ロストナンバー12
目を覚ますと何もない暗闇の中、音のない孤独な世界に私は浮いていた。上も下もわからないこの世界に目的もなくただ浮いていた。
「どこだろうここ、でも・・・はっ」
見渡すことなくわかる。ここには何もない。そう思い出した。
「ここは私の世界。夢の中なんだ。だから・・・私がお菓子が食べたいと思えば」
瞬きしたほんの一瞬、世界は初めからこの姿なのだと思わせるほど自然にイメージの通りの『午後のティーパーティ』に姿を変えた。
「こんな素敵なパーティなのに一人か・・・誰か、誰かいないかな」
ただそう思うだけで私の他に人が現れる。人の形をしているけどおよそ人とは言えないのに人だと思える。その人は手に持ったカップを持ち上げ挨拶してくれたので私もカップをもって挨拶をした。
「ごきげんよう」
「・・・」
返す言葉なんて知らない相手に挨拶しても無駄、なら言葉を教えればいい。
住民たちはどこかで聞いた歌を歌って踊リダス。
教えられる立場の人間が教えるなんてできない、なら誰かに似せればいい。
住民たちはどこかで見た正確になって絡ミダス。
似せるようなイメージができない、ならいっそその誰かにしてしまえ。
住民たちはどこかで見た姿になって殺シアウ。
悲鳴も断末魔もない。だって知らないから。知りたくもないから死体も残らない素敵な世界、死んでも私が願えばそこにいる。おとぎ話の一幕。
ここは誰にも観測できない狭間の地、私が思うだけで全て解決するつまらない世界。
ここでは問いかけではなく一方的な決めつけだけがルール。
ここだから生まれた意思もある。
「だからきっと無駄じゃない。閉じ込められた世界にだって意義はある」
でも確かここは・・・
「一体どういうつもりだ、ヴァイオラ。お前は半年前・・・12人目のメイドが目覚めるより前から行方をくらました。一週間前に手紙を寄越すまで音沙汰なし。そしてめぐをあのような目に合わせた」
ヴァイオラは古風な薄暗い独房に入れられ、そとからマスターに説教を受けていた。ヴァイオラの手足には鎖が付けられ、首にも鎖がつながれていた。まるで人ではない何かを拘束するように。
「めぐちゃんに会いに来たじゃダメ?」
「会いに来ただけならあのようなことをする必要はないだろう」
「旦那と喧嘩したのって言ったら?」
「あの手紙の内容が真実なら間違いなく今後の私の悩みの種だな。許可なく結婚するなど・・・」
手紙にはヴァイオラと見知らぬ男性が白い衣装を身に纏い幸せそうに笑う写真が挟まれていた。手紙の内容もその見知らぬ男性との惚気が8割、カフェを辞めることについてが1割、残りの一割はめぐについてだった。
そもそも保護してた子が家を急に出て行って連絡を寄越したと思ったら結婚しましたという人生の山場を目のつかぬところで経験していたのだから、普通に考えればマスターは心労で倒れていたっておかしくはない。それでも一応家出に関しては前例があるので帰ってくると勝手に信じていたマスターにも責任はある。
「そうだね・・・悪かったと思ってるでも、それ以上に凄い事を私たちに隠しているよね。マスター」
「・・・」
「んっ・・・」
「あっ、めぐちゃん。おはよう・・・ってもう夕方だけどね」
かすむ目を擦り、ベッドの傍で苦笑いしているもみじさんを見ると指がささくれて赤くなっていて、ベッド脇にある桶とタオルが置かれていることで理解できた。
「もみじさんもしかし」
「よかったぁ」
「わっ!」
いきなりもみじさんが飛びついて来たから咄嗟に抱きかかえるようにキャッチしたけど、意外と無茶する人だなと思っているともみじの体が震えだす。
「すっ、すすっ・・・」
「え?あのもしかして泣いて」
「うん、嬉しくてっ、あんなに元気なめぐちゃんが、何日も目を覚まさなくて、毎日心配で眠れなったの」
普段の落ち着いた雰囲気はどこへやら。勝手に期待して勝手に裏切られた気分になっていたけど、少し前に感じていたどこか冷たい違和感はもう感じていなかった。こんなに心配して尽くしてくれたのだから、冷たくなんかない、いや指は冷たいけど。温かい気持ちが伝わってくる。
まるで・・・
「お母さん・・・」
「えっ?私そんな歳じゃないよ~ふふっ」
「あっ、そのこれは・・・あはははっ」
誤魔化すように笑っているともみじさんが立ち上がりマスターに伝えに行くため部屋を出て行った。部屋に一人取りこされたことで思い出す。
「そういえば、あの夢なんだったんだろう。純粋で幼稚で、それでいて惨い夢」
確か小声で歌っていたはずだ。どんな歌だっけ。あぁそうだ。
「住民たちはどこかで聞いた歌を歌って踊りだす・・・」
口に出した瞬間、目の前が真っ暗になる。同時に頭が“割れるほど”痛い。
痛みは数秒で収まった。しかしめぐの視界にはさっきまでとは異なったものが見えていた。
「なにこれ、えっ。まって今言った言葉が、文字に!」
言葉を発した瞬間言葉が文字になって部屋中をぐるぐる巡っている。思わず頭を押さえてみても変わらない。瞼を何度も閉じても変わらない、それどころか自分のものではない言葉が文字になっているような。文字が増えていくにつれて頭が熱くなっていくのがわかった。
そして気づけば文字の渦に取り込まれたように視界一杯に文字が巡っている。ダメだこのままだと熱でおかしくなってしまいそうだ。
「誰か、ダレ」
「めぐもう大丈夫か?」
「マスター」
はっとマスターの方を向くと見えていた文字は消え、いつもの視界に戻っていた。
「どうした?やっぱりまだ」
「いえ、いや、そうかもしれませんね」
「目が覚めても体がまだ疲れているんだろう。ゆっくり休め、明日は出れそうなら出てくれればいい」
「はい」
「自分の体を一番に考えるんだぞ」
マスターが去ってからは変な現象になることはなかった。しかし、なぜか隣でもみじさんが寝ている。聞けば私が眠っているときは添い寝をしていたそうだ、あともみじさんはよくこの医務室で寝てるようでよくマスターに怒られているらしい。
ちなみに。
「すぅ・・・すぅ・・・」
寝顔は人形のように可愛い。




