2話
私は今教室の下半分を占めている喫茶スペースにいる。何故か同席している侍とメガネと眼帯が理解できない会話している。
「じゃあやっぱりあんたがあのS級クエスト「屋上から公開告白」をクリアした男なのか!?」
「まあ、ほんの暇つぶしにじゃな。」
「……それで報酬は?」
「白金貨1枚。しかし失うものも多い危険な旅じゃった。」
「すげー!! 流石、最速オリハルコン文化祭狩人失恋侍シンイチだぜ!!」
別に好きでこの頭のおかしい人達と同席している訳ではない。それを説明するには、話をあの指相撲まで戻す必要がある。
――勝負の決着は呆気ないものだった。眼帯の力押しにメガネが押し負けるというアレだけ造語で広げた割に予想通りの勝敗だった。
「やるなあんた!!……名前は?」
「お前もな。俺はイキリメガネのシューヘイだ。」
「やっぱり2つ名持ちか!俺は声デカ眼帯のゴローだ!」
喧嘩していた2人は何故かもう仲良くなっていて、そのまま過ぎる2つ名を口にして互いを認め合っている。そんな光景を侍は微笑を浮かべて眺めていた。
「何なのこれ、わたし本当に異世界に転移したの?? それか白昼夢?」
目の前で起きた悪夢にただ呆然と立ち尽くしていると声デカ眼帯が近付いてきた。
「すまねぇな話の途中で!! とにかく新人はギルドに文化祭狩人登録が必要だ! それは異界の迷い人も同じだからな!!」
「フェス……いや、もういいわ。今なら異界の迷い人って言葉をすんなり飲み込めるわ。」
「まずそこの受付に行きな!! 登録ついでに文化祭狩人としてのルールも教えて貰えるぜ!!」
「わかったわ。とりあえず意味不明だし、声デカいからもう喋らないで。」
「はは、つれねぇな!! だが文化祭狩人にはそれぐらいの気概は必要だ!! きっと向いてると思うぜ? じゃあな!お嬢さんとはまた会えそうな気がするぜ!!」
「私は二度と会いたくないわ。」
正直いって帰りたい。しかし、私は今仕事としてここにいる。明日に向けて手直しするにしても、邪魔が入ってまだ黒板の前しか調べられていない現状だ。郷に入っては郷に従えという。私は声デカ眼帯の言う通り受付に向かった。
「おはようございます。本日はどの様な御用向きですか?」
「あっおはようございます。……その実は……」
疎らな列が出来ていた受付に並び、わずかな時間待っていると順番が回ってきた。受付には白いドレスシャツに紺色の襟付きベスト、首元に赤いリボンをあしらった異様に完成度の高い衣装の女子生徒がいた。何故このレベルの裁縫技術をこんな爆死喫茶に注いだのか理解に苦しむがにこやかに微笑む女子生徒に気圧され私は監査のため赤くなる顔を感じながら小声で話した。
「……文化祭狩人登録したいんです。」
「え?なんですかそれ??」
「はあ!? あそこにいた声デカ眼帯男がそう言ってましたよ!!」
「ああ、それ勝手に男子が言ってるだけです。私たちはギルド登録ってよんでます。その……会長ってそういうの好きなんですか?意外ですね。」
「……このクラスを出し物は今この瞬間から営業停止です。あとそこの声デカ眼帯は騒音の現行犯として生徒会が拘束します!!大体なにがフィンガーデュエルじゃ!!アホなんかお前ら死ねぇ!!1人残らず監査してやるッ!!」
「あの清楚な会長が壊れたッ!! だ誰か委員長を呼んで!!」
――生まれて初めての辱めにかっとして暴言を吐いてしまった。私は2年1組学級委員長として現れた見知った侍姿の男に怒りを通り越して神経が研ぎ澄まされる様な不思議な感覚を覚えていた。
「おや、会長。何かございましたか?」
「……いえ、少し冷静さを欠いたわ。ごめんなさい。」
「なるほど。少々ノリのいいお客が多くて私たちも困ってるんです。お察しします。」
「……あなたが1番ノリノリに見えたんだけど。」
「あはは、まあロールプレイって奴ですよ。お客にも好評なので勘弁してくださいよ。それに出し物は別に問題はないでしょ? クレームもありませんし、クエストを利用して他クラスの宣伝もしているので文化祭全体のシナジー効果も大きいです。それにクエストという形でお客を回転させているので効率的ですよ。」
普通の喋り方になった侍に違和感を覚えつつ、その言葉に一応の納得はした。確かにお客は楽しそうにしているし、クエストという形で他クラスと連携するやり口は面白い発想だ。だがこれでは自分たちの売上が上がらないのではと考えていると見越した様に侍が口を開いた。
「ギルドに登録するとクエストが受けられます。登録には200円必要で、払うと喫茶コーナーでワンドリンクを頼めるギルドカードを渡します。そしてクエストの報酬はギルド限定仮想通貨です。この通貨を集めるとギルドランクが上がりより高い報酬のクエストを受けられます。もちろん喫茶コーナーではギルド限定通貨は使えませんよ。ギルド限定通貨にランクアップという名誉以外の価値はありません。」
「名誉なのそれ? いや、それより売上は立つの?」
「このクラスは斡旋所であり文化祭のハブ地点になります。僕も生徒会が頑張っている文化祭を盛り上げたいですからね。それに喫茶コーナーの売上もあるので大丈夫ですよ。」
確かに喫茶コーナーには人も多い。売上もあるなら攻撃材料は舞台設定に関する事しかないが、それも楽しむ人がいるなら私の価値観を押し付けるのは良くないだろう。それにギルド限定通貨に金銭的価値がないというのは朗報だった。さっき指相撲で賭け事をしていた生徒がいたが、それなら注意は必要だがまあグレーゾーンだろう。
「そうなのね。……とりあえず賭け事は止めさせなさい。あとは……残念だけど営業に問題はなさそうね。」
「流石、生徒会長。ありがとうございます。」
「という事で私は疲れたから帰るわ。それじゃあ――」
「えっ最後まで監査しないんですか? 生徒会長ともあろうお方が職務放棄ですか?」
「それは語弊があります。今のお話で十分に理解出来たので不要と判断したまでです。」
「カード発行までのやり取りや喫茶コーナーは見てませんよね?」
「それは……ケースバイケースです。」
しかしお客様や生徒達の手前私は監査を続行する羽目になった。
……続く。
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