぶつけた…と。」
「そうなんだよシトリーちゃあん!!おでこ痛い!!」
ブーブーと文句を言いながらシトリーと肩を組む彼をぼんやりと見ているとああ、とシトリーが組まれた肩をほどきながら口をひらく。
「セイラ様はご気絶になられておられましたから、彼のことを知らないのも無理はありませんね。」
そして上品にウサギキャップの男を手で示す
「この方はクレイグ様です。私の契約相手で、この屋敷に住まわれているのですよ。」
紹介されると男…クレイグはニヤニヤと楽しげに笑いながらズイ、とセイラに顔を近づける
「そゆこと!!よろしくな、セイラちゃん♡」
そのままぼーっとしていたセイラの手を取りブンブンと振る
腕を振られてはっ!!と意識を戻したセイラは慌てて挨拶を返す
「初めまして!!えと、セイラです…あ、でも名前はもう知ってますね、えっと、ウェインさんの新しい契約者??らしくて、今日から私もここでお世話になることになったんです!!よろしくおねg「はあ!!?!?!あんたがウェインの!??!嘘でしょ!!?!?」あえ…」
「クレイグ様、いけませんよ、話を遮っては。」
「いやいや!!!遮りもするでしょ!!だって”あの”ウェインの契約者でしょ!!?何があってそうなったわけ!?!?」
「クレイグ様、それは先ほど話しましたが??」
「い、いや、だあってえ… 」
「はあ…もう一度話しますから、こちらへ…セイラ様はこちらのお召し物にお着替えください。」
シトリーは服一式をセイラに手渡すと、クレイグを連れて部屋から退室していった。
混乱は治ったものの、いまだに現実を受け入れきれていないセイラはポツン、と一人取り残され、大きなため息をついたのだった。