碌でもない幼馴染に嬲られる話
三題噺 昼食・体育館・鎖骨
昼休憩。気は進まないが、弁当片手に体育館裏手へと向かう。足に鉛でも着けられたかのように歩みは遅かったが、行かない訳にも行かないから。
「おそいよー。どこで油を売っていたの?」
先客がいたから、回れ右。そう言えたらなんとも楽だがそうは行かない。なにを隠そう、そいつこそが私をここに連日呼び出している張本人である。
「売るような品物持ってないよ……」
「うん、知ってる。もしあったら私が全部買うから」
ナチュラルにイカれてる。こいつは私に執着している、信じられないほどに。弁当箱はこいつの隣に座った時点で奪われている。
「はい、これが今日のお弁当だよー」
代わりの弁当を渡される。料理自体は上手いから、栄養と味的には問題は無いが、釈然としないものがある。しかも、旨そうに食うわけではない。どっちかと言えばフェティッシュなんだよなこれ。
「美味しい? 美味しいよね」
圧を掛けるのは辞めなさいよ圧を掛けるのは。あんたには向上心が無いのか? 私の向上心は大概手折られてるが。そこ意味不明な顔で食べるのを辞めろよ。ガラスのハートが砕けそうなんだわ。私は衝撃にも圧力にも弱いってこと分かってんのかこいつ。
「知ってるよ、繰歌はちょっとやそっとじゃへこたれないって」
巫山戯んなよお前。ほんっとうにムカつく。私が何か志す度に全部潰してく癖にどの面下げて言ってんだよ……。
「……んふふ」
「何よその笑いはさ……」
不気味に薄く笑う。余所行きの明るい顔とも圧を掛ける時に使うそれとも違う、強いて言うなら恍惚としたそれは。あまりのキモさに背筋がぞわぞわする。
「んー、幸せだなーって思ってね」
そうかい私は全くだよ。気に食わない、イライラする、意気消沈する。ひたすら重く沈んで、その癖に怒りだけが貯まっていく。何考えてるんだよコイツ。意図の分からない物の恐怖は要するに化け物に対する物だ。
「まったく、酷い子だねえ……。私はこんなに愛してるのに化け物扱いだなんて」
「なんも言ってないじゃん……」
「なんたらは口程に物を言う、ってね:
ほんとうにそういうところだ。そんだけ読めて何故私が嫌がってることだけ分からない。ああ苛々する。絶対に自分じゃどうにもならないのが苛立ちを倍加する。
「ま、いいよなんでも。ほら」
弁当を食べ終わったあたりで声を掛けられる。催促される。やりたくねえ……本当にやりたくない、が。やらなきゃ絶対に噛まれる。くそが……なんでこんな事やってんだ本当に。
上着を脱いで体を晒す。浮いた鎖骨や肋骨、薄い胸。どうしようもなく貧相で見窄らしい身体だ。率直に言って嫌ってる。
「そうそう、良い子」
思わず手が出た。顔面に拳を突き込む。この馬鹿は躱すそぶりすら見せずに顔面で受ける。こっちの手もちょっと痛いってのに笑みが深くなってるのがガチでキモい。なんなんだよこの妖怪。何がそんなに嬉しいんだ。
「なあに、この霧胡ちゃんのパーフェクトフェイスがそんなに気になるの?」
ムカつく。この馬鹿は顔は良ければスタイルも良い。性格は終わってるとこがあるが猫を被るのも上手いから実質ノーリスク。頭はイカレてるが普通の意味では優秀。共感能力なんざ無いがロールプレイで共感するふりは出来るからこれも無問題。天は二物を作らないんじゃなかったのか?
「ッ痛……」
霧胡の奴、やりやがった。馬鹿野郎が。乳首を噛むのは幾らなんでもやめろ。背中に何か彫り込むのはまだ許す。鎖骨に噛み後を残すのもまだギリギリ許せる。だけどそこは流石に勘弁してくれ、嫁入り前だぞクソッタレ。反射で鳩尾に蹴りを入れたのに碌に応えてないのが気にくわない。もう一発入れようとした手は結束バンドで縛られる。緊縛趣味はない、ってかどっから出したそれ。このドS! 変態! サディスト!。
「全くもう酷いなー。私がSなんじゃなくて繰歌ちゃんがMなんだよ」
気色悪い事言って正当化してんじゃないよ。やること成すこと全部潰して奪った挙句に縛るわ身体を傷つけるわ、カスとしか言い様が無い。あー、腹立つ。いじめで申告できる内容だろうが、コイツの表の品行方正さのせいで決して信用されるわけがない。……親まで私よりこの馬鹿の言う事を信用するとか意味不明過ぎる。病みそう。
「もうチャイム鳴っちゃったかー。じゃ、続きは放課後で」
くたばれ。
繰歌:幼馴染の霧胡に色々な意味で嬲られていた主人公。かなり霧胡を嫌っているかのような言動をするが、本性は3倍程過激な人間であり、高々殴るで済んでいるあたり霧胡への好感度はかなり高い。
霧胡:やばい女……に見えてそうでもない。繰歌の事が大好きだが、趣味が捻れているためこの様な振舞いに。繰歌が霧胡自身以外の全てを失えば良いのにと思いつつ、何度意思を折られても色々試す繰歌が世界で一番素晴しい星だと思っている。
多分繰歌は覚えてないが霧胡は覚えている、幼い日の繰歌イケメンエピソードがある。
オチが無いのは思い付かなかったから。いつか続き書くかも。