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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

化け物達の母です。この度は子供達がご迷惑をおかけしますが、うるせぇ知らねぇ諦めろ。




遠い遠い、遥か昔のお話。

この世界には①神と、②人間がおった。


まあ、その他の動物や生命もおったが、

そこまで広げると話が面倒なんじゃ。


天上世界に暮らす“神”と呼ばれる生物は

多くの一族、民がいた。

そして人間とは違い、雷を操ったり、

炎を呼んだり、空を飛べたり。

所謂上位存在ってやつじゃなぁ。


そ奴らは下界、即ち人間界での人々の営みや

トラブルを眺めて楽しんでおった。

だが、見るだけで一切手を出せんかったんじゃ。


そりゃそうじゃろうよ、神にとっては

イタズラ程度でも人間にとっちゃあ大災害。

興味本位で人間関係を引っ掻き回すような

気質の神も多くいた故、神達が直接人間界に

手を出すなんて事が許されれば、

世界は容易く滅んでしまう。


……じゃがな、どの世界にも

“抜け穴”ってもんがあるんじゃよ。

“神”共は、直接ではなく間接的に人間界へ

ちょっかいをかける方法を見つけてしもうた。


人間と、神の狭間のモノ。

人間よりも強く、神よりも弱い……

“怪物”と呼ばれる存在を作り出して、

人々の世界へ送り出したんじゃ。


何世代も経た“怪物”達は自分の思うがままに

動いておるが、始まりの“怪物”は

ただ創造した神の遠隔操作にしたがって

動くだけの人形じゃった。


用途としては自分の言葉を人間達に

伝える為だったり、自身の偉大さを

見せつける為だったり。

単純に、下界を近くで見る為の端末として

生み出された“怪物”もおったんじゃ。


だが、“怪物”に怯え惑った人間達の姿に

面白さを見出だした神々は、我も我もと

“怪物”を人間界へ送り出す。


ある(もの)は、美しい人間の女に

擬態する怪物をとある国へ。

またある(もの)は、鋭い爪とおぞましい相貌の

怪獣を小さな町へけしかけた。

突然の驚異に蹂躙される人間もいれば、

それに対抗する人間もおった。


多くの神達はその様子を面白がって

見ていたが、人間へ味方する神も出てくる。

“怪物”を媒介して知恵や武器を与え、

力をつけさせた。

そうして下界は、いつの間にか神々による

代理戦争の場になってしまったのじゃ。


人形劇として楽しまれているとは露知らず、

人間達は与えられた力に溺れていたがな。


いつの間にか、人と同じ段階まで

醜くなった神々を見放した、とある神がおった。

その神は、他の神に隠れて特殊な“怪物”を

生み出したのじゃ。

“怪物”でありながら、“神”を越える存在。

傲慢に腐り落ちた神達を一掃すべく、

五体の“化け物”を造り出した。


ただ、その“化け物”達には欠点があってのう。

……ちょっと、どころかかなり、赤子でな。

いきなり邪神とも言える“化け物”をポンと造れば

人形遊びに夢中の他の神にバレてしまうし、

そもそも、そんな化け物を簡単に

造り出せる神ならば自らの手で滅ぼしておるわな。


だが神に、下界に造り出した“化け物”の

世話など出来るわけがなかろう?

天上界からの直接的な干渉は出来ぬからのう。


そう、つまり、じゃ。

世話を押し付けたのじゃよ、“化け物”よりも

前に、下界に造っていた“怪物”にな。

人間に建てさせた神殿をぐるりと囲む巨体。

人間の女に似た上半身と、蛇の下半身を持つ

其奴は!!!! わらわです!!!!!!


信じられるか? 創造主(上司)の命令に従って

神殿を守りつつ、人間へ神託(でんごん)を伝える

仕事を真面目にこなしとったら、

『神々を殺す“化け物”に育てよ。』とか言われて

赤子×五体をぶん投げられたんじゃぞ?


ただでさえ恋愛やら結婚やら子育てから遠い

社畜生活しておる中で、急に五児の母に

されたんじゃぞ????

未婚の子持ちじゃぞ??????


