鏡の中3
「――では、今度こそ、こいつらを引き渡してきます。あたしたちの不手際で、大変ご迷惑をおかけしました」
「ご迷惑おかけしました~……」
気絶している変態二人を纏めて拘束した後、双子が佐藤さんに詫びつつ、最後の報告をする。
「……これで、あなたの生活は元通りです。こんなこと忘れて、幸せに暮らしてください」
私も最後の別れの言葉を口にするが、彼女は俯いたままだ。
「報酬はこちらの不手際もあったので、お詫びとして半額にさせていただきます。では、失礼します」
「失礼します~……」
双子は捕まえた二名の変態を引きずるようにして、玄関のドアを開けて出て行く。
そのときも、佐藤さんは俯いたままだった。
このまま去ってしまっていいものか、少し悩んだ。
しかし、彼女にかける言葉は、もうない。
これから彼女は、以前と同じ、普通の生活を送ることになる。
何か余程、特殊な事情がない限り、この世界のことは忘れたほうがいい。
そう、元に戻れる彼女が、こちらに来る必要はないのだ。
そう結論付け、私が双子の後に続いて出て行こうとした、
まさに、そのとき、
「――忘れませんからっ!」
佐藤さんからそんな一言が放たれた。
――な、何を言っているんだ彼女は?
呆然とする私に、彼女はさらに言葉を続ける。
「私を助けてくれたことっ! 皆さんのことは決して忘れませんからっ! 絶対に!」
胸が熱くなる。
こんなにも、人から感謝されるのは生まれて始めての経験だった。
思わず、涙を零しそうになるのを堪えて、私は彼女に向き直り、
「――私も、忘れません。あなたのその優しさを……」
そう言って、別れを告げた。
佐藤さんは嬉しそうな笑顔を見せていた。
玄関のドアを閉めると、双子が廊下で待っていてくれた。
「……いい依頼人だったわね」
「いい人~♪」
二人の表情も心なしか緩んでいるように見えた。
「さて、まだあたしたちの仕事は終わってないわよ! 夜宵!」
「いこ、やっちゃん♪」
年下だが、仕事上の先輩二人の檄に、私は気合を入れなおし、
「――うんっ!」
マンションを後にすることになった。
佐藤さんを襲う悪夢は、これで終わり。
ただ、私たちの目覚めはまだだった。
つまり、私たちの悪夢はまだ続く。
この日、この夜はまだ、終わらない。