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ロイドアンドメイド  作者: 雪水湧多
2/16

1万の使い道

 後に乗せたおもりが天秤を壊す音が聞こえた気がした。

「わかった。その依頼引き受ける。わかったから。ここの書類にサインして」

大したものではない。いざという時の証拠にもなるため書かせた、ただの記録だ。

この事件に関わるからというわけではなく、全ての依頼でお願いしている。

でもまた受けてしまった。対策考えないと・・・そう思いながら少年から一万円を受け取る。おなかすいたなぁ・・・

「よしこれで、パスタ・・・なんでもない。えっと名前は・・・リオディね。ここらじゃ聞かない名前だね」

「そう?あー、そっか。そうだね、こことは反対方向に家があるからね」

「?まぁいい。で、その隠し部屋というのは・・・」

「めぐの部屋の鏡を外すんだ。ふちに鍵がついていて、それで外せるんだ。外したら隠し部屋があるんだ。鍵はこれだよ」

リオディは自慢げに鍵をテーブルに置いた。

5cm程度の小さな鍵でこのサイズの鍵穴は埃が少しでも被っていればわからないだろう。

隠し部屋を知っているだけでなくそのカギまで持っているとは・・・

リオディ。君は何者だ?

「一ついいか?そもそも隠し部屋が存在していていいのか?」

 隠し部屋。フィクションの中の世界ではよく見られる。

しかし、この街・・・この国ではあまり考えられない存在だ。

ここの部屋にあるモニターや電子ロックなどは全て認可されているから使えるものだ。

しかも街で目立つ位置にあるロイド邸にあるのだから、リオディのように存在を知っている人間がいるのでは?

「この国で機械が規制される前に作られた屋敷だからあまり知られてないね。それに、メイドと仲の良い人間しか知らないよ」

「その、仲の良い人間が複数いてもおかしくないんじゃないか?」

 リオディは首を横に振る。

「うーとね、メイドさんと仲良くできる人は限られているんだ。メイドを管理するマスターさんがいてね。その人と話して信用できる人だけが知れるんだ」

 こんなことで見つからなかったなんて、にわかには信じがたい。

僕の1年の苦労はどこに行ったのか。

例え全てを信じたとしても何かもっと大きな原因がないと信じられない。

 おそらく・・・これ以上リオディから聞けることもないだろう。

知っていても喋るつもりはない。そう探偵の感が告げている気がした。

「わかった、この鍵は預かる。いいね?」

「うん!お願いしますウェルズさん」

書類を書き終えたリオディはお辞儀をして席を立った。

この街は規模こそ大きいがあまり裕福ではない。

「じゃあね!期限は一週間だね、また来るね!」

この街の住人にしては珍しく律儀だ。きっとメイドにしつけられでもしたのだろう。


少年と別れた午後。

いつものカフェでコーヒーとパスタを味わった後、タバコを買った。

僕がニコチン依存症でひもじい思いをしていたからと、久々のタバコに喜んでいるわけではない。

そこは勘違いしないでほしい。持っていれば何かと便利だからだ。

思い返せば去年の秋に受けた依頼でこれが大活躍した。

山に置いてきた鋸を探してくれという内容だった。

行動を洗って証言と照らし合わせ行動範囲を絞ればなんてことはない依頼だったが、梅雨が長引いたこともあり山ビルが9月になっても跋扈していた。

どうやっても噛まれるときは噛まれるので下山した後、依頼人にタバコの火を借り近づけてはがしていた。

以来、依頼を受けたらタバコを買うようになった。毎回使うわけではないので使わなかったら友人に譲り食料と物々交換していた。

吸えばいいのにとそそのかされたが、親がヘビースモーカーで健康を損なっていたので吸うことには嫌悪している。

「・・・。はぁ、また対面することになるなんてね。奇跡の残光か・・・」

ロイドアンドメイド事件。別名:「奇跡の残光」事件。

この別名が付いたのには理由がある。

「放火に見舞われたのにも関わらず、死傷者ゼロという奇跡を見せた。さらに、ロイド邸はほぼ無傷で済んだ。でも行方不明者がロイド邸の当主と管理人、あとメイド13人、計15人」

当時屋敷には人が集まっていたのにもかかわらず死傷者ゼロなのは奇跡としか言いようのない結果だ。

しかし、関係者全員行方不明という点が不自然。だから奇跡の残光。

主人を含めた心中?

もちろん当時はみんなそう考えた

しかしロイド邸を捜索しても焼死体どころかメイド服の燃え残りすら見当たらなかった。

普通に考えてもあり得ない。

あり得ない。

あり得ないことだからこそ探偵心をくすぐり、1年間を無駄にしたわけだ。

「今回は無駄にならなくて済むといいんだけど」

ロイド邸は街の北西に外れ、森に囲まれている。

街に出るには10分程度歩く。

現在地は街の東端の繁華街、少し南に歩けば僕の探偵事務所だ。

ここから行けば30分。

事務所から向かえば40分。そこまで一気に向かう足はこの街にはない。

20分ほど歩いてこの街についての思い出がよみがえってきた、やはり歩くと何か思い出す。

「意外と距離あるけど、いつものことかな。歩くのは嫌いじゃない。前もこうして歩いたな~その時は筋肉痛との勝負だったっけ」

他の街では既に車の配備が行われている、民間にも使用が許可されて一部の地域では他の街まで車で行けるそうだ。

しかし許可された車だけが幅の広い道を悠々と走っている。この街を管理している国が制限しているため交通量は極端に少なく、整備もされているため制限速度を守っている車を見たことはない。

このウォースタン王国では歩道内を歩かなければ事故に遭う。

「資源不足を理由に規制か・・・もう少しマシな嘘をついてくれ。バレバレだ」

ウォースタン王国では車だけでなく、その他に機械に準ずるものは基本的に規制の対象だ。

個人で所有するには正当な理由なく所有できず、また機械を製作すること自体を禁じている。

その反動で比較的貧困街である街の南西では裏取引されている。一度その手の依頼を受けたことがあった。

「あの時は流石に焦ったな。パーツを運ぶだけなのに賊に襲われそうになるわ、通報されて捕まりかけるわで散々だった・・・っとここを」


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