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後編

 蔚美が青ざめた顔で叫んだ。他の面接官も驚いているよ。全く困った女だね。


「あの、専務のお知り合いの方ですか?」

「うん。まぁちょっとね」

「しぇ、しぇんむぅうぅうう!?」


 うろたえすぎて発音がなんかのタイトルみたいになってるぞ。


「ど、どういうことよ。翔太、ちっちゃい会社の社畜の筈じゃ……」

「いや、一体どういう関係かしらないが何を言ってるんだい?」

「専務は未来の鳳天智グループを背負って立つ後継者とされているというのに」

「鳳天智グループ!? 後継者!?」

 

 次々飛び出す単語に蔚美は驚きを隠しきれてないようだ。


 彼女には言ってなかった、というか言う暇もなく去っていったから知らなかっただろうけど鳳天智グループの今の会長は僕の祖父だ。


 そして今のグループの代表は父でその後は僕だと言われている。そのために今は経験を積んでいる真っ最中というわけだ。


「まぁ私のことはもういいよね。それより面接を始めるとしましょうか」

「そ、そうですね」


 蔚美や他の面接官も戸惑っているけどこのままというわけにもいかないからね。

 

 一応は最終面接まで残っているわけだし話だけでも聞いてみよう。


 先ず僕の前に周囲の面接官から質問が飛んだ。蔚美はそれに何とか答えている。


 かなり狼狽えていたとは思うけどなるほど面接に関してはしっかりしてるね。ありきたりな回答だけじゃなくて面接官受けが良さそうなワードも散りばめている。


 とは言えね――とりあえず僕からも蔚美に向けて質問する。


「では小野田さん弊社で今後どう働いていきたいか聞かせて頂いても?」

「は、はい。私は前職の経験を活かし――」

「へぇそれって気に入らない女性社員を虐めて辞めさせたという経験の事なのかな?」


 答える蔚美にすかさず僕がそう告げると彼女の体が固まった。


「あの専務それは一体?」

「いや、実は彼女とは面接の前にいつも行くカフェで会っていてね。その時に自分でそのような事を言っていたのですよ」


 蔚美の肩がプルプルと震えていた。まさかカフェで喋ったことが面接で取り上げられるとは思ってもいなかったのだろう。


「そ、それは違うのよ。ネタ、ほ、ほら、良くあるでしょう? 事実でないことを盛って語るのって?」

「へぇ。じゃあうちに入るのはあくまで自分が将来楽するための男を探すため面接で合格してもまともに仕事なんてするつもりない。弊社を選んだのも給料が良くて楽ができるからで仕事なんて適当に他の社員に振っておけばいいと言っていたのも違うと?」

「そ、それは……えっと、その」


 蔚美が口ごもった。当然僕以外の面接官の目も厳しくなる。


「小野田さんはそのようなことを言っていたのですか?」

「ち、違う私はそんなこと言ってません!」

「つまり専務が嘘を言ってると?」

「そ、それも違うというか――」

 

 蔚美がしどろもどろになっていた。聞いた本人が目の前にいるのだからどう言い訳しても無駄だろうに。


「そ、そうだ聞き間違い! 聞き間違いですよ!」

「はい。これね」


 僕はスマホを取り出して録音しておいたデータを再生した。蔚美の声が室内に響き渡る。


「あ、あんた録音って卑怯でしょ!」

「いや、寧ろ基本だよね」


 僕もいろいろやっかまれることが多いからね。面倒事を避ける意味もあって何かと録音するのがくせになっているんだ。


「ふぅ。これはもう決まりですな」

「専務これ以上は……」

「そうだね。では蔚美さん本日はご苦労さまでした。形式上ではあるけど合否判定は追ってご連絡致します」


 まぁ不合格なんだけど。


「ちょっと待ちなさいよ! なんなのよあんた! こんなのありえないパワハラよパワハラ!」


 すると納得がいかないのか蔚美が立ち上がり文句を言い始めた。やれやれ全く。


「どこが? 私は事実をこの場で明らかにしただけですが?」

「じ、事実だからって私にだってプライバシーがあるんだからね! こんな真似して訴えてやるんだから!」

「元の職場で虐めをしていたことも会社に対して不誠実な考えしかもっていなかったことも君の人間性を示す重要な証拠だ。大体陰でそんなことを口にしている人間を信用して雇えるわけないよね?」

「それに蔚美さんは自分のことばかり言っておりますがこの録音内容を聞く限り専務に対しても随分な発言をしておりますよね?」

「訴えるというのであればこちらもそれ相応の対応を検討せねばいけませんね」

「そ、そんな……」


 周囲の面接官も僕を擁護してくれた。まぁ僕に対しての発言は確かに侮辱にあたるしね。


「な、なんなのよあんた偉そうに。所詮は親の七光りでしょう! 一人じゃ自分の会社だって維持できないで潰すような無能な癖に駄目だったからって親のコネで役職まで与えられて調子に乗ってるんじゃないわよ!」

