表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/79

第24話 悪党どもを追撃せよ!

「むりむりむり! 使えないよ、そんな高度な魔法!」


 ぶんぶん首を横に振る彼女。

 俺は食い下がった。


「じゃあ、魔力残渣から個人を特定するとか、風水で吉方を占うとか、なんか他に方法はないのか?」

「……『ダウジングめざし』を焼くことくらいかな」

「なんて?」


 耳慣れない言葉に困惑する俺へ、リリは何のタメにもならない説明を投げつける。


「――他人とか物を探し当てられる焼き魚だよ。

 百年前は身近な料理だったんだけど、知らないの?」


「……そもそも魚なんて、手元にないんですが?」

「じゃあ、わたしに出来ることは何もないです。ごめんなさい」

「あーもー、お前に期待した俺がアホだったわ」



 この発言が起爆剤になったらしい。


 ムカッと頬を膨らませたリリは、腕組みをするなりビャービャーこんなことを捲くし立て始めた。


「――というかさぁ、そんなまどろっこしい方法使わなくても追跡できるでしょ」

「は?」


「だってあのリンチ二人組、()()()()()()だったじゃん」

「……はぁ?」


 彼女が何を言っているのか理解不能だった。


 あの二人組が特徴的?

 視力や記憶力の良い俺でさえ顔も服装も思い出せないくらい、地味で影の薄いあの男どもが?


 眉がせり上がって綺麗な山が二つできる。

 それ程に眉を顰めた俺に、彼女は説明していった。



「――――だってさ、一人は眼鏡をかけたサスペンダーの茶髪さんで、もう一人は左の首に刺青を入れた金髪さんでしょ?


 背丈は両方一八〇センチくらい。

 精霊は連れていなくて、目立った手荷物もなし。


 しかも、あの茶髪さん……殴るのは右手なのに、蹴るのは左足で歩き出すのも左足から。『利き手と利き足が左右違う』って、かなり珍しいパターンだよね。


 で、金髪さんはわたしたちに気付いた時、一瞬だけ腰に手をやってた。

 ってことは、腰に武器を隠してた可能性が高い。


 そういう変人コンビなんて、この街に二つと居るわけがない。


 …………ほら、すっごく特徴的だと思わない?」


 

 文字通り、俺は舌を巻いてしまった。

 あまりに予想外の能力を披露したリリに、どう接していいか分からなくなる。


(……ちらっと見ただけで相手の特徴を覚えたっていうのか……なんて観察力だよ!)


 もちろんリリが自尊心を守りたいがために、でたらめを吐いた確率はゼロではない。


 だが、彼女を疑ってもいいことなんて何もない。

 こうしているうちにも男二人組は、俺たちから遠く離れてヨナスの下へ向かっているのだ。

 リリが見せた自信に満ちた天狗顔、その鼻の伸びっぷりを信じてみることにしよう。



 立ち上がった俺は、リリの頭をくしゃくしゃっと撫でた。

 絹のように滑らかな髪であっても手の力には勝てないらしく、彼女の頭頂部には見事な鳥の巣が出来上がる。


「使えねぇ奴とか思って悪かったよ」


 何とかその手を退けようと抵抗するリリに、俺は言ってやる。


「……やっぱお前、サイコーだ!」

「えっ、心外」


 鳥の巣から手を離す。

 髪の毛を押さえるリリは、この場に置いて行くことにした。にゃーさんの看護は、俺に罵詈雑言を浴びせるコイツに任せておけばいい。


 荒事は、俺一人で十分だ。


「……あの二人組を追う。ちょっと持っててくれ」


 そう言って俺は、地面に置いていた鉄剣をリリに投げて寄越した。

 驚き焦ってバタつきながらも、なんとか彼女はそれをキャッチする。


「お、重いんだけど……」

「その鉄剣、親父の形見なんだ。落とすなよ!」

「だったら投げないでよ……って、え! ちょっと何処へ行くの!?」

「決まってるだろ――あの二人組を追うんだよ‼‼」



 それだけ言うと、俺は身体中に魔力を流した。

 空気抵抗も無視して、全力で走り始める。


 男二人組が歩いて行ったこの道の行き先は、臭い肉屋が立ち並んだあのコープス・マーケット。


 脚力には自信がある。

 執念だって、にゃーさんには負けちゃいない。


 あとは俺の勘が働くかどうか。

 その如何で、この追走劇のオチは決着する。


(……出たとこ勝負、だな!)