子供とはいえ“化け物”、神殿の人間達に

世話をさせるわけにもいかず。

わらわは一人でオムツ替え、食事の用意、

寝かしつけ、夜泣きの対応をしたんじゃ。


流石と言うか、生まれたてにも関わらず

固形物を食えるのは良かったのじゃがなぁ。

甲殻類しか食わぬ子、魂しか食わぬ子、

土しか食わぬ子……全員偏食!!!!!!


仕事をこなしながら、上司の信者の人間にも

気を配りつつ、子達の食事をあちこちから

採ってきて。

ちゃんと食べておるか見守らねばならんし、

見守りながら別の作業……遊んで汚れた子や

使ったオムツも洗わねばならぬ。


夜は全然寝付かぬし、なんなら一体が寝たら

別の一体が起きるんじゃ。

全員揃って寝てくれやせんのよ。


結局、あの子らがわらわを越えるサイズに

育ってくれるまで、ろくに寝れんかったし

食事も出来んかったのぉ……。

でも、小さい頃からあの子らは

良い子じゃった。

苦労もあったが、喜びの方が多かった。


犬によく似た子は花を差し出してくれた。

鳥によく似た子は空からの景色を伝えてくれた。

蛸によく似た子は虹色の貝殻をくれた。

人によく似た子はよく労ってくれた。

トカゲによく似た子は背に乗せてくれた。


わらわに甘え、愛してくれた幼子達を

どうして兵器なんぞに育てられようか。


だが、いつかは来る。

そうあれかし、と造られた“我が子達”が

神々を滅ぼすその日が。

……そんな日が来ないでくれと、

愚かな“怪物”が不相応に祈ったからか。



わらわは、人間に殺された。

右目を射抜かれ、心臓を貫かれ、

首を……落とされて。

























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……これより、□□□□の処刑を始める!」



な~んて過去を回想しとる暇無いんじゃよなぁ。

でも回想するしかないんじゃよなぁ。

今、わらわは“思い出した”からな。

そもそもわらわ、処刑される寸前なんじゃが?

処刑場に入る寸前に思い出すとか

意味が分からぬわ!


わらわはな、どうやら人間に転生したらしい。

人間の国の侯爵令息とかなんとかで、

この前まで第二王女の婚約者をやっとったわ。

まあ、今は婚約を破棄されて処刑されるのを

待っとるんじゃけどね!?


まず聞いて欲しいんじゃが、この世界には

もう“神”も“怪物”もおらぬらしい。

幼い頃に聞かされた神話では

〖五体の“化け物”が現れて、神と人間を

滅ぼそうとしたが、神と“怪物”と

相討ちになり封印された。

残った僅かな人間達が、“化け物”の封印を

守る事にした。〗とあった。


つまり、神々は端末の“怪物”達もフル稼働して

我が子達を何とか封印出来たが結局、死に絶えた。

辛うじて生き残った人間がその封印を守りながら

増えた……のが今の世界、らしいのう。


あぁ、それで青年(わらわ)が処刑される理由か?

それはな……禁足地に入ったからじゃよ。

王族すら立ち入る事が許されていない、

“化け物”が封印されている場所に入ったが故に

青年(わらわ)は今から殺される。


この国には誰が封印されておるのやら。

近くに海はないから、蛸の子ではないなぁ。


うん? 理由が無い訳なかろう?

前世の記憶を取り戻すまでのわらわは、

こう言ってはなんじゃが、優等生な

お利口ボーイだったんじゃぞ!



と、いうかじゃよ?

そもそも青年(わらわ)が禁足地に入った、

いや、入れさせられたのは婚約者の第二王女の

命令だったからじゃ。

「忠誠心が感じられない」「木偶の坊」

「(青年(わらわ)の) 弟の方が好み」だの言いよってな。


あ~ん!? このイケメン縛り付けといて

何ほざいとんじゃあんの小娘がよぉ!

……拷問のせいで右目を失ったし、

殴られ続けた顔は膨れ上がってパンパンじゃし。

儚げな美貌は、見れたモノでは無いが。


まあ、その小娘に「禁足地に入って

忠誠心を見せてみろ!」と命令されたのじゃよ。

婚約者というか、王女(上司)に命令されたら

従うしかなかろう?

