ロイドis誰
「ご利用ありがとうございました、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとね、めぐちゃん、また来るよ」
土の香りのする若い男性客を見送り、レシート置きに置かれた数枚のレシートを見る。ケーキセットやコーヒー、パンケーキなど客それぞれの頼んだものの一覧が見れた。毎回同じものを頼む人から逆に毎回違うものを頼む人もいて眺めているだけでも面白いのだが、めぐの興味は上にカフェロイド&メイドと書かれたロゴである。
「ほらめぐ、休憩だぞ」
「ネフィラさん、なんでロイド&メイドなのかな?」
「ロイドさんが経営しているメイド喫茶だからじゃダメなのか?」
「まさか!ロイドさんって・・・マスターのことでしょうか?!」
世紀の大発見をしたかのように驚くめぐだがネフィラは手を振って否定する。
「ないない、それはめぐ以外のほとんどがマスターに聞いたよ、今のめぐみたいに「マスターの本名ってロイド何ですか?」ってね。でもみんなはぐらかされた。だからマスターの前任者がロイドって名前だって無理やり納得してる」
「えー」
めぐは納得せずに自分の中で納得する答えを探す。
確かロイドの意味は灰色。マスターの髪も灰色?のように見える・・・いや他に灰色のものがあるかもしれない。でも見渡す限りないよね、カフェは木造でコンクリートのような灰色の部分はないかな。
「うーん、うむむむぅ」
「何考えてるのかわからないけど休憩室でやりなよ・・・」
幸いにもレジに来る人はいなかったが注意しても動かないめぐをネフィラは腕を掴んで引っ張り休憩室に消えて行った。
その様子をリアとマスターは笑いながら見ていた。
「またこの時期ですね、マスター」
「毎度悩むことじゃないのだろうな、しかし悩んでいるのは事実だ。何か案はないか?」
「そう言って既に考えをお持ちでしょうに、一応私の考えは・・・」
数分リアの話に耳を傾けるマスターの表情はイタズラ少年の笑顔そのものだ。いつになっても少年の心は忘れたくないとお店でよく言っている。
そんなマスターの本名を店で知る人はいない。名前だけではない、年齢も過去も知らないことばかりだ。常連にも過去何かあった人間だと噂されているものの持ち前のフットワークの良さで噂するのはお店のアンチだけだとか。真実を知っているのはもみじさんだけだという。もみじさんとの関係もマスターは話さない。もみじさんに話を振っても逸らすことが多い。二人が誰にも明かさない理由を話しながらリアは考えた。過去に何かあったとしても外見的に50代のマスターだから色々経験しているはず、加えて意識が戻ってから数年の自分にはきっと想像もできないほどのものなのだと。
「やっぱ頼りになるね、リア。私には思いつかないアイデアだ」
「恐縮です」
「さて、準備するか。もちろん手伝っては・・・」
「構いませんよ、そもそも自分が口添えしたのですから。乗りかかった船です」
リアはカフェのある一つの真実を知っていた。しかし、その十分に重たい真実をもってしてもマスターともみじの過去と関係の真実には届かず、ありきたりな答えしか思い当たらない。しかし、リアはそれでもいいのだと考えた。なぜなら今は何一つ問題にはなっていないのだから。
「もみじさんは何かしってますか?ロイドさんについて。マスターの近くによくいるので知ってるかな・・・と」
休憩室でもみじに出された紅茶を眺めていた。もみじさんは休憩室に来るメイドにお茶やお茶菓子を出していた。もみじさんは基本的に表に出ることはなく、表のメイドが少ない時だけ出る補欠のような存在に見える。でも実態は私たちの仕事以上に仕事をこなしいつも澄まし顔で汗一つかかない仕事の鬼だ。お店の経営管理と広告をほぼ一人でしていると言えばその仕事量がわかるだろう。新メニューはマスターが考えてもみじさんが試作品を作るということになっているみたいだった。
「ふふっ、そうだね。知ってるけどマスターの許可なく話せないかな。ごめんね」
「ですよね・・・」
紅茶をすすり、ため息一つ。もみじさんならしれっと答えてくれるなんて甘い妄想は現実にならなかった。特に話すこともないためしばらくの沈黙。もみじさんには独特の雰囲気があって優しいけどどこか冷たいような、実際話してみるとそんなことはないと良い切れるのになぜか話し終えると冷たく感じる。だからこそ山にも等しい仕事量をこなせているのかもしれないけど。可愛いけど自分から手を出さなければ物語が生まれないおままごとの人形のようだ。きっと過去に何か心を壊すようなことがあったに違いない、でもそれを聞く勇気・・・いやむしろデリカシーがないかな。もしかしてそれがきっかけでこのカフェができたとか?まさかね、考えすぎかも。
紅茶を飲み切ったあたりでもみじが口を開く。




