前編
スカッとしてザマァされる中編作品です。
「嘘!? これが翔太の会社! ショボすぎじゃない!」
「あ、うん。まだ起業して間もないからね。でもこれからきっと大きくしていくから」
「これからって私にとって大事なのは今なのよ。大体こんな小さな会社しか持てない低能に未来なんてあるわけないじゃない。はぁ本当これまで付き合ってあげた時間返して欲しいぐらい。もういいわじゃあねバイバイ」
これが僕が初めて付き合った相手に振られたときの苦い顛末だ。
あれから数年たち今の僕は別な職場で働いている。
過去の事があったせいかしばらく女性不信が続いた僕は今も独り身だ。流石にそろそろ当時の傷も癒えてきたし身を固めたい気もするのだけど今は仕事で一杯一杯だしね。
駅を降り僕はいつものカフェに入る。出勤前にここでコーヒーを飲むのが今の日課だ。
「あれ? もしかして貴方翔太?」
カウンターでコーヒーを飲んでいると隣の席に座った女性から声が掛かった。その顔は僕にとって忘れられないものであり苦い思い出の相手でもあった。
「蔚美――」
「あはは。久しぶりだねぇ。何年ぶりかなぁ」
以前と変わらない甘ったるい声で蔚美が言った。それにしてもまさかこんなところで再会するとはね。
「ところで翔太はなんでこんなところに? あのオンボロの小さな会社ここじゃなかったよね?」
オンボロって……いつの話してるんだよ。
「今は別な職場で勤務してるんだよ」
「え? マジウケるんですけどぉ。やっぱりあんた会社ダメにしちゃったんだぁ。倒産とかウケる~」
蔚美がプププッと小馬鹿にした顔で笑っていた。こいつ本当性格悪いな。自分でもよくこんなのと付き合っていたなと思うよ。
「あのさ。別に僕は会社を潰したわけじゃ――」
「はいはい。そんな言い訳いらないから。恥ずかしいのはわかるけどねププッ」
駄目だこいつ。全く話を聞こうとしない。
「はぁ。それで君はどうしてここに?」
「ふふんっ。それはね今日実はそこの鳳天堂で面接があるのよ。凄いでしょ? あの超一流企業の鳳天堂よ」
「……へぇ」
蔚美がこの辺りで一際目立っている高層ビルを指さして言った。そここそが蔚美の言う鳳天堂のビルだったりする。
「ま、私は翔太と違って持ってる女だからね。あんたみたいな底辺とは違うのよ底辺とは」
そして俺を底辺と決めつけてマウントを取ってきた。こいつそんなことを言うためにわざわざ僕に声を掛けてきたのか。
「蔚美は鳳天堂に入って何かしたいことあるの?」
ポケットの中のスマフォを弄りつつ気になった事を蔚美に聞いてみた。蔚美にとって仕事とは一体何なのか。
「そんなの決まってるじゃない。鳳天堂ぐらいの企業なんだから働いている男もエリートに決まってるし将来性も抜群よ。あんたと違ってね」
「は? いや、それが何か関係あるの?」
「あるに決まってるじゃない。私はあんたみたいなクズのせいで一瞬でも時間を無駄にしたわけだしね。まぁその後は別な職場で働いたけど大した男いなかったしだから鳳天堂で将来性あって私を楽させてくれる相手を見つけるのよ。そして結婚して悠々自適に暮らしていくの」
「…………」
僕は言葉を失った。こいつ、仕事する為じゃなくて男漁りのために会社に入るつもりなのか。
「鳳天堂にはいって自分でなにか成し遂げたいって気持ちはないの? こういう仕事がしたいとかこんな企画でやってみたいとか」
「はぁ~? そんなのあるわけないじゃん。仕事なんて適当でいいのよ。そんなのは男に任せておけばいいんだし」
「いや今の時代男も女も関係ないよね?」
「そんな事言ってるのは男にも相手されないような女だけよ。私みたいな美人で黙っていても男から注目される存在はそんなコト考える必要ないの」
髪や爪を弄りながら蔚美が答えた。凄い考え方だな。
「でも会社に務めるようになったら君だって仕事しないといけないだろう?」
