別名:「奇跡の残光」
この物語は打ち切りです。
好評であれば書くこともあると思いますが、基本的に先はないと考えてください。
就活に失敗した探偵。ウェルズマン27歳は頭を抱えていた。
立場はどうあれ、僕はいつの日かはこの問題に向き合う必要があった。
多くの探偵の同業者及び警察が早々に音を上げ、迷宮入りした怪奇な事件に・・・
「小さいころにお世話になった人を探してほしい」
「悪いけど子供の依頼は基本的にお断りしているんだ。帰ってくれ」
2178年、人類が地球の外に解き放たれて実に100年が経った。宇宙ステーションが増加と拡大を繰り返し、各西暦を再現した巨大な居住空間へと姿を変え「国」となった。
ここは再現1960年初秋、年代に服装を合わせる必要はないが。僕は職業柄、依頼者が来るとなればそれなりにカッコをつけなければならない。
しかし今日依頼者が来るとは知らず、びしっとしたスーツではなく、長袖のシャツ1枚にジーパンというラフなスタイルでお迎えしてしまった。
そもそも来客時には少なくとも前日にはポストに大まかな内容が書かれた手紙が入れられる。
今回は開店後数分で急にベルが鳴らされたというわけだ。
「どうして!俺にはこの日のために毎日バイトをしてコツコツ貯めたお金があるんだ!」
「それでおいしいものでも食べるか家族にプレゼントでも買って帰った方が有意義な使い道だ」
むしろカッコつけなくてよかったと心の底から思った。子供相手にカッコつけて何になる。
道行く人に向けてカッコつけても何も得られないのと一緒だ。
子供なんて目先の目的に飛びついて後で後悔するどころか、原因を他人に押し付ける厄介極まりない存在じゃないか。
「ケチ!俺は帰らないからな!そもそもなんだ、客にお茶も出さないなんて非常識だ子供だからってバカにするなよ!」
「悪いな、そんなお金もないんだ。うちは貧乏でな。毎日食うだけでも精一杯なんだ許してくれ」
「なら依頼を受けてもいいだろ!ほら!これだけあれば一週間も食えるはずさ!」
少年はテーブルの上に1万円札を置いた。
近年物価が上がっているとはいえ少年からすれば大きな額であり、1週間食べるには困らない金額なのは間違いない。
それでも僕は首を横に振った。確かに最近依頼が減り金欠だ。
しかし大前提として子供からもらったお金で食いつなぎたいか?
大の大人が毎日汗水垂らして貯めた少年のお小遣いを依頼料と言って巻き上げ、お気に入りのカフェに行ってコーヒーとパスタを頼む。
そんなのはごめんだ。これも一つの優しさだと僕は思う。
少年がジュースとケーキでも頼めばいいのに。
あと僕は子供が苦手だ。言うことには素直に従わないと怒るし、従ったら下に見られる。非常識なのはどっちだ
「ならせめて受けない理由を教えてくれ!内容に納得すれば帰る!しなかったら帰らない!!」
話さなければここを動かないという意思を感じたため渋々口を開く。納得してくれれば帰るこの言葉を信じて・・・
「・・・はぁ。前に子供の依頼を受けたとき。子供の親から言われたんだ」
「何を言われたんだ?」
「『子供からお金を巻き上げるなんてひどい!こんなのボランティアじゃない!』だとさ。こっちはこれで食べているのに子供からすれば都合のいいボランティアなんだと。それに僕自身子供からお金をもらいたくはない」
僕が探偵を初めて3日目に受けた依頼だ。
忠実な事実であり、一応依頼は依頼なのでこの事務所の棚に当時のことはファイリングしてある。
「ならなんでその時は受けたんだよ」
「命に係わることだったから。それで子供から依頼されたわけで、仕方なく受けた」
「なら今回も命にかかわることだ!受けて!」
「あーもう、だから子供の依頼は受けないって。そもそもそんな事件は警察にお願いしろ」
「もう試した!警察も・・・ほかの探偵もみんなダメだった・・・」
少年はうつむいた。子供は純粋ゆえに感情が行動に現れやすいのだろう。
少年の行動はきっと嘘偽りない感情そのものなのだ。
しかし、どうも気になる。
警察も同業者も誰も相手にしなかったってことなのか?おかしい。いくら子供でも受ける探偵はいるはずだ。
そういえば前回も些細なことが気になって受けてしまったんだ。
「ダメって子供だから?」
「違う、みんなわからないって」
「わからない?その子の居場所が?」
「めぐちゃんは・・・そうだけど違う。みんな事件の名前を聞くとわからなかったから無理だって」
「事件?探している子が巻き込まれた事件とか・・・?」
少年は首を縦に振った。
どうも嫌な予感がする。
警察すら対応してくれず、同業者もお手上げ。そんな事件に一つ心当たりが。
「「ロイドアンドメイド事件」」
ロイドアンドメイド事件。
過去10年、いや20年間で未解決事件はいくつもあった。
しかし、そのどれも現代になって解決の糸口を発見されたものが多い。
糸口を発見できなかった未解決事件は片手で数える程度であり、どれも都市伝説のような何かに巻き込まれたようなものばかり。
通称「奇跡の残照」事件はそのどれにも該当せず異質だった。
5年前。僕が探偵業を始めて半年後に起こった事件でよく覚えている。
当時の探偵及び警察が丸1年捜査しても証拠どころか手がかりすら見つからず、解決の兆しがなく迷宮入り。
それからこの事件は未来永劫解けないだろうと街の住民から言われるようにもなった事件だ。
半年調査してあきらめる探偵も少なくなく、僕は粘って1年間調査していた。
その後諦めきれず何度か洗ってみても、暗闇の中にあるはずの光は見えなかった。
そのためこの事件は警察や探偵にとってトラウマ同然の事件だ。
「やっぱり・・・ここもだめ?」
「そんな懇願するような目をしても、無理だ。フィクションの中の探偵なら面白がるかもな」
「・・・」
少年はさっきまでの威勢が嘘のように黙り込んだ。
そして何度か瞬きを繰り返し、何かを決断したようで真剣なまなざしを見せた。
「俺、事件前のロイド邸に入ったことある。そこに隠し部屋があってもしかしたら何かあるかもしれない」
「え?・・・それは本当なのか?嘘偽りなく、神様に誓える?お母さんに言っても恥ずかしくない?」
「本当に。本当の本当の本当に!知ってる!!」
僕は子供からの依頼とロイドアンドメイド事件を解決した肩書を天秤に乗せた。
仮に解決の糸口にならなくても功績は残るだろう。
でも今更「奇跡の残光」か・・・?