明かされる真実 2
再び倒れ込んでしまった彼は、ひどくお腹が空いているようだ。サシャに、厨房に行ってとにかく出来るだけたくさんの食事を運ばせるよう命じる。
食事が運ばれてくると、その匂いで意識が戻った彼は、猛然と食べ始めた。それはもう、見ていて気持ちの良い食べっぷりだった。かなりの量の食事を運ばせたつもりだったが、みるみるうちに皿は空になっていく。途中、戻ってきたユアンとお医者様も、その様子に驚いていた。
「ふう、生き返ったー!」
食事をほとんど食べ尽くしたところで、彼は満足そうに笑った。顔には精気が戻っている。うん、これなら大丈夫そう。
「じゃあこの薬を飲んで」
お医者様が、薬の入ったコップを渡す。中には緑色のドロッとした薬が入っているのが見える。あれ、体力回復にはめちゃくちゃ効くけど、めちゃくちゃまずいんだよね……。前に風邪を引いた時飲まされたが、二度と飲みたくないと思うまずさだった。案の定、一気に飲み干した彼は「おえーっ!まずー!」と叫んでいた。
「それだけ元気なら、大丈夫でしょう」
「あ……すみません。ありがとうございまし…た?」
苦笑するお医者様に、少し落ち着いたらしい彼が申し訳無さそうにコップを返す。そこで、彼の動きがピタリと止まる。その視線は、お医者様の顔に釘付けになっている。
「う、う、うろ」
急にわなわなと震え出した彼を、みんなが不思議そうに見つめる。そこで私は、はっと気づいた。
(もしかして、この国の人を見るのが初めて……?)
「ねえ、あなた……」
この際溜まっている疑問を聞いてみようと声をかけようとしたその時、部屋の扉が開けられ、誰かが入ってきた。入ってきた人物を見て、私と彼以外のみんなが膝を床に付き、頭を下げた。
「父様、どうして……」
現れたのは、この屋敷の主であり、この土地を収める私の父様だった。
父様の後ろに続いて入ってきたのは、使用人頭のエドワードと、もう一人いた。エドワードの報告を聞いて来たのだろうが、わざわざ領主自ら出向くなんて、これってもしかして私が思っているより大事なのかしら。
楽にしなさい、と父様は皆に命じ、私の方へ近づいてくる。いつもするように軽々と私を抱き上げ、頬にキスをくれた。
「エドワードに話は聞いたよ。森でニンゲンを拾ったんだってね?」
「はい……勝手に森へ入ってごめんなさい」
「ティアが決まりを破るなんて珍しい。なにか理由があっての事だと、父は信じているよ。その話はまた改めてすることにしよう。それより、今はこの彼の話が先だ」
優しく頭を撫でられて、イスに降ろされる。父様は私に向けていた優しい笑みをしまい、いつもの威厳ある領主の顔に戻った。
「君は、イグノーランティアの住人だね?」
父様が、ベッドの上の彼に問いかける。威厳たっぷりのオーラを放つ父様に見つめられ、可哀想にぷるぷると震えるうさぎのようになっている。
「そ、そうです……」
相手が怯えているのを見て、父様は少し表情を緩め、優しく問いかける。
「ここは、スキエンティアという、ニンゲンも含めて様々な種族の暮らす国だ。君は、あの砂漠を超えてきたのだろう? 子どもの身で、よくあの砂漠を生きて抜けられたものだ」
優しく、慈愛に満ちた声。父様が、彼の頭をぽんぽんと撫でると、彼の目から涙が流れた。堪えていたものが一気に溢れ出したように、彼は声を上げて泣いた。
「お、おれっ、あの日からわけわかんないことばっかりでっ……しにたくないって、それだけ思って……っ」
途切れ途切れに紡がれる言葉からは、彼が過ごした時間の辛さがにじみ出ていた。