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第75話 サプライズは激アツに

「プレゼントでもくれるのか?」

「そんな感じかな。預かってるものも含めて、全部で三つあるんだ」


 まずはこれだ。

 そう言って彼は、白衣の懐から一枚の封書を取り出した。「……僕からの贈り物だよ」



 丸められた羊皮紙は、紐で頑丈に留められていた。

 黙ってそれを受け取った俺は、バキバキに凝り固まった身体で慎重に封を解く。

 黒インキで丁寧に書かれた文章に目を通した。


「……」



 ――()()

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()



 そんな類いの言葉が、赤い判と供に羅列されているのが見えた。

 紙を持つ手が震えてしまう。


「こ、これって……まさか!」


 ラム兄が頷いた。

「あぁ。ずっと君が欲しがっていた、選抜試験の『推薦状』だよ。

 ――公式の戦績がない亜人が受験資格を得るためには、これ以外に方法がないからね」


 軽々しく彼は言ったが、ただただ唖然としてしまう。

 確か闘技場に居た受付嬢によれば、新人を選抜試験へ推薦できるのは二部リーグ以上の登録者だけだったはず…………ということは。



「……アンタ、二部リーグ登録者だったのかよ!!」


 度肝を抜かれ、俺は首をすくめる。

 当の本人は、行雲流水といった感じで「たはは」と呑気に笑っていた。



 風の噂で『精霊騎士の中に試合を万年欠場している変人がいる』とは聞いていたが、まさかこの男のことだったとは思わなかった。

 道理でチンピラを手刀一発で倒せたわけだ。闘技場の地下へ憲兵を引き連れ、裏取引をしていたヨナスを取り押さえた刑事的行為にも合点がいく。


 推薦人の欄に書かれた流線型なサインは、一字一句彼のことを指していた。


「――なんだ、僕の正体を知らなかったのか。てっきり誰かから、早々に聞いているものかと思っていたんだけれど」

「にゃーさんでも気付かなかったんだぞ……片田舎で育った俺にわかるわけないだろ」

「それはそうさ。実は僕、ここ何年かの間に一度も決闘をしていなくてね。味のしないガムみたいな扱いなのさ……噂が立たなくても当然だよ」



 プロ精神が欠片も感じられない発言に、俺は心底呆れてしまった。


 決闘もせずに精霊騎士の職に手を付けてたって、よくぞこれまで委員会から解職されなかったものだ。二部リーグに在留しなければならない理由でもあるのだろうか。


 ますますラム兄の正体が掴めなくなる俺だったが、今に限ってそんな追及は鼻くそほどにどうでもいい。

 バッと推薦状を広げた俺は、肝心なことを訊くことにした。


「じゃあ、この紙さえあれば試験は受けられるんだな!?」

「ん……あぁいや」


 煮え切らない返事だった。嫌な予感が俺の脳裏をよぎる。

予感は当たった。


「それなんだけど……僕一人の推薦だと、委員会に撥ねられる可能性があるんだよねぇ」

「……は?」

「ほら、僕って信用ないからさ」

「――おいちょっと待て! じゃあこの推薦状、ほとんど役に立たないってことかよ!!」


 紙ごみを押し付けてくるなんて、どうかしているのかこの男は。

 加えて、自分の信頼を回復させようと努力する気もないらしい。呆れてものも言えない。


 しかし、そこはさすがサボリ魔。

 自分のダメ男をフォローするため、ちゃんと保険をかけていた。


「そ・こ・で、このプレゼントが活きてくるわけさ」



 そう言ってラム兄は、もう一つ封書を差し出してきた。

 羊皮紙に紐が巻かれたそれを、俺は黙って受け取ってやる。


 予想通り、それは二枚目の推薦状であった……が、最後の署名だけがおかしい。

 ドクター・ラムと書かれていない。

 傍線が引かれた欄には、俺のよく知る人間の名前が記されていた。


 ――そう。

 推薦者の名が、『ローラン卿』となっていたのだ。



「嘘だろ……痛ッ!!」


 驚いた拍子に、俺はテーブルへ膝を強かに打ち付ける。じーんと神経に電流が走ったが、痛みはない。

 筋肉痛のことも忘れて、前のめりに俺は訊ねた。


「な……何かの間違いだろ! これホンモノ!?」

「正真正銘、ローラン卿からの推薦状だよ。異例なんだぞ、自分の門下生以外に推薦状を送るなんてケースは」


「マジかよ、脳が追い付かん……ローラン卿は、なんて?」

「推薦については、何も言っていなかったよ。でも三つ目のプレゼントに関しては、ある言伝を預かってる」


 二枚目の推薦状に喜んでいる暇もなかった。

 ゴソゴソと机の下から包みを取り出したラム兄は、畳みかけるようにサプライズを展開していく。



「――これが最後の預かり物。開けて中身を見てみるといい」


 そう言って彼は、俺の前に包みを置いた。


 茶色い包装が施されたそれは、ちょうど俺の両手に乗るくらいのサイズ感。

 躊躇わず、俺は包みを破いてみる。


 中から出てきたのは、一対の()()。それとメッセージカード。


 反射的に俺は、ラム兄の顔を二度見した。「もしかして……これもローラン卿が?」


「二年前まで彼が身に付けていた、かなり仕立ての良いアイテムらしいよ。

 毎日手入れをしてくれていたおかげで、糸のほつれも汚れもない。耐久性だって充分。

 その手にも、よく馴染むんじゃあないかな」

「……」


 添えられたメッセージカードを、俺は手に取った。ドキドキと胸を高鳴らせて、達筆な文字の列に目を通す。

 内容は、次の通りだった。



 ――――親愛なる戦友、イオリ・ミカゲ君へ。


 私は今、ラウンジでこの手紙を書いている。拙文で申し訳ないが、読んでもらえるとありがたい。



 ……さて。この手袋は、私からの餞別だ。


 君の手袋を燃やしてしまったから、その代わりになればと思って贈らせてもらった。

 喜んでくれると、此方としても幸いだ。


 だが、無理やり綺麗に扱おうとはするな。ボロボロになるまで使い込んでくれ。

 私の魂、その一部を君に託すのだ。私に空の蒼さを教えてくれた男として、君は君なりの未来を切り拓け。



 精霊騎士の道は長く険しいが、君には良き相棒がいる。

 彼女との絆があれば、どんな奇蹟でも起こせるはずだ。私が保証する。


 だから……『がんばれ』。『いつか夢は叶うものだ』。



 応援しているよ。

 次は一騎士として、闘技場で会おう。


 では、君たち二人に幸多からんことを願って……。



 ――――ローラン・トリルバット。

 お読みいただき、ありがとうございました!


 「面白い!」「続きに期待!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや★評価をよろしくお願い致します!


 執筆のモチベーションに繋がりますので、どうか!


 これからも応援のほど、何卒よろしくお願いします!!

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