愛すべき馬鹿
「いたっ!!誰ですか!!私は今最高に萌えているんです!!じゃましな・・・」
今度はめぐが不服そうに振り向くと立っていたのは手がチョップの形になっているカリーナだった。その目は汚物を見るような目で今後のめぐが何度も見ることになる目だった。
「安心しろ消火作業だ」
「あ、あぁぁ、ずびばせん」
「リジアに謝れ」
「ずびばせん」
「いいですよ、後輩の失礼を怒らずに受け止めるのも大人の女性のたしなみです」
半泣きで強がるリジアにネフィラが小声で「怒ってたような・・・」とつぶやく。めぐは黙っていればいいのに「そうだそうだ!」なんて抗議の声を上げるも、黙ってろと言わんばかりににらまれネフィルに抱き着き慰められていた。
「リジアちゃん、終わったならちょっと買い物に付き合ってくれない?」
「はい、カリーナ姉様の頼みでしたらどこへでも」
めぐが胸の感触を確かめ、にやにやしているうちに二人はカフェの奥に消えて行った。
「あら、いっちゃったわ」
「しっかしめぐはこりねぇな、でもわかるネフィル姉様の胸は柔らかくて安心する」
「ネ、ネフィラ・・・もう、からかわないで」
めぐはにやにやしながらも考えていた。なぜ二人は仲良しなのか、どうすればリジアさんのように話せるのか、そしてどうすればリジアを妹にできるのかを。
馬鹿と天才は紙一重。しかし全ての天才が馬鹿でもなければ、全ての馬鹿が天才でもない。めぐはどちらかというと・・・
「んっ、ちょっと、まって、んっっ、めぐちゃんっ!」
「えっ、ちょめぐ」
めぐの思考が速くなることに比例し揉む速度も上昇していく。様々な状況を想定し仮定を重ね、無理があるなら廃棄する。そんなカリーナとリジアに対するの脳内シミュレーターを起動していた。リジアのセリフ、動作、カリーナの反応・・・
「め、めぐちゃんっっ、お客様が、お客様が見てるからっ!」
「・・・」
めぐにとっては些細なこと、そもそも今はシミュレータを動かすことに精一杯だ。そして、ネフィルから桃色の吐息が見え始めたころ。めぐに一つの結果が稲妻のように落ちてきた。
「そうか!そうだよ、あの二人何かあったんだ!!」
「そりゃそうだ、ってそろそろネフィル姉様の胸から手をどけろぉぉぉ!」
ネフィラ渾身のチョップがめぐの脳天を直撃し、めぐの中指がなにか硬い突起にぶつかると、ネフィルの体が大きく跳ねた。
「あっ」
「あっ、んっっっっ!!!」
めぐは天才になり切れない馬鹿であるが、愛すべき馬鹿である。
嬌声はカフェの外まで響いていた。マスターとリア、被害者のネフィルに怒られた。しかし、その日のカフェの売り上げは前日の2倍にまで跳ね上がりカフェが忙しくなりマスターは怒る素振りだけ見せていた。
「怒られたなぁ、でも伸びしろがあるってことだよね。それにしてもリジアちゃんがカリーナさんに気に入られている理由ってなにがあるかな・・・うーん無難に仕事で助けられたとか?容姿が好み?どれもありえそうでありえないような・・・」
「あら、変態。今日もリフィルの胸を揉みに行くの?」
「カリーナさん!お疲れ様です・・・カリーナさんの胸も大きいですよね・・・」
お昼過ぎ、めぐが休憩室に向かっているところカリーナに声をかけられた。カリーナはメイド服ではなく、カジュアルな服装でカフェ内では異彩を放っていた。カリーナはラジオで有名人になったがその代償としてメイド服を外では着られないのだ。もし着て外に出ればファンに囲まれラジオの収録が遅れてしまう、そう考えてあえてカジュアルで目立たない服装を選んでいる。具体的にはカーディガンにペレ―帽。
「うわ、発言が完全におやじね。まあいいわ。仕事は順調?」
「はい、まだまだ失敗続きですがリアさんみたいになりたい一心でめげずに働いてます!」
「そっか、がんばれ。私はラジオの収録に行くわ。じゃあね」
「・・・」
「・・・」
「待って下さい」
一瞬で場が凍り付く。めぐの通り過ぎたカリーナの背中が止まってめぐに振り向いた。それを見てどしどしと近付き靴が当たらないところでめぐも止まった。思わず一歩引いてしまうカリーナに合わせ、めぐも一歩進むイタチごっこのようだった。