「いや、専務の起こした会社というとレベルGのことだろう?」

「それなら専務の手腕であっという間に経営も軌道に乗り売上も右肩上がり。今では業界では名のしれた上場企業なのだがね」

「えぇええええぇえええ!?」


 蔚美がまた驚いていた。それにしても僕は一言も元の会社が潰れたなんて言ってないのだけどね。


 どうも思い込みが激しいようだ。イメージで勝手に判断して人を見下すし性格に明らかに問題がある。


「もういいかな? 次が控えてるからね」

「待って! 待って待って! そ、そうだ翔太。私実はまだ貴方のことが好きなの! だから一緒に」

「それはもう面接と関係ないね」

「待ってってば! お願い話を聞いて!」


 蔚美はいよいよ見境がなくなったのか僕に詰め寄ってきて掴みかかってきた。その様子を見て他の面接官が慌てて警備員を呼んでくれた。


 すぐに駆けつけた警備員によって蔚美は取り押さえられ部屋から引きずり出された。全く迷惑な話だよ。


 その後は少し時間をおいてから他の面接もこなしていった。蔚美は当然不合格で他の希望者から採用者が決まった。


 だけど蔚美の件はそれで終わりではなかった。蔚美はなんとSNSで面接時に酷い扱いを受けた明らかにパワハラだったと書き込み動画配信までして騒ぎ立てたのだ。


 だけどそれもすぐに嘘だとバレたのだけどね。僕もだけどWEBのトップページにお知らせを載せ蔚美自身の態度や発言に問題があったこととその証拠を提示した。


 結果的に批判は蔚美本人に向かうことになり見事に炎上した。動画配信でも顔は隠していたが声などですぐに身バレした上、かつて彼女の虐めにあって辞めさせられた女性も発信し更に拡大。


 その上で蔚美が務めていた会社も丁度うちに吸収された後だった為、蔚美に加担し退職に追い込んだ役員や社員を突き止め処分。


 その上で被害にあった女性に連絡、全面的にサポートすることを約束。弁護士もつけて慰謝料を蔚美に請求した。ついでに僕への侮辱分もね。


 結果として蔚美は慰謝料を借金して返済。多額の借金を背負った上に鳳天智グループを敵に回した彼女を雇ってくれる企業などあるわけもなく朝から晩まで様々なアルバイトを掛け持ちし返済に追われる毎日なようだ。


 家賃も支払えなくオンボロアパートに引っ越したとも聞くね。どっちにしろ苦労しているのは確かだろうけど。


 その後、どこで聞きつけたのか出張先のホテルにまで彼女が押しかけてきた。


「おねがいよ翔太。私とやり直して! 私やっと気が付いたの。私の運命の人は貴方だって。だからお願い!」


 やれやれ何かと思えばそんな話か。


「無理だよ。もう僕は君をどうとも思ってないし。以前の面接で本性もわかったしね」

「そんなこと言わないで。その面接の事があってどこも私を雇ってくれないの。お金も返せないし借金取りにも追われてて、だからお願い助けて!」


 正直そんなこと知った事かといったところだ。全て自業自得なわけだし。おまけにあっさり本性を明かしたようなものだ。


 ようは僕と付き合って諸々とのことを解決したいってだけの話だ。結局男を利用することしか考えてないわけだ。


「おまたせ翔太。あら? この人は?」

「え? ちょ、誰その女!」


 僕に声を掛けてきた女性を見て蔚美が眉を怒らせ叫んだ。彼女が怪訝な顔を見せたけど誤解されないようきっちり説明した。彼女は面接の時に起きたことも知ってるから話が早かった。


「なるほど貴方が蔚美さんね。悪いけどこれ以上、私の婚約者につきまとうのはやめてもらえるかしら?」

「へ? こ、婚約者!?」

「そうだよ。僕たち先月婚約したんだ。だから当然君とどうこうなることはない」

「な、何よそれ。ど、どうせその女、翔太の金や権力が目的なんでしょ!」

「それはないよ。彼女は君が馬鹿にした会社の社長をやっていた頃からの付き合いだしね」


 蔚美が離れていった直後ぐらいに面接に来た彼女を雇った。確かに蔚美の言う通り当時はまだ取引先も少なく今後どうなるかも未知数だった。


 だけどだからといって彼女が僕を見下すようなことはなかったし、社長の僕に対しても忌憚なく意見を述べ議論に至ったこともある。


 そしてそんな彼女だからこそ僕は惹かれていった。僕にない物を彼女は持っていたしそれに社内でも学歴や経歴、立場や性別に関係なく分け隔てなく社員と接していた。

 

 人を金や地位でしか判断できない蔚美とは似ても似つかない素敵な女性だ。それでも暫くは蔚美との過去もあって中々結婚には吹っ切れなかったんだけどそれも面接の一件でスッキリ出来た。


 何でこんな女とのことで馬鹿みたいに引きずっていたんだろうってね。そういう意味ではいいきっかけを与えてくれたと言えるかな。


「もういいかな? 僕たちこれから両親に挨拶にいかないといけなくてね」

「ま、待ってお願い!」

「これ以上彼につきまとうなら警察を呼びますよ?」

「け、警察!? あ、う……」


 彼女に言われようやく蔚美も引き下がった。その後は蔚美のことは見てないけれどどうやら借金取りに捕まってどこかに連れて行かれたらしい。


 高利貸しからも借りていたようだし暫くは表舞台には立てないのかもしれないね。今の僕には関係ないことだけど。


 僕はと言うと彼女との関係も良好でいよいよ来月には式を挙げる予定だ。良きパートナーも見つかったし家族の為にも謙虚な姿勢で邁進していこうと思う――

最後までお読み頂きありがとうございます。

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[良い点] 七夕ドロップ等で漫画化できる内容ですね
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