わらわの人生っていっつもこうなんじゃよなぁ……。


だから、記憶が甦る前の青年は

禁足地に行った。

ボロボロで、辛うじて岩壁が残っている

過去の砦の中に、鎖が何十にも巻かれた

剣が突き立てられておった。

ただの鎖ではなく、術式のような呪いのような

紋様が彫り込まれておった故、触る気も

起きずにそのまま帰ったが……って帰るな!

封印された我が子を置いて

帰るでないわ! 目覚める前の青年(わらわ)!!!!


結局、まだ記憶が復活しておらなんだ

青年(わらわ)では我が子を助けられず。

禁足地の警備をしていた兵に捕まり、

牢屋にぶち込まれたのじゃ。


……入る前に、兵は一人もおらなんだ。

青年(わらわ)が入ってから捕まえて、

確実に罪を問おうとしたのじゃろうな。


青年(わらわ)が正直に話しても「嘘を言うな!」と

兵達から殴られ、鞭で打たれ。

指示をした王女や、青年(わらわ)の実家の侯爵家は

だんまりを決め込んだ。


そして〖禁足地に入り、封印を解こうとした〗罪で

青年(わらわ)は今日、死刑になる。

よりによってイケメンに生まれ変わったというに

何故このようなギリギリで覚醒してしまうのじゃ!

イケメンに生まれても首を落とされては

どうしようもないわ!!!!


ボケっとしておったからか、

隣の兵に一発殴られた。

ろくに食事も与えられておらぬ 青年(わらわ)では

耐えられず地面に倒れたが、殴った兵は

気にせずに髪を無造作に掴んで引きずっていく。

乙女の髪に何をする!?

いや、今のわらわは乙女ではないけど!


ゴツゴツとした岩の床により、皮膚が削れる。

力ずくで捕まれた髪は痛みを伴いながら

ブチブチと抜けていく。


処刑場には多くの観客達が押し寄せていて、

王族の席には第二王女が座っていた。

その隣には、今世のわらわの弟の姿が。

顔を伏せた王女と、気持ちの悪い薄ら笑いを

浮かべている“弟”の姿が目に入る。

ど~やら、今回の件はあの小僧が一枚

噛んでおったようじゃな。

青年(わらわ)の代わりに、婚約者の座に

座りたかったのか?


