兎と屋敷
ゆっくりと速度を落とした車は1つの大きな屋敷の前に止まる。
鬱蒼とした森の中に密やかに、しかししっかりと存在している古めかしくも豪華な屋敷を見上げ、セイラはもはや棒立ちすることしかできなかった。
そんなセイラの背を押し飛ばしながらせっつき、ウェインは無理矢理にとでも言わんばかりに扉の前にセイラを連れ立つ。
「おかえりなさいませ」
その横をするりとシトリーがすり抜け扉を開いた。
蝶番が軋む音と共に豪華な内装が見え……た、瞬間、セイラは何者かに激突されていた
「おっっっっっかえりい!!ウェイン!!シトリー!!……、あれ??」
激突してきた人物はニヤニヤと笑いながら二人に挨拶をしていたが自分がぶつかったのが両者でないと認識するときょとんとした顔で約数メートル吹き飛ばされ地面で目を回し倒れているセイラに目を向けた。
「めっずらし!!ウェインが客招くなんて!!いやいやごめんね〜ウェイン達なら耐えられるかな〜って思ってたんだけど君軽いね!!ちゃんと食べてる〜??あ!!俺はクレイグね!!ここの住民ってかそこのシトリーちゃんと契約してる人間な訳!!アンタは何もん?」
ベラベラと雪崩のように話しかけてくる男…名前はクレイグというらしい…はガクガクとセイラの肩をゆすり無邪気に話しかけている。
目を回したセイラが混乱しているとはしゃぐクレイグを諌めるようにシトリーが彼を一度引き剥がす。
「いけませんよ、クレイグ様、セイラ様が混乱しています。」
「へえ!!こいつセイラっていうんだ!!」
全く話の噛み合わない二人+目を回しているセイラに深くため息をついた後、ウェインが口をひらく。
「遊んでいないで、さっさと屋敷に戻れ、それと、シトリー、その小娘を風呂に入れておけ。」
それだけ言うと興味をなくしたように一人屋敷の中に入っていくウェインの後を追うように、セイラを抱えたシトリーと頭に大きなタンコブをこさえたクレイグが続き、不気味な音を立てながらしまった扉を見送るものは、誰もいなかった。