解決屋と依頼3
「それでは、契約書にサインを……」
「は、はい……」
ようやく、この段階までやってきた。
未だにのびてる所長をほったらかしにして、私は佐藤さんと契約を結ぼうとしている。
「ところで、視線を感じるのは仕事から帰宅してからってことは、夜なんですよね?」
「え、えぇ……そうですけど……でも、友達が一緒のときは昼間に感じました」
? 違いがあるのには、何か理由が?
そのことについて、考えようとしたところ、
「いった~いじゃないっ! 女になったらどうしてくれんのよぅ!」
所長がいきなり復活して、そんなことを叫びだす。
……いや、もうなってるから。女じゃなくて、オカマにだけど……
「さて、そんな冗談はさておき……」
所長はいきなり真面目な顔つきになって、話し出す。
「この案件は、如月と月見里シスターズに任せる。そして、今から、佐藤依頼人の自宅に向かい、そのまま待機。もしかしたら、この間にも侵入している可能性があるしな」
ようやく仕事をする気になったらしく、逢魔先輩曰く、『ほんの少しマシになった』所長はテキパキと指示を出す。
佐藤さんはさっきまでの所長とのギャップに驚き、声も出ないようだ。
まぁ、当然だろう。誰もあれだけボケまくる所長が、実は有能だとは誰も思わないだろう。
正直、最初は私も驚いたし……
所長は佐藤さんに向き直り、自分の考えの是非を問う。
「佐藤さん、ご不満があれば、今のうちに。女性の自宅ですし、同じ女性のほうが何かとやりやすいかと思って、こいつらにしましたが……」
「その月見里シスターズって呼び方、やめい!」
「やめ~♪」
双子が文句を言い出すが、
「お前らの不満は聞いてねぇ! ――えっと、この双子、こんな感じですが、一応、腕利きの人材です。私やそこの逢魔と実力は大して変わりません。そこの如月も――」
所長は聞く耳を持たず、双子の評価を佐藤さんに伝え、さらには私の評価を――
「――ド素人ですが、盾くらいにはなるでしょう」
おいコラ……
「依頼者が不安になるような発言をしないでください! それに、私だって! 柔道二段なんですから、変質者くらい撃退できます!」
「――だ、そうですが……いかがでしょうか、依頼人の佐藤様?」
問われた佐藤さんは、さほど悩んだ様子も見せず、
「――はい、それでお願いします。ありがとうございます」
と、返答してくれた。
「え、あ、あの……いいんですか?」
思わず、問い返してしまう私。
「はい、お願いしますね、如月さん。
あなたは自分がバカにされたのに、まずは私の気持ちを考えて、反論してくれました。
私にとって、あなたはとても信頼できる人です」
笑顔で言われ、困惑してしまう。
そんな私に、所長が声をかける。
「頑張れよ、ド素人!」
……他にかける言葉はなかったのか……
「大丈夫。夜宵ちゃんなら必ず出来るよ」
続いて、逢魔先輩が励ましてくれた。
「フォローくらいしてあげるから、思い切ってやりなさい」
「夜宵ちゃんガンバ~♪」
月見里シスターズも応援してくれる。
……何だか、気が楽になってきた。
我ながら、単純な思考回路である。励まされるだけで元気が湧いてくるなんて。
でも、それが私なんだから、仕方ない!
「――よろしくお願いします! 佐藤さん!」
気合を入れて、依頼人に向かって挨拶した。
――この日の悪夢は、こうして始まることになった。