断頭台の前に連れていかれる。

正直一回死んでいるし、なんなら

さっきまで受けていた拷問の方が痛すぎて、

一瞬で終わらせてくれるなんてありがたいわい。


はぁ……人に生まれ変わったのならば、

もっと楽しい事がしたかった。


可哀想になぁ。

家族にも見捨てられ、婚約者には蔑まれ。

絶望し、わらわに全て譲り渡して消えた

どうしようもなく哀れな青年(わらわ)よ。

歯車として働かされ、人形として

弄ばれた挙げ句に死ぬなんぞ“怪物”時代と

何も変わらぬではないか。


どうせなら我が子達を解放して

全部、ぶっ壊せば良かったかのう。

……思い出すのが、遅すぎた。


もっと早く思い出せていれば、

我が子達と……否、それはないか。

“化け物”として覚醒し、仕事を全うした

あの子らがわらわを母と呼ぶ事もあるまい。

いつまでも現実逃避などせず、

今世での仕事を終わらせるとしよう。


ただ静かに、罪人は首をはねられれば

良いだけなのじゃから。























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




確かに私は、元婚約者の忠誠心を測る為に

禁足地への立ち入りを命じたわ。

彼はどうせ入らずに、両親へ報告だけして

婚約者である私に恥をかかせるだろうと

思っていたから。

それを理由に婚約破棄をしようと

思っていたの。


でも彼は禁足地に一人で入り、兵達に捕えられた。

封印された“化け物”を解放しようとしたとして、

死刑を言い渡されたの。


驚いた私は、両親にすぐ真実を話したわ。

だけれど冷たい目を向けられただけで、

何も変わらなかったし、助けられなかった。



「王族ですら、入る事が許されない禁足地。

一介の王女が「侵入せよ」と婚約者に

命令を下したなど民には言えぬ。

よって、「侯爵令息が“化け物”を復活させようと

単独で侵入し、捕縛された」事にする。


だが、王家としては侯爵家との繋がりは必要。

お前の婚約者の弟を、新たな婚約者に据える。」



父からは、「お前のせいで無実の家臣が一人死ぬ。

その重さを背負いながら暮らせ。」と

言われたのよ。

そして、すぐに行われた顔合わせで

私は全てが分かってしまった。



「これからは兄に代わり、

私が貴女の婚約者を務めます。」



元婚約者の弟が、彼と違う人懐っこい笑顔を

浮かべて私にそう言う。

周りの人達は「良かったですね」と

口々に言って、両親達も頷いていたわ。


私は震えを隠しながら、目の前で傅いた

男の手を取るしか選択肢がない。

そう……実の兄を陥れて、その後釜に

しれっと座るような恐ろしい男と

生涯を共にするしかなくなってしまったの。


最初はただの出来心だったのに。

静かで、大人しくて、逆らわない婚約者が

私は昔から鬱陶しかった。

愛も囁いてこないし、プレゼントも

無難で面白味の無いものばかり!

婚約者としての務めは最低限で、

第二王女の婚約者でありながら息を殺して

生活しているようなつまらない男。



「兄は、親に言われたから

しぶしぶ貴方に付き合っている。」



彼とは全く違う……華やかで素敵で、

魅力的な弟がそう教えてくれた。

代わり映えのしないつまらない生活を

色付けてくれた彼の弟に心惹かれていた

私は、その言葉を聞いて婚約者に憤慨したわ。


……今思えば、それは本当の言葉だったのかしら。

何かに怯えたように生きていた婚約者。

その様子は、まるで“何か”に目をつけられないよう、

必死に自分を押し込めていたような。


兄が死ぬというのに、どこか嬉しそうな

新しい婚約者の顔を見てやっと気付いたのよ。

私は、騙されたのだと。


でも、もうどうしようもない。

髪を無理やり引き摺られ、処刑場へ

連れてこられた彼の身体は全身アザだらけで。

片目にいたっては潰されていた。


彼に向かって暴言を吐く、何も知らない

民衆達を呆然とした様子で見る元婚約者を

見たくなくて、彼の赤い目に見られたくなくて。

私はずっと下を向いていたわ。



「貴女は悪くない。」



そう、私は悪くない。

婚約者をワガママで間接的に殺し、

その弟と婚約者しただけ。

私は何も悪くない、悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない「早くくたばれ!!」悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない「さぁ姫、アレの刑が執行されますよ。」悪くない悪くない「恥知らずめ。」悪くない悪くない悪くない「殺せ!」悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない「ざまぁみろ!!」悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない「さっさと死ね!」悪くない悪くない「国を危険に晒した罪人め!」悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない「極悪人の首が落ちたぞ!」悪くない悪くない「国王陛下万歳!」悪くない悪くない悪くない「正義万歳!」悪くない悪くない「おい、あれはなんだ」悪くない「っ! 地震か!?」悪くない悪くない「ヒッ!?」悪くない悪くない悪くない悪くない「なんだあの巨大な腕は……」悪くない悪くない「封印が解けたのか!?」悪くない悪くない「ギャァァァアア!!」悪くない悪くない悪くない悪くない「誰か! 誰か娘を助けて!」悪くない悪くない「兵が、殺されていく……」悪くない悪くない悪くない「助けてくれッ、助け……て……ッ……」悪くない悪くない「イヤァァア!」悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない「何をしておる、早く対処せよ!」悪くない悪くない悪くない悪くない「こ、国王陛下が!」悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない「やめろ!僕は悪くな……ヒッ、ギッィ……」悪くない悪くない悪くない悪くない悪くな「オ前ガ悪イ」
























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……んん?」



わらわが目を覚ますと、次の世界でも何でもなく。

首を落とされた処刑場の断頭台の前に

寝かされておった。


上半身を持ち上げて周りを見渡せば、

周囲にあるのは死体の山!

