『本性』発現5
「もっとしゃんと歩けないの? だらしないわね全く!」
「ひぃっ! すみませんすみません!」
尻を月見ちゃんに蹴飛ばされ、涙目で謝る変態小物。
マンションの一階エレベーターホールまでたどり着いた私たちは、『演者』対策の専用警察『捜査零課』を呼び出すのに都合がいい場所まで歩き出そうとしていた。
彼らの存在は基本的に秘密なので、人目につかない路地裏などが望ましいのだ。
しかし……さっきから、この変態小物の態度は呆れるしかないほど素直なものである。
「まったく……人の耳をぶった切る根性はあって、下着を盗む根性はないなんて、変な奴ね」
と、私が思わずこぼした一言に、変態小物が大きな反応を見せた。
「ちょ、ちょっと! 何のことですか!? 人の耳をぶった切るって……僕はそんなことしてませんよ!」
「「「っ!?」」」
私とシスターズが、彼の発言に驚く。
「ど、どういうことっ!?」
私は彼の胸倉を掴んで、問い詰める。
「ど、どういうことも何も! ぼ、僕は確かにここに無断で入って、下着を眺めたりはしてましたけど! ひ、人を傷つけるなんて……く、くるし……」
「夜宵! 締まってる! 手を放しなさい!」
「窒息しちゃう……」
双子の言葉に、はっと我に返った私は、力を入れすぎていた手を放す。
「……あんた、今の言葉に嘘偽りは?」
月見ちゃんは自身の『本性』を発現させたまま、尋ねる。
彼女たちの『観察』は、人に使用した場合、その人物の思考を読むことも出来る。
「ご、ごほっ! な、ないですよ! 本当に!」
彼の言葉を聞き、月見ちゃんは『観察結果』を私たちに伝える。
「……嘘は言ってないわ。ていうか、気付くべきだったわ……こいつの『本性』じゃ、誰かが車の中にいるように認識させることや耳を切られた痛みを誤認させることは出来ても、実際に傷つけることは出来ない……ついでに、人を傷つけるような度胸もない」
「じゃ、じゃあ……!」
私の漏らした一言に、月見ちゃんが頷いて答える。
「……もう一人、捕まえるべき人間がいるってことになるわね」