第8話 師匠と弟子
「………これが、ライアンから聞いた話じゃ」
「………その後はどうなったんだ?」
「ライアンだけは売れ残り死にかけじゃな。あまりに酷いから買ったわい」
お茶を飲み、こいつの顔を見るとわしの顔をじっと見ている。
「なんじゃ?」
「おじさんが話したかったのはもっと別のことだろ?」
察しがいい小僧じゃ。
「あぁ、わしは怖いんじゃ、ライアンが憎しみのために剣を握り復讐をしようとしてるんじゃと思ってな」
家族として失格かも知れない。息子のことを信じられないのだから、でも、怖いのじゃ、優しいライアンが剣術を覚えることで復讐するかも知れない、殺すかも知れない。
そう思うと震えが止まらなくなるのじゃ。
「大丈夫だよ」
こいつの声は優しい、だが、目はわいのことを真剣に見ている。
「なぜ、そう言い切れるのじゃ?」
「前にライアンに強くなりたい理由を聞いたんだ」
「………それでライアンはなんて?」
「おじさんや他の人を守れるくらい強くなりたい、ライアンはそう言ってたよ」
「………ライアンがそんなことを」
「あの時のライアンの目は本気だった。俺はあの目を信じたいんだ」
少し沈黙が流れ、気まずい雰囲気になると酒瓶を取り出した。
「いや!? どっから取り出したのじゃ!?」
「まぁ、細かいことは気にすんな! 一緒に飲もう!」
「おい!?」
その日は久しぶりに誰かと一緒に酒を飲んだわい。
ーーー⭐️
目が覚め外を見ると朝になっていた。
今日も師匠の居るところに向かうと素振りをしていた、本当に何回見てもカッコいい素振りだ。
「ん? よぉ! ライアン! おはよう!」
「おはようございます」
師匠はいつも通り、笑顔で迎えてくれ、こちらに近付いてくる。
「昨夜はゆっくりと眠れたか?」
「は―――いや」
実は昨日、おじさんと師匠の会話を聞いてしまったのだ。
嘘をつくか迷ったが聞きたいこともあるので正直に質問することにした。
「昨日、会話を聞いてしまって」
「あー、なるほどな」
「………どうして、そんなに信じてくれるんですか?」
昨日の会話で師匠は俺を信じると言ってくれた。だが、あんな話を聞いたら俺のことを疑うものだと思う。
「………俺、前世では弟子に後ろから刺されて死んだんだよ」
師匠は少し気まずそうに、でも、笑いながら言う。
え? 弟子に殺された? どうして………。
「………くっ、詳しく聞いてもいいですか?」
「おう、と言っても俺も分かってないんだ」
「………え?」
「ただ、あいつ刺した後、泣いてたんだよ」
「刺したのに泣いていたんですか?」
どういうことだ、全く意味が分からない。
「あぁ、まぁ、俺の世界は戦争ばっかでな、教育する時も自分の命は組織のために使えとか誰も信じるなって教えてたんだよ」
その話を聞いて俺は凄く驚いた。いまの師匠とは真逆なこと教えだらかだ。
「それで思ったんだけど、あいつ誰かに悩みを話したかったんじゃないかなって」
師匠の表情は過去の自分に怒ってるようにも見えた。
「ただ、間違った教育のせいで自己判断して俺を殺した。理由までは分からないけど、そうさせたのは間違いなく俺なんだ」
俺は師匠に関しては何も知らないが、その時の師匠はすごく後悔していてるように思えた。
「だから俺はライアンに信頼されるようになりたいんだ」
俺は師匠のことを信頼してるし、それは俺が勝手に信頼してるだけだ。
師匠が信頼する理由はない。
「いま、俺がライアンを信頼する理由はないって思っただろ?」
「………はい」
正直、心を読まれたのかとビックリした。
「相手のことを信頼できない人間は絶対にその相手から信頼はされない」
「………そうなんですか?」
「あぁ、だから俺はライアンを信頼するし、いつか仲間が出来たら信頼してほしい。そう思うんだ」
「………」
泣いてしまう。かなり嬉しかったのだ。
この村に来てから俺を信頼するって言ってくれた人はおじさんを除いて始めてだからだ。
涙と言うものは不思議で一度、流れたら止まらない。
「おいおい、泣くなよ」
師匠が俺の頭を撫でてくれる。とても暖かい。
「っぁ………すい……ません」
「正式に認められたんだ。これからはもっと厳しくするから、覚悟しろよ」
俺は涙を拭いて師匠の目を見てハッキリした声で返事をする。
「………はい! よろしくお願いします! 師匠!」