民達は、観客席ごと巨大な何かによって

叩き潰されたかの如くまとまった肉片になっており、

貴族席に座っていた者達は、心臓を鋭い何かで

くり貫かれたようにポッカリと黒い穴を空けられ。


……王族は、腹から引き出された己の腸で

全員首を吊るされ、壊れかけた壁に飾られておる。

青年(わらわ)の婚約者だった姫も、その隣にいた弟も。



「何故、全員死んでおるんじゃ?

そもそも……」



わらわは断頭台にかけられて、

首が落ちて死んだはず。

というか、あれだけ殴られて打たれたせいで

痛かった身体も、全然痛くない。

無意識の内に首をなぞると、

糸のような何かで己の首が繋がれている。


目の前に広がる惨状にはもう、何も思わない。

ただどうしてこうなったのか首を捻っていると、

どこからか懐かしい声がした。



「オ母様。」


「……! その声は!」



いつの間にか、真横に“我が子”の

一体が立っておったのじゃ。

思わず立ち上がって、昔のように

思いっきり抱き締める。



「◇◇◇ではないか!

あぁ、よく顔を見せておくれ!」


「オ母様、会エタ。

久シブリ、嬉シイ。」


「そうかそうか、わらわもお前に会えて嬉しいぞ!」



育てた“化け物”の一体、人に形状が良く似ていた子。

頭からすっぽりと布を被ったような

見た目の子で、布の先から人のモノに似た

手足が見えている。

今のわらわの身体に合わせたのか、

身体の大きさは人間と同じ大きさになっていた。


そこ以外は中身を覗き込んでも真っ暗で

手足以外に人っぽい所は……食事の時、

わらわのような鋭い牙が生えた口が

浮かぶくらいじゃな。



「この国に封印されておったのは

お前だったのじゃな。

もっと早く思い出しておれば……

すまなかった。


いや待て、何故封印が解けておるのだ?

それにわらわは死んだはず。」


「オ母様来タ時、生ケ贄ノ印、ツケタ。

生ケ贄、殺サレタラ発動スル。

封印、解ケルト、同時二生キ返ル。


アト、オ母様ノ首、繋ゲテオイタ。

オ顔モ、綺麗ナ死体カラ、肉ヲ持ッテキテ、

色々治シタ。」



とりあえず近くの血溜まりに近寄り、

鏡代わりに治されたという顔を見てみた。

あれだけ傷だらけで膨れ上がった顔は

元通り……前より美しくなっとらんか!?

失ったはずの片目には、どこかで見た

金色の眼が入っておった。


……青年(わらわ)の弟の目を抉って、

入れたんじゃろうなぁ。

ひとまず顔の確認は出来たので

我が子に向き直る。

顔を治してくれた礼も言わねばならんしな。



「お、おお……見事よ◇◇◇。」


「昔モ、今モ、同ジ。

オ母様、虐メタヤツ、全部ナイナイスル。」



先程我が子から聞いた話を整理すると、

青年(わらわ)が禁足地に入った時には

既に、復活の手筈を仕込んでおったようじゃな。

禁足地に入った者はどう足掻いても

処刑されるであろうし。

さすが我が子……賢いのう、よしよし。



「オ母様、コレカラ、ドウスル?

◇◇◇ハ、オ母様ト、イル。」


「そうじゃなぁ……。」



青年(わらわ)の記憶を見る限り、

神と怪物が消えた世界での人間は

まるで在りし日の神達のようじゃ。

己が頂点と信じ、敵などいないと信じている。


……正直、今のわらわは人間に

憎しみしか持ってないんじゃよなぁ。


だがこれはわらわの感情ではない。

きっと、青年(わらわ)のモノじゃろうな。

全て消えたかと思っておったが……

こうしてこびりつく程に、憎かったのか。

……否、まだ“居る”。

奥深くで、赤子のように丸まって、

息を殺して泣いている。


その姿が、赤子だった頃の我が子達に

どうしようもなく重なった。



「どれ、他の我が子達と会う“ついで”に、

人間でも滅ぼすか!」


「オ母様、キョウダイ、探ス?」


「うむ!」



アッハッハッ!! もう、全部消すか!!!

