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第76話 俺たちの決断

(…………)


 息を大きく吸い、吐く。


 メッセージは受け取った。きっとローラン卿は、未来の俺に期待してくれているのだ。

 また一つ、精霊騎士を目指さねばならない理由ができた。俺の背中を押してくれる人が増えた……そんな気がした。


「なぁ、ラム兄」

「うん?」

「次の選抜試験って、いつだ?」


 ラム兄は顎に手をやった。


「そうだね。ちょうど一週間後にあったかな。たぶんローラン卿の名を出せば、出願もギリギリ間に合うはずさ」

「そうか……」



 ゆっくりと、贈られた手袋を手に嵌めてみる。


 不思議な触り心地だった。

 先代の手袋とほぼ同じ厚さだというのに、まるで元から自分の一部だったかのように柔軟に肌へフィットしている。

 その上、頑強な魔獣の上皮を素材にしているのだろう。ナイフ如きであれば、簡単に撥ね返せる防御力まで備えていそうだ。


 試しに拳を握ってみたが、意思通りに指はスムーズに動いた。フォークの金属質な冷たさも古着の繊維質な感触も、革を通して伝わってくる。

 これなら手袋の存在を気にせずに、剣をより正確に振ることが出来そうだ。


 ローラン卿の細やかな配慮に、胸に熱いものを覚えた。



「――さて、夜も更けてきたね」


 澱絡みの赤ワインを一本空けたところで、ふとラム兄はそう言った。


「これ以上時間が経つと、僕の頭にも酔いが回りそうだ。

 だから……そろそろ君たち二人の今後について、展望を聞かせてもらおうかな」



 もったいぶった口調だった。真面目に話をしようとしているのがわかる。

 それを察してか、骨付き肉を食べていたリリは手をナプキンで拭いた。


 相も変わらず俺たち以外の席では、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎが続いている。こちらのシリアスムードは意にも介していない様子だ。

 そんな温度差をものともせず、ラム兄は口を開く。


「……君たちは、精霊騎士になるチャンスを手に入れた。

 だが、イオリくんはカエルの亜人で、リリちゃんは人型の精霊だ。

 少し日の当たる場所を歩くだけで、君たちは周りから奇異の目を向けられる存在。この世界を生きるには、些かハードな境遇にある」


「そうだな。実際ローラン卿にはずっと監視されてたし、街に下りてからは厄介事に巻き込まれっぱなしだ」

「ゆえに、小細工なしで聞かせてもらうよ。

 ――――此度の選抜試験、君たちは受けるつもりなのかい?」



 ラム兄の心配は理解できた。

 奇々怪々な俺たち二人が公然の場に出ることは、何かしらのトラブルを招くこととイコールで結ばれている。


 試験には亜人差別の意識が強い人間だって来るだろう。此度の決闘のように、命に係わるいざこざが無駄に発生する可能性は高い。

 だから、未だ実力の乏しき俺たちへ、彼は引き返す最後の機会を与えてくれたのである。


 しかし。

 もう俺たちの中で、とっくの昔に結論は出ていた。



「……リリ」

 俺は相棒の名を呼んだ。「もちろん、選択肢は『あれ』だよな」


「あったり前でしょ?」

 彼女は頷く。「『あれ』以外、眼中にないもん」


 よかった。どうやらコイツも、俺と同じ答えを導き出していたらしい。

 悪魔もびっくりなもの凄い偶然に、俺は頬を緩ませる。


 …………この空気を読んだのだろう。

 傍らで話を聞いていたにゃーさんも、元気よく挙手をした。


「はいはいはーい!

 そしたらにゃあは、スティーブンたちを全力でサポートしまーす! ジャーナリストの名に懸けて!」


 グググッと胸の前でガッツポーズをした彼女は、熱の籠った応援をしてくれた。


「――――どんなことがあっても、にゃあは君たちの味方だよ。

それを忘れないでね!!」

「……! ありがとう」



 この茶番劇は、もう一人の古参ファンの耳にも届いていた。


 ビールジョッキを携えて近づいてきたのは、酒に酔って赤ら顔なカルザックさんだ。

 社員に支えられながら立つ彼は、右に左にフラフラと揺れている。


「……僕もここにいる皆も、今日の決闘で君たちのファンになった、よッ!」


 ぴしっとサイドチェストのポーズを決めて、彼は言う。


「もしも精霊騎士になったら、ぜひ僕らの会社とスポンサー契約を結ぼう!……それくらい、僕らはイオリくんたちを応援してるんだッ!」

「本気、ですか?」

「そりゃそうさ! じゃなきゃ、こんな提案はしない! それだけ君は、我々からすれば魅力的な人間であるってこと…………zzz!」

「「カルザックさん!?」」


 睡魔の猛攻に耐え切れなかったのだろう。

 話している途中で、カルザックさんは気持ちよさそうに寝てしまった。膝から崩れ落ちた大男に潰される形で、彼の体重を支えていた社員たちも視界から消えていく。

 数秒後、床の方からおじさんの寝息が聞こえてきた。眠気を押してでも俺を勇気づけてくれた彼に、俺は腹から深く感謝した。


 これでもう、俺たちの答えが変わることは有り得ない。



「――さぁ。メッセージを受け取ったところで、再度聞こうか」

 発言権が一巡したところで、ここぞとばかりにラム兄は見得を切った。

 俺たちを試すかのように、含み笑いで彼は口を開く。


「――此度の試験、受けるのかい? 受けないのかい?」

「……」


 ふっ、と俺はリリに目配せを送った。

 勘のいい彼女は、視線があるなり鼻を膨らませる。悪戯をする直前にわんぱくな子供が見せるような、企みの成功を期待する表情だ。


 ここまで見抜かれてしまっては、もうコイツに隠し事はできないかもしれない。

 そう思いながら、俺はリリに拳を突き出した。間髪入れず、彼女はそれを拳で返す。


 俺の右手と彼女の左手。

 蛙の手と精霊の手。

 手袋を付けた手とミサンガを付けた手。


 覚悟の乗ったグータッチを交わした俺たちの心は、この時ばかりは完全に一つとなっていたようだ。


 …………そして。

 いざ勢いよくテーブルに手をつくと、口をそろえて俺たちは宣言する。



「「――――()()()()!!」」

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