4話
教室の下半分を占める喫茶スペースは机や椅子全てをダンボールで包み木製に見えるように工夫してある。給仕をしている女子は丈の長いワンピース型のケルト風民族衣装だった。正直、女子の衣装がどれも可愛いのが唯一の心の支えだ。
「いらっしゃいませ! あっ会長さんお疲れ様です!空いてるお席にどうぞ!!」
「うん、ありがとう。」
さっきの受付もそうだが、接客スキルは中々高い。笑顔でテキパキ働く姿は好感が持てる。普通にケルト風喫茶ではダメだったのかと悔やまれる思いだが、もう仕方ないのだろう。席に着くと古紙風のラミネートされたメニューが置いてあった。
通常メニュー
・トメィトゥと燻製肉のパン挟み焼き250円 (トマトとベーコンのホットサンド)
・ポテェイトゥの異世界揚げ~異世界の白いソースを添えて~150円 (ポテトチップスとマヨネーズ)
・果実入り蜂蜜酒150円(生レモン入りはちみつレモン飲料※ノンアル)
・ハイポーション150円(ブルーハワイ入りエナジードリンク)
ライセンスカードワンドリンクメニュー
・平民のお茶(ウーロン茶)
・売れ残ったオレンジュの実の汁 (オレンジジュース)
・異世界の怪しい黒いシュワシュワ(コーラ)
下に小さく書いてあるカッコの中を見ないと何なのか分からないメニュー。値段設定は商品を見てないのでなんとも言えないがかなり強気の設定だ。出店の飲み物で50円の所もあったし、食べ物も焼きそばが200円だった気がする。だが周りを見ると割と売れている様だ。
「ポテェイトゥにこんな食べ方 (ポテトチップス)があったなんて!パリパリしてて美味すぎる!」
「この異世界の白いソース(マヨネーズ)は酸味とまろやかな口当たりが堪んねぇぜ!!」
「そして油っぽくなった口の中を蜂蜜酒 (はちみつレモン)がスッキリさせてくれる! 最高の組み合わせだ!」
「しかもハイポーション(エナジードリンク)がこの値段なんてよぉ!! 味も粗悪品とは比べ物になんねぇぜ!!」
まるで初めて食べたようなリアクションをする隣の席の声に思わず振り向くと眼帯とメガネがそこにいた。
「おっ嬢ちゃん!! やっぱりまた会ったな!!」
「あーお前が話しかけていた子か。折角だから一緒に食べないか? 1人より大勢で食べた方が美味いぞ?」
「いえ、結構です。」
面倒くさい予感する。早く注文して帰ろうと思ったその時にはもう何もかも遅かった。私の席に店員と侍が現れる。
「すみません、会長さん、満席状態で相席よろしいですか?」
「スマンが私から頼む。この通りじゃ。」
「……あなた自分のクラスでしょ?」
「実際に提供する品物を確認する事も大切じゃ。それはお金を払うお客の立場でないと体験できんからのぅ」
「立派な考えだけど、口調がムカつくわ。……まあすぐ帰るからいいわよ。」
「かたじけない。では折角だから眼帯とメガネも一緒に座れ。そうすれば席に空きが出来るしのぅ。」
「チッ!頭が痛くなってきたわ。」
――そうして私は紆余曲折を経て侍、眼帯、メガネの4人で席に座っている。注文はちょうどお腹が空いていたのでパン挟み焼きとハイポーションを注文した。混んでいるのに1、2分が到着し、驚いていると侍が話しかけてくる。
「パン挟み焼きは事前に焼いたモノをレンジで温めて提供してます。メニューも絞ってあるので安定した接客ができます……からのぅ」
「そうなのね。口調は安定してないけど、理解したわ。」
パン挟み焼きは、特別な事は何もないが普通に美味しかった。ハイポーションは黄色のエナジードリンクにブルーハワイを入れた事でエメラルドグリーンになっている。割と映える見た目に少し感心しているとまたも声が掛かる。
「ハイポーションといえば緑じゃ。味も悪くないし、女子にも見た目とネーミングから人気があるのぅ。」
「クエスト後はこれに限るぜぇ!!」