青年(わらわ)泣かしたんじゃから、

責任取ってもらって種族ごと滅ぼそうかの!


そもそも、わらわは山のような仕事を

押し付けられた挙げ句、殺されたんじゃから

い~い加減、報酬もらって良いじゃろう?

わらわは望むのは「我が子達との平和な老後」。



「まずは、どの子を解放しに行くかのう?」


「近クナラ、○○ガ、イル。

山ヲ、十個、越エタ先。」


「じゅ、十かぁ……。

今のわらわには、ちとキツいかな。」



◇◇◇が指差した方にいるのは、

犬に似た我が子らしい。

ここから山を十越えた場所に

封印されているのだとか。


思い出したとはいえ、身体は人間のまま。

徒歩で行くには少々骨が折れるが……

いやいや! 我が子に会う為じゃ!

山だろうか谷だろうが越えてくれるわ!!!



「オ母様。」


「ん? どうした。」


「オ手々、繋ギタイ。」



我が子から差し出された手はあの頃と違い、

ゴツゴツと骨張り、爪は鋭い。

ずいぶん大きくなったが甘えてくる姿は

昔のままであった。


懐かしいのう。

あの頃は元気すぎる我が子達が迷子にならぬよう、

全員で手を繋いで帰っておったわ。

手を離した子は、わらわの尾の先で巻き取って

連れ戻しておった。

……育児にすごく便利じゃったな、蛇の尾。



「勿論良いぞ、ほら。

ふふ、大きくなったなぁ。」


「モット、大キイノ、イル。

△、大キスギテ、海カラ出レナイ。」


「そ、そんなにかえ……?」



神が死に絶えたこの世界、我が子達が全員揃えば

人間など容易く滅ぶじゃろう。

そして、煩わしいモノが絶えて、わらわの中で

眠る可哀想な子の傷が癒えて目覚めた時。


新しい家族として、共に

穏やかな世界で暮らして行こう。























ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




“わらわ”→神の一人によって

造り出された人間の上半身と蛇の下半身を持つ

角有り半人半蛇の“怪物”。

創造主の神殿の管理や、信者との接触、

神託などの仕事を行っていた。


対神用の“化け物”達の世話も

投げられるが死ぬ気で何とかこなした。

その結果、立派なオカンに。

ただ、親としての愛情が湧いてしまったせいで

“化け物”として育て切る事が出来なかったのと、

“化け物”達が懐き、造り出した神の命令を

拒否し続けるようになった。


その結果、神が別の“怪物”を使って

信者達を唆し殺させた。



青年(わらわ)→“怪物”の生まれ変わり。

白の髪に赤色の眼をした、蛇のような

見た目の美男子。

侯爵家の長男で第二王女の婚約者だったが

大人しく受動的な性格が幸いし、

婚約者からの無茶振りをこなそうとした結果、

見捨てられて処刑される。


処刑の寸前、世界からの仕打ちに絶望したからか、

侯爵令息としての意識や人格が全て引っ込んで

“わらわ”が表に出てきた。


また処刑の結果、封印が解けた“◇◇◇”により

肉体と魂を甦らされたが、青年の人格が

甦る事は暫くない。



“我が子”達→“わらわ”に育てられた、

“神”をも殺せる五体の“化け物”。

しっかり手を掛けて育てられたからか、

全員極度のマザコンに育つ。


目の前で母を、神に指示された

人間に殺されたので全力で滅ぼしにかかった。

神は滅ぼせたが人間はまだ残っているので

不満を感じながら封印されている。


呪いを振り撒く人型の◇◇◇、

人々をあっという間に噛み殺す犬型の○○、

全てを奪い尽くす蛸型の△、

空を制し、乱す鳥型の▽▽▽▽▽、

地表を焼き付くす竜型の◎◎◎◎がいる。



“怪物”→神によって作られた端末。

人と神の間の存在なので、下界と天上界両方に

干渉出来る。


“神”→天上界と呼ばれる場所に住んでいた種族。

下界で人形遊びをしていた所、滅ぼされた。


人間→人間。





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