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第21話 一念発起

 不意を衝かれ、俺は目をぱちくりさせる。


「……何を決めたって?」

「わたしの目標だよ! それを今決めたの」


「……全世界の肉料理を制覇する、とかか?」

「違うったら!」


 弾かれたように手摺から離れると、覚束無いステップでリリは俺に近づく。


 そして。

 トンッと俺の胸に人差し指を突き立てた彼女は、歯を見せて笑うのだ。



「――亜人が嫌われるなんて理不尽、森羅万象より選ばれし精霊であるこのわたしが到底許さない。

 そんな常識なんか、わたしがこの手で壊してやる!」


「……!」


 俺の中で揺らぎかけた信念が、再び地に杭を打った気がした。

 新鮮な感覚だった。


 多数派に少数派が圧倒されるという、弱肉強食に似た世の真理。

 夢想空想を語ることが過ちで、現実を見ることが正しいことだとする世の固定観念。

 それら巨大な赤壁を、リリはいとも簡単に否定した。


 驚く俺に、彼女は続けてこう告げる。


「精霊騎士、なってあげてもいいよ――契約を交わした以上、キミには力を貸してあげなくちゃね」

「……」


「そもそも、わたしの契約者が超々底辺で見下されてること自体、かなり気に食わないからさ。

 王座リーグとやらまで勝ち上がって、世の愚か者どもをさっさと見返しちゃおうよ」

「……」


「だらしない試合をしたら承知しないよ? キミはわたしという大精霊のパートナーなんだから」

「……ははははっ!」


 思わず笑ってしまった。

 リリの人差し指から流し込まれた熱が、胸腔で膨張して末端神経の隅まで広がっていく。



 心の何処かで諦めていたのかもしれない。

 この穿った世の現状を、ただ漫然と受け入れていたのかもしれない。


 精霊騎士の試験が受けられないから。

 見ず知らずのジャーナリストに金の生る特ダネ扱いされたから。

 その程度のことで、俺は自分が人々から蔑まれ疎まれる存在なのだと認めかけていた。


 でも、違う。

 俺はまだ、この世界に負けちゃいない。


 精霊騎士になって、大会で勝ち上がって、人々の常識をひっくり返す。

 そこまでが、俺の歩むべき通過点。その先にて、俺の好敵手は剣を構えて待っている。


 他人から道標を与えられるのは、俺史上これで二度目。

 どちらの女性も型にはまらず、マイペースに夢を追う馬鹿だった。


 その事実に、思わず俺は笑ってしまう。


「奇妙なこともあるもんだ……あいつと似たようなことを、ただの大飯食らいが言うなんてな」

「え、なに笑ってるの。なんか怖いんだけど」


 どうやら彼女、イタイ発言をする自己陶酔マンが苦手らしい。急に意味深なことを口にした俺から距離を取り、白鶴拳の構えで警戒している。

 その反応がまた彼女らしくて、アホっぽくて、俺は夕空に向かって笑った。

 フードが取れるのも気にせず、笑った。


 天上を旋回していた鳥は人気のない山へと帰り、赤らんだ雲は海のある方を教えてくれるかのように細長くたなびいていた。

 面白い要素なんてどこにもない空だったが、俺にはそれらが途轍もなく可笑しかった。



 やがて。


 気の済むまで笑った俺は、肩から襷掛けした鞘のベルトを整えた。

 フードを被り、着崩れた外套の裾を直し、前を向く。


「……そんなに気になるなら、戻ってみるか?」


「え、どこに?」

「にゃーさんのいたレストランだよ。

 彼女と話したいんだろ? これだけ時間が経ったんだ。たぶん敵さんも引き揚げてる」


「いるかな、にゃーさん」

「さぁな。でも行き先くらいは分かるんじゃないか」


 リスクだらけの提案だった。

 にゃーさんに会える可能性は極僅かであるし、あのレストランから敵が撤退したという根拠もない。


 それでも俺は、相棒の判断に委ねてみることにした。

 おそらく彼女なら、俺と同じ答えを導き出すはずだ。いつのまにか俺はコイツを信用していた……のかもしれない。


 しばらくして。

 リリは結論を出した。



「――――じゃあ、行く。喧嘩しっぱなしでお別れしちゃうなんて、わたし嫌だ!」

「同感だな」


 ニヤッと俺は口角を上げる。

「なら、行ってみようか」


 俺たちは広場を出た。

 太陽はまだ落ちていなかった。


 ルベイルの街は、昼から夜へとその形態を変えようとしていた。人々の活動は段々と緩く、楽しげなものに置換されていく。

 銀行や呉服店は早々に店終いを始め、バールの店長はその日のメニューが書かれた看板を戸口に置いた、観光客ばかりいた馬車道には、チラホラと帰路に着く社会人が現れている。


 そんなマジックアワー手前の通りを、俺とリリは歩いていった。


 足並みを揃え、軽口を叩き合って。

 お読みいただき、ありがとうございました!


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