 マントも鉄剣も悩みでさえも、リリたちのところへ置いてきた。身軽になった俺は音もなく加速する。


 商店街特有の喧騒は、すぐそこまでやって来ていた。


♦️


「――くっそ、あいつら何処行った!」


 まず、コープス・マーケット一番通りに飛び込んだ俺は、道のど真ん中に立つと素早く辺りに視線を張ることにした。

 意識を集中させ、通りを行き交う人々の顔と背恰好を見極めていく。


 周囲の人間たちが俺に奇異の目を向けていたのも、ある種好都合だったと言えるだろう。

 いきなり全速力で亜人がやってくることなど、この通りではめったに起こり得ない特殊イベント。

 意識が集中して当然だ。


 またマントを羽織っていないために、白昼堂々俺の素顔は曝されていた。

 例のごとく蛙の肌は嫌悪の視線を集め、人々の顔はいつも以上によく見える。


 野次馬どもの顔を識別するには絶好のチャンスだ。


(奴らがこの中にいれば、探す手間が省けるんだけど……)


 絶えず眼球を動かして、ターゲットの二人組を探してみる。

 服装を変えていないか。

 肉屋の店主に成り代わっていないか。

 ありとあらゆる可能性を念頭に置き、俺は対象の容貌を確認していく。


 しかし、コトはそう単純に解決してくれはしないらしい。



(違う……違う……こいつも違う……)

 

 眼鏡をかけたサスペンダーの茶髪と、左首元に刺青を入れた金髪。

 リリの言っていたそいつらの姿は、視界のどこにも映らなかった。


 もう彼らは、とっくの昔にこの商店街を通り抜けてしまっていたのだろう。


 で、あれば。

 男二人組が次に向かうのは、いったい何処だ。


(ヨナスの家を俺は知らない。

 でも二部リーグ登録者のほとんどが、貴族の別荘地が密集する『永輝街ラジエンス・エリア』に住んでいると聞いたことがある。

 ……そんな場所に入られたら、俺みたいな亜人は手出しできない。その前に追いつかないと!)



 一旦、追手の立場に立って推理してみよう。


 人型の精霊奪還作戦において、「死をも恐れないにゃーさんの取材活動」はまず間違いなく障害になる。

 汚職はマスコミによって暴露されるのが世の常というもの。

 正義の味方ぶった人間は、食事中のコバエ以上に鬱陶しいものだ。


 だとすれば男二人組は、この懸念材料について雇い主であるヨナスへ報告に行くはず。

 最短距離、最短時間で、できるだけ目立たぬように道を選んで。 


(……人通りの少ない道ばかりを歩くのは、却って不自然に見られやすい。

 人混みの中に一度紛れて、そこから脇道に逸れたいはずだ……)



 怖いもの見たさで集まった野次馬をかき分け、俺は通りの奥へ進んでいく。


 にゃーさんに手当てを施した時間。

 その分を踏まえて予測すると、二人組は現在「一日で十万人は通ると謳われる、ルベイル最大のメインストリート」にいるのだろう。


 幅の平均が五十メートルにも及ぶこの大街道は、隣国からやってきたファンキーな旅人、秘境村から出稼ぎに来たお上りさん。

 酒樽をダースで大型馬車に詰めて運ぶ行商人、青銅の錫杖を突く巡礼者といったように、いつも多種多様な人間でごった返しているらしい。


 リリは二人組のことを特徴的と言っていたが、そんなカオス空間の中で彼らが個性のオーラを放てるわけがない。


 じっくり人間観察をするためにも、あまり余裕は残されていなかった。


(……ショートカットするか)


 聖人の力によって割れる海のように、周りの人々は道を開けてくれていた。

 皆、俺に触れたくないのだろう。

 気にせず俺は走り抜ける。


 途中でふと焦点が合ったのは、何処にでもあるような精肉店。


 看板に雄鶏のイラストが入っているから、十中八九ここは鶏肉専門店。

 スモークチキンを陳列するカウンター裏から出てきた中年男性は、多分ここのオーナーなのだろう。

 日々解体作業に明け暮れているからか、巨人のように筋肉質な体つきだ。


 ……ちょうどいい。これでショートカットできる。 


 店に対して、俺は斜めに走り込んでいく。


「――――すいません! おじさん!」

「おいおい止まれ、亜人の兄ちゃん。ここは肉屋だ、あまり埃を立てるんじゃ……」


「――()()()()()()!!」

「は!?」

 お読みいただき、ありがとうございました!


 「面白い!」「続きに期待!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや★評価をよろしくお願い致します!


 執筆のモチベーションに繋がりますので、どうか!


 これからも応援のほど、何卒よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