「そうなの。よかったわね。…………ご馳走様でした。では――」
「話があるんじゃ」
こんな奴らと知り合いだと思われるのは耐えられない私は過去一のスピードで完食し立ち上がろうとすると侍に声で止められた。
「ここであったのも何かの縁、私たちでパーティーを結成するのはどうかのぅ」
「それは面白ぇ!!賛成だぜ!!」
「まあ、たまには連むのも悪くないか。別に構わないぜ。」
「侍、戦士、魔術師、そして期待の新星。ここから新たな伝説は始まるのじゃ!! パーティー名はログ・ホラ――」
「お断りします。……あと蜂蜜酒の表記は誤解を招く恐れがあります。至急訂正して下さい。では。」
「……ズンじゃ」
「「失恋侍……」」
――文化祭も3日目の最終日だ。私は壇上でクラスの出し物の得票結果を発表している。
「では早速、第3位は!……3年1組のお化け屋敷です!おめでとうございます!」
「「きゃあああ!!」」
「お化けやセットのクオリティが高く非常に人気のあるスポットでした。アンケートには「お化けがリアルで怖かった。」「可愛いお化けが多くて別の意味でドキドキした。」「冷たい目つきの雪女ちゃん連絡先教えて下さい。」など沢山のお言葉を頂いております。皆様、3年1組に拍手をお願いします!」
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「続いて堂々の第2位は!……3年3組の演劇です!おめでとうございます!!」
「「ぎゃああああ!!」」
「定番のロミジュリでしたが、圧倒的な演技力で連日の満員でした。アンケートには「思わず泣いてしまった。最高です!」「ジュリエット役の演技力パネェ。」「ジュリエットちゃん、雪女ちゃんの連絡先教えて下さい。」など沢山のお言葉を頂いております。皆様、3年2組に拍手をお願いします!」
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「そして今年度文化祭の得票数第1位は!!…………チッ2年1組のナーロッパ風喫茶ギルドです。おめでとうございます。」
「「ぎょぇぇえいやあああ!!」」
「その意味不明な世界観と学校全体を巻き込む戦略が圧倒的な存在感を放っていました。アンケートには「ミスリルランクになって彼女が出来ました!」「衣装ヤバすぎ!売って欲しい!!」「もしかして山賊殺しちゃんって雪女ちゃん?連絡先教えて下さい!!」など沢山のお言葉を頂いております。皆様、2年1組に拍手をお願いします。」
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こうして私の文化祭が終わった。あと1位の発表の際に感じが悪かったため先生に怒られた。またアンケートに山賊殺しや雪女など自分の内容を入れていた事で自己顕示欲の強い女と誤解された。あれは原稿を渡されて読んでるだけで内容は文化祭実行委員が作っていたが反論しても後の祭りだった。
そんな文化祭が終われば3年の私に残された行事は受験と卒業だ。そして卒業文集の3年間で一番思い出に残った事は間違いなく「ナーロッパ風喫茶ギルド」だ。私は先生の卒業文集の話を聞きながら、あの日の事を思い出し自慢の指力でシャーペンをへし折った。
「おい会長、またシャーペン折ってるぞ!! 流石総指量280だぜ。もはや神の領域だ。」
「シー、馬鹿!! お前ツヨシの後を追いたいのか?殺されるぞ!!」
「こら、たるんでるぞ!お前ら!山賊殺しのシーナ様を見習え!!」
「「はい、先生。」」
「…………。」
最近、初めて異世界転生したい気持ちがわかった。ネット小説も読み始め、結構ハマっている。ただナーロッパ風の話はまだ控えている。きっと家のペンが足りなくなるから。
終わり。
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