『本性』発現3
「っ! 夜宵! ベッド下確認! ダンボールも退かして!」
月見ちゃんもベッドからの視線を感じているらしい。私に大声で指示を出す。
私は月見ちゃんに佐藤さんを任せ、指示に従い、急いで、かつ注意を払って、ダンボールを退けていく。
やがて、全てのダンボールがベッドの下から取り出されたが、そこには誰もいない!?
そんなバカな!? いまだにここから視線を感じるのに!?
何が何だか分からなくなってきた。でも、ここで諦めるわけにはいかない。
約束したのだ、解決してみせる、と――
佐藤さんは完全に取り乱してしまい、月見ちゃんにしがみついて泣きじゃくっている。
――許せない、あんなに人を怯えさせるなんて――
私はベッドを思い切り殴りつけた。
腹が立ったからではない。この中に、誰かがいる可能性もあるからだ。
しかし、感触からは人が隠れているようなことは伝わってこなかった。
そもそも、視線は依然、ベッドの下から感じる。
なんなんだ!? この現象は!?
私の精神が混乱の極みに達したそのとき、誰かに肩を叩かれた。
「うわぁっ!?」
驚いて振り返ったその先には、
「はろぉ~」
見月ちゃんがいた。
……あ~! びっくりしたぁ……驚かさないでほしいな、ホント……
いや、そんなことより――
「何か分かった!? 見月ちゃん!」
今、『観察』を発動させている見月ちゃんなら、何か分かるかもしれないと淡い期待をこめて尋ねる。
しかし、正直、期待薄だ。
さっき、何故かこの場にいる人数すら曖昧な結果が出たのだ。
何が原因か分からないが、この部屋は『観察』できないのかもしれない――
「――この部屋にいるのは、五人。知らない人があそこにいる」
――なんですと!?
先程と異なり、具体的かつ確定的な『観察結果』を出した見月ちゃんは、とある場所を指差し、その方向を見つめている。
私と月見ちゃんも、見月ちゃんが指差す方向を凝視する。
この方向は――下着のあるタンスの方向!?
タンスを凝視するが、私には何も見えない。
まさか、幽霊とか言わないでよ!? こちとら、生きている人間相手の仕事しか出来ないんだから!!
――っ? タンスの手前がぼやけて見えてきた。何かが現れようとしている!?
だんだん輪郭がはっきりしていく。人の形に見えるが、これは一体――!?
やがて、それは完全に姿を現した。
なんと、そこには――
白いパンツを両手で持ち、広げてその造詣を見つめて悦に浸っている、気持ち悪い男がいた。
……白い、まさしく純白といえるパンツだ。
レースが細やかに付けられており、白という色の持つ純粋さと、きらびやかさを兼ね備えた一品といえるだろう。例えるなら、そう、『天使』といったところか――
そして、その持ち主は、大人っぽい雰囲気を持つ佐藤さんであり、むしろ黒などが似合いそうな彼女が所有しているということで、そのギャップが凄まじく、それがまた酷く男性を誘う重要なファクターとなっている。
まさに、持ち主と合わせることによって、世の男性を魅了する魔の芸術品とまで呼べるであろう、至高の一品――それが、彼の手にしている純白のパンツなのだ――
――って、そんなことはどうでもよくてっ!!!
危ない危ない……あまりにもキモくて理解不能な光景が突然、目の前に現れたものだから、思わず下着に注目しちゃって、熱い評価を脳内で下しちゃってたよ……
ふと隣を見てみると、双子がまるでナメクジだか蛆虫だかゴキブリだかを見るような嫌悪の表情を男に向けていた。
佐藤さんも、男の存在に気付いた後は涙も流さず、ただ呆然としている。
男はまだ私たちの視線に気付いていないようで、幸せそうな顔――私たちからすると、キモい顔――をしながらパンツを眺めている。
一旦、視線を外して、ベランダから見える夜景で気分転換。――さて、もう一度、男を見てみよう。
――うん。やっぱり、何度見ても気持ち悪い。
そろそろぶん殴ってやろうかな~、と思い出したそのとき、男が締りのない顔でこちらの方を向いた。
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長い、長い沈黙。
その間も男は締りのない表情をしていた。
が、やがて、滝のような汗をかきながら、一言、
「――あの~、もしかして……僕、見えてます?」
と、ぬかしてきた。
「勿論」
「ばっちり」
「くっきり~♪」
私と双子が返事をしてやると、男はさらに汗を流しだした。まるで、ナイアガラの滝だ。
「…………では、僕はこの辺で失礼しま~す♪」
「「逃げられるわけないでしょがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
私と月見ちゃんのダブルキックが、寝言をぬかす男の頭に直撃した。