「馬鹿ね鳳天堂みたいな企業に入るのなんて楽する為に決まってるじゃない。給料だっていいしね。それに私ぐらいになると仕事なんて適当に男に投げるだけでなんとかなるのよ。あ、でもムカつく女がいたらそいつに全部押し付けるかな」
とんでもないこと言ってるなこいつ。
「そんなことして嫌われても知らないよ」
「はは、大丈夫に決まってるじゃん。女から嫌われても男に好かれていれば勝ちなのよ。前の職場も小うるさくて気に入らない女がいたから散々虐めて会社から追い出してやったわ。だけど男はみんな私の虜で味方だったし」
最悪だな。今思えばこいつとあのまま付き合ってなくて良かったなと本当に思うよ。
「会社に貢献する気はないってことかい?」
「貢献? キャハハハ! 会社なんて私に利用される為に存在するのよ」
蔚美はそんなことを口にしつつ半目を僕に向けてため息交じりに続ける。
「それにしても本当あんたってつまんない男よね。考え方が底辺のソレ。まさに負け組って感じ。あんたみたいのが零細企業で社畜になって何も残せず誰にも相手されず孤独に死んでいくのよご愁傷さま」
本当何も知らないくせに好き勝手言ってくれるね。
「君の考えはわかったよ。それじゃあ僕そろそろ行くから」
「はいはい。ま、今後あんたとはもう二度と会うことは無いでしょうね。住む世界が違うんだし。それと私と付き合っていたなんて他で言い回ったりしないでよ。本当あんたとほんの少しの間でも付き合っていたなんて知られたくないし恥ずかしいことなんだからね!」
「はいはい」
そう生返事して僕はカフェから出た。それにしても朝からあんなのと出会うなんて最悪だ。だけどまぁおかげで良く知れたけどね――
◇◆◇
まさかあんな過去の汚点と再会するなんて思わなかったわね。だけど、ま、朝から適当にからかうには丁度良かったかな。
それにしてもあいつ倒産させるなんてね。本当自分の慧眼が怖いぐらい。振っておいて正解だったわ。私の見る目に間違いはなかった。
それにしてもあの落ちぶれた姿、ぷぷぷ、思い出すだけで笑える。あいつはあのまま底辺の会社で一生低賃金で働いて死んでいくのね。
住んでるのもきっとどこかの狭いオンボロアパートね。落ちぶれた奴は大体オンボロアパートって決まってるし。あ~イヤダイヤダ。
その点私は違う。見てこの見上げるほどの高層ビル。こんな大きな企業で私は面接する。ま、最終面接まで来たしこの時点でもう勝ったも同然だけどね。
私、面接対策だけはバッチリなのよね。女を活かせる方法も熟知してるし。
面接に来たことを伝えて待合室で待機する。そこそこ残ってる人はいるようね。
鳳天堂はあの鳳天智グループの一つ。グループの考え方で面接は集団ではなく個人面接が主となってるみたい。鳳天堂もそうで私にとっては実に都合がいい。
ザッと見てみたけど少なくとも女は私と比べたら地味だったりブスだったりね。これぐらいの企業だと女性を全くとらないなんてことはないだろうしそう考えたらもう落ちる未来が見えないわ。
私がこの連中より劣るなんてことはありえないからね。勝ったも同然って奴?
「小野田蔚美さん」
「はい!」
名前を呼ばれ私は室内に入った。何人かの面接官の目が私に向けられお座りください、という声も聞こえた。
その瞬間私はザッと面接官の顔を見たわけだけど……え?
「おや? どうかしたのかい?」
思わず固まってしまい席につくのも忘れてしまった。面接官の中心にいる男に見覚えのある、そう底辺のはずのあいつがいて、何で? ありえないありえないありえない!
「ははっ。どうしたのかな。早く席についたらどうだい?」
「な、なんであんたがここにいるのよ翔太ーーーーーー!」
後編もお楽